第13話 森の主
街を求めて歩き始めてからだいぶ時間が経っていた。
時間にして正午。
剣二達は森を未だに脱していなかった。
「早く見つけないと、また野宿になるな」
「それは困りますね」
「そうだな」
「ぐっすり寝ることもできません」
「あ、そっちか」
「そっち?」
「いや、なんでもない」
正直なところ。剣二のアイテムストレージにはもう食料が残っていなかった。
このままでは飢え死にしてしまう。
脱することができなくても、せめて食料だけは確保しなければいけなかった。
川もなければ動物がいた痕跡も残っていない。
状況は最悪だった。
「どうするかなー」
「あの、剣二様?少しよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「奇妙なのですが・・・」
何かを感じ取ったヒトリアが恐る恐るそれを述べた。
「おかしいと思いませんか?」
「何がだ?」
「モンスターが一匹もいません」
そういえばそうだ。
食料の事を考えすぎていて周りが見えていなかったか。
草原では沢山のサファイアミネラルが湧いていたというのに。
草原より森林の方がモンスターの出現率が低いのはわかるが、一匹もいないのは明らかにおかしい。
こういう時には必ずと言っていいほど、森林の主という存在がいる。
もしかしたら、その主が他のモンスターを退けたのかもしれない。
「慎重に進んで行こう」
「はい、剣二様」
改めて気を引き締める二人。
しばらく歩く二人の前に、光り輝く一筋の川が静かに流れていた。
「ヒトリアどうだ?魚とかいるか?」
「ダメです。一匹もいません」
「そうか」
魚はいなくともこの川の発見は剣二達にとって、とても収穫のあるものだった。
「この川沿いを歩いて行こう」
「川沿いを・・・ですか?」
「そうだ、川沿いを歩いていけば森林は出られるからな」
「そんな逸話があるんですか?」
「まあ、そうだな」
あながち、間違えてはいない。
この世界の文明は向こうの世界に比べて劣っている部分が見られるからだ。
すると、ヒトリアは唐突に剣二に、
「剣二様って異世界から来た人なんですか?」
「・・・なんでだ?」
「あの王様は剣二様のことを勇者の落ちこぼれだって言ってました。勇者は異世界からの召喚された人しかなれないと聞いたので」
そこまでわかっているのなら、尚更黙ってる必要はなかった。
「そうだ、俺は勇者として召喚されたらしい」
「それじゃあ落ちこぼれってどういうことですか?」
「そのままの意味だ。勇者は六宝剣の武器の装備クラスを所有してるらしいが、俺にはそれがなかったからだ」
「剣二様の「刀」も勇者クラスだと思いますけど」
「お世辞はやめろ。勇者クラスの武器はもっと凄いんだろ」
今頃、王都では新たな勇者が召喚されているだろうか。
剣二は何のためにこの異世界にきたのか。
考えるだけでも溜め息しか出てこない。
「俺って本当に何だろうな・・・」
「私は剣二様と出会えてよかったって思います」
「そうなのか?」
「出会わなければ、奴隷生活から脱することなく、毎日がこんなに楽しく過ごすことができなかったので」
笑顔でそう語るヒトリア。
全く、その笑顔一つで何も言えなくなる自分が恥ずかしい。
「剣二様はずっと大好きな剣二様のままでいてください」
「・・・考えとく」
「えー!変わっちゃうんですか!?」
「嘘だよ」
そんな会話を交えながらしばらく歩いていると、川の中に魚が数匹元気よく泳いでいるのが目視で確認できた。
「剣二様!」
「ああ、早速捕獲だ」
「はい!」
腰に備え付けた剣を素早く引き抜く。
「・・・あのな、ヒトリア」
「何ですか?」
「本来、剣はそうやって使わないのわかってるよな?」
「あ・・・もちろんですよ!」
あ・・・ってなんだよ、あ・・・って
完全に剣の本当の使い道を忘れているとしか思えなかった。
だが、そんなことは後だ。
今はこの魚達を捕まえることに全神経を集中させるんだ。
「いくぞ!」
「はい!」
こうして、二人の漁祭りは始まったのだった。
ーーーーーーーーー
「ハァ・・・ハァ・・・クソ、なんで捕まえられないんだ?」
息を荒げてそういうのは剣二。
魚捕獲に奮闘するも中々捕まえられていなかった。
一方、ヒトリアはというと両手に抱えきれていないほどの魚を持って、
「見てください!剣二様!そんなに捕まえました!」
「お前は本当に凄いな」
「えへへ〜」
照れ臭そうに笑うヒトリア。
剣で取った方がたくさん取れるのか・・・?
いや、それをやってしまったら俺が負けたことになる!
邪念を無事に打ち払う。
「ここにはもういないし、もう少し進んでみよう」
「あの、剣二様?」
「なんだ?」
「薪は集めなくていいのですか?」
「それなら大丈夫だ」
何があっても対処できるように薪を「道具」のアイテムストレージに入れておいたのだ。
「さすが、剣二様!用意周到っていうんですかね?凄いです!」
「褒めても何も出ないからな?」
「もう、見返りなんて求めてないですよ」
呆れ返るヒトリア。
しかし、恐怖はすぐそこまで来ていた。
ドシン・・・ドシン・・・
どんなに鈍感でもこの足音に気がつかない者はいない。
そして、木の枝が折れる音。
間違いない。
やつはすぐそこまで来ている。
「剣二様・・・これって・・・」
「ああ、間違いない」
「どういたしましょう?」
「逃げるしかないな。いくぞ、ヒトリア」
「はい!」
駆け足で下っていく二人。
敵が現れるのはどのゲームに置いても一瞬だ。
この世界でもその類からは外れない。
グオオオオオオオ
「きゃー!!!!!」
「急ぐぞ!ヒトリア」
やつの大きさは五メートルを大きく超えている。
その毛深い野獣は見たことのある生き物だった。
「やつは・・・熊だ!」
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