最強クラス『六宝剣』に選ばれなかった異端者

うちよう

第1話 プロローグ

 「やっぱり、太刀つえーよなー!」

 「いや、大剣の方がつよいだろ!」


 何かのゲームの話をしてるのだろうか。

 ここは大学の一号館内。講義が終わり、ぞろぞろと教室を出て行く集団の中にいた男二人組がそんな話をしていた。

 決して盗み聞きではない。聞こえてきたのだ。

 誰が好き好んで、他人の好きな武器など聞きたいと思うか。

 まあそんなことはさておき、娯楽に興じる時間がある人間は羨ましいものだ。

 こちらはそのような時間はないというのに。

 しかし、太刀が強いだの大剣が強いだの武器種の性能を全く理解していない。

 最強の武器?そんなの決まっているじゃないか。

 中距離攻撃ができ、かつ俊敏力もある。

 それに加えて、遠距離攻撃もできる銃や弓といった武器種が強いというのに。

 武器の万能性を理解していないにも、限度というものがある。

 まあ、彼らのゲーム事情は全く持ってどうでもいいのだが。


 さて・・・バイトに行くか・・・


 気が付けば、講義資料を手に持ったまま動きを止めていた。

 急いで講義資料をファイルに仕舞い、一人取り残された一号館を後にした。

 こうして、バイト先に向かったのは大学三年の内宮剣二。

 大学生になると、大抵の人間は茶髪や金髪に髪を染めるのだが彼の髪の色は純粋な黒だった。

 そして、平凡な顔立ち。不細工でもイケメンでもない。

 つまり、普通の大学生ということだ。

 そんな平凡な剣二は、親元から離れて一人暮らしをしている。

 一人暮らしというものは大変なもので、自分で稼がないと親の仕送りだけでは生きていけない。

 元はゲームマニアだったが、今はそんなことをしている時間がなかったのだ。


 久しぶりにゲームしたいな・・・


 ゲームマニアにゲームをする時間が作れないのは致命傷ともいえる。

 現代社会では、ゲームの強依存を一種の病気と考えを改めたぐらいだ。

 剣二の心理状態は、最悪と言ってもいいほどだった。

 だが、今ゲームをしてしまえば、学業どころかバイトにまで影響をもたらすだろう。

 そのぐらい剣二はゲーム欠乏症に陥っていた。


 あー、ゲームがしたい、したい、したい、したい・・・・・


 永遠と呪文のように唱える剣二のバイト先は有名なカラオケ店。

 業務内容と言えば、接客にルーム清掃に調理ぐらいだ。

 例えお客さんが来店しても、ゲームのことを考えながら接客ができる。

 ルーム清掃の時は「ゲームがしたい」とブツブツ言いながら業務をこなし、料理をしながらもずっとゲームのことを考えていた。

 これでも完璧に仕事をこなせるのだ。手慣れたものである。

 そんな剣二の前に二組の男女が入店した。


 「いらっしゃいませ~」

 「優花今日はどうするー?」

 「んー、陽君は?」

 「優花が決めていいよ?」

 「えー」


 いや、良いから早く決めろよ!


 この二組の男女は剣二に正反対の客だった。

 俗に言うカップル。俗に言うリア充。

 見ているだけでもイライラした。

 剣二にはそんないちゃつく相手すらおらず、娯楽に興じる時間もない。

 自分が持っていない物を他人が持っていると、人間誰しもイライラするものだ。

 そして幸せそうな雰囲気を醸し出していると、破滅を願うのも人間という生き物だ。

 もちろん、剣二も例外ではなかった。



 当てつけか?こら。リア充はさっさと爆発しろ!


 だが、相手はこれでもお客様で神様だ。

 そんなことは言えるはずもなくこの男女をルームに案内した。


 「はあー、俺もリア充したいなー」


 剣二にとってのリア充というのは、毎日恋人とイチャイチャし、かつ毎日ゲームやり放題を指す。

 そんな夢のような生活は今の生活では到底叶うことはない。


 「はあー、どっかに幸せ落ちてねーかなー」


 バイト中にそんな余計なことを考えていたものの、その後も周りに迷惑をかける失態はもちろんなく、その日も何事もなく退勤した。

 だが、一人暮らしの本番はこれからだ。

 そう、帰宅してからは自分で自炊をしなくてはならない。

 コンビニの弁当ばかりでは体に良くないし、それに自炊の方がコンビニ弁当より安くつく。

 一人暮らしの大学生は安さを重視するのだ。

 とりあえず、いつものスーパーに直行で向かい、もやしと豚肉を手に取る。

 それに出来上がった千切りキャベツの袋を手に取る。

 これで夜ごはんの食材は手に入った。

 いつものレジのおばちゃんに会計をしてもらい、袋に食材を詰めて帰宅する毎日。


 「俺の人生って楽しいのかな・・・って言うまでもないか」


 ふとそんなことを思う。

 学校行って、終わったらバイトに行き、いつものスーパーに寄る。

 どう考えても楽しいものではない。

 まあ恋人ができたら少しは変わると思うのだが、サークルにも入っているわけでもなく、出会いは絶望的だった。

 そんなことを考えながらも家に着くなり、さっそく料理を始める。

 焼き肉のたれを使って、豚肉ともやしを炒める。

 余ったとこにキャベツを入れたら今日の晩御飯の完成。

 お米は以前に焚いて、余ったものを冷蔵していたものがあったのでそれを頂く。

 いつもこれで一日が終わる。

 娯楽に興じる時間など当たり前のようになかった。


「今日は何もしないでゲームしようかな?」


 そろそろ我慢の限界だった。

 自分へのご褒美という建前で、剣二は食器を片付けないでゲームをやりだした。

 久しぶりに開くオンラインゲーム。

 最終ログイン日を確認してみると・・・


 「んげ!約二年前かよ」


 大学の入学と同時にと言ったところだろう。


 そんなにゲームしていなかったのか。

 我ながらよく我慢したと思う。


 さっそくログインするも、事件が発生。


 「俺、ギルドから退団させられてるやん」


 まあ、二年もやってなければな。


 誰もいない部屋で一人虚しくハハハと笑う。

 そんなことを思いながらも、さっそくモンスターの討伐を行う。


 「久ぶりだな。倒せっかなー」


 ゲームの感は意外と鈍らないもので、モンスター討伐はあっさりとできてしまった。


 「我ながら凄いな・・・弓やっぱ強いよなー。でもパートナーに大剣とか高火力出せる奴いないときついなー」


 確かに弓は強い。

 だが、ほとんどのゲームは大剣や太刀がソースになっている。

 だから、弓使いは援護に回らないといけない。


 「しょうがない。パートナーに大剣使いを入れて、このやったことのないモンスターを討伐しよう」


 その時だった。

 このゲームでは聞いたことのないBGMが流れてきたのだ。


 このゲームにBGMなんてあったっけな?新しく実装されたのか?


 一定期間ゲームをプレイしないと見たことのないモンスターが実装され、新機能が追加されているのはよくある話だ。

 剣二もその例外ではなかった。


 「今日はやることが多そうだ!」


 こうして剣二はゲームに没頭し、挙句には寝落ちしてしまったのだった。

 あのBGMが、ただのBGMではないことに気が付かないまま・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る