ラピスラズリ

 寮で食事を終え、部屋でゴロゴロしてから校舎前に向かうと……ガーネット以外に二人いた。

 一人は、大柄で隻腕の男性。もう一人は、薄青い長いストレートヘアの少女だった。学園の制服を着て、背中には『B』の刺繍が施されている。

 アルベロを見るなり目を反らし、なぜかモジモジしていた。

 そんなことを気にせず、アルベロはガーネットの元へ。


「お疲れ様です」

「来たね。あたしたちを待たせるなんて、S級のガキは生意気だね」

「あの、遅刻はしてないし、五分前ですけど……」

「時間が問題じゃない。待たせたことが問題なんだよ」

「えぇー……」


 呆れるアルベロ。

 すると、隻腕の男性がゲラゲラ笑った。


「かっかっか!! 相変わらずめんどくせぇババァだなぁ? なぁ坊主!!」

「うわっ!?」


 アルベロは、いきなり背中を叩かれた。

 左腕しかないのにすごい力だ。

 男性は、逆立った白髪にタンクトップを着て、迷彩柄のズボンに膝まである軍用ブーツを履いていた。身体には無数の傷が刻まれ、顔も傷だらけで片目が完全につぶれていた。まるで歴戦の兵士だ。

 ガーネットは、男性を睨む。


「誰がババァだい? ダモクレス」

「おめーにきまってんだろ若作り婆さん。七十越えてるくせに誤魔化すなって!!」

「えぇぇぇ!? なな、七十!?」

 

 アルベロは驚愕した。

 ガーネットは、どう見ても二十代にしか見えなかったからだ。

 すると、ガーネットは持っていた杖で男性の腹を突く。


「いっでぇ!?」

「くだらないこと言わせるために呼んだんじゃないよ!! アルベロ、こいつはダモクレス……あたしと同格の二十一人の一人で、『戦車チャリオッツ』ダモクレスと言えばわかるかい?」

「……ちゃ、チャリオッツ!? れ、歴戦の英雄!!」

「お? 嬉しいこと言ってくれるねぇ。そう、ワシはダモクレス。最強の召喚士よ!!」


 ダモクレスは、筋肉を見せつけるようなポーズをした。

 ガーネットはくだらなそうにし、それを無視。

 そして、先程からずっと黙り込んでいる少女の背を押した。


「紹介するよ。この子はラピスラズリ……長いからラピスって呼びな。入学式が終わってすぐに倒れちゃてね。そのまま入院生活をして退院したはいいが、すでにクラスの派閥から遠巻きにされて居場所がないのさ」

「お、おばあ様!!」

「友達もできず一人ぼっちでメシ食ってるの見てどうもねぇ……アルベロ、面倒見ておくれ」

「…………」


 アルベロは、ラピスを見た。

 薄いブルーの長い髪、真っ白な肌、顔立ちは非常に整っており、どこか人形めいた美しさを感じる少女だ。アルベロは頭を下げ、挨拶する。


「初めまして。ラッシュアウト男爵家四男。アルベロと申します」


 頭を下げ、貴族の礼をする。

 すると、ラピスもまたスカートを持ち上げ、貴族の挨拶をした。


「ごきげんよう。私はフラグメント公爵家次女、ラピスラズリです」

「こらこらこら。誰がそんなかたっ苦しい挨拶しろって言った。この学園じゃ貴族の上下関係なんてクソさね。実力至上主義。たまたま貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが強い召喚獣持ってるだけのことさ」


 二人の挨拶を、ガーネットはぶち壊した。

 ラピスはくすっと笑い、アルベロに言う。


「おばあ様の言う通りですね。どうか、私のことはラピスとお呼びください」

「わかりました。では、自分のことはアルベロと」

「……同い年ですし、敬語もなしで。お願いします」

「……わかった。じゃあラピスって呼ぶ」

「はい」

「……敬語じゃん」

「あ、その……こっちの方が慣れてて……ごめんなさい」

「いや、いいよ。で……ガーネット先生、これでいいですか?」

「うんうん。上等さね。で、どうだい? 勧誘する気になったかい?」

「いや、まだなにも」

「え? 勧誘……え?」


 ラピスは、アルベロとガーネットを交互に見て首を傾げていた。どうもS級やら勧誘のことやらを聞いていないようだ。

 

「さーて!! 挨拶も終わったし、そろそろワシの授業といこうかのぉ!!」

「そうさね。ラピス、あんたはあたしと授業だ。遅れた分の勉強を見てやるよ」

「あ、ありがとうございます。おばあ様」


 ラピスとガーネットは教室へ。

 そして、アルベロとダモクレスが残された。

 ダモクレスは、首をゴキゴキ鳴らし、左腕をぶん回す。


「授業内容は簡単じゃ!! 実践あるのみ!!」

「……たぶん、そんな気がしてました」

「がっはっは! ではやろうかのぉ……まずはお前の力を知りたい」

「───!!」


 すると、ダモクレスの傍に召喚獣が現れた。

 全身緑色の皮膚、でっぷりしたお腹、腕は丸太のように太く筋肉質で、足も太い。

 足と腕にボロボロの手甲と具足を装備しており、全身傷だらけのヒト型召喚獣だ。

 

「ワシの『タイタン』と闘ってもらおうか!! ふはは、遠慮はいらんぞ!!」

「……わかりました」


 アルベロは、右腕に力を籠める。

 モグの名ではなく、戦うための名を呼ぶ。


「来い───『ジャバウォック』」


 アルベロの皮膚が漆黒の龍麟へ変化、右半身の皮膚を覆い、白目が赤く、瞳が黄金に輝く。

 アベルとの闘いでは無我夢中だったが、今は違う。


「ほう、構えはサマになっとるの」

「一応、実家で格闘訓練は受けましたから……まぁ、さっぱり上達しませんでしたけど」


 アルベロは、一応訓練は受けた。

 格闘、剣、槍、銃……召喚士は召喚獣だけが戦うのではない。どんなに強力な召喚獣でも、召喚士が死ねば消滅する。召喚獣同士の戦いで、召喚士同士が殴り合いするのは珍しくない。


「では……お手並み拝見。行けタイタン!!」

『ブォォォォォッ!!』


 タイタンは雄叫びを上げ、アルベロを睨みつけた。

 不思議と、アルベロは恐怖をあまり感じていなかった。

 モグがそばにいる。それだけで戦う気になれた。


「行きます……!!」


 アルベロは、タイタンに向かって走り出した。

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