西方地域──とある荒野の二人の召喚者①

 これは、ナックラ・ビィビィが西方地域の、地図作り依頼を受ける以前のお話し。


 西方地域の荒野──星の輝く夜、焚き火の前に寄り添い座る。

 アチの世界から邪悪な魔王を倒すために、魔導召喚された、高校生の男女がいた。


 いきなり、別々の場所からレザリムスに闇魔導士たちの力で召喚されて。

 特殊能力がある、アチの世界からの召喚者たちと、パーティーを組まされ凶悪な魔王軍との戦いを強要され。

 そしてついさっき、勝利して凶悪な魔王を倒すコトに成功した──仲間たちの犠牲を払って。


 顔や手足に傷を負って、ボロボロの格好になったアチの世界から強制召喚された、女子高校生か疲れた声で呟く。

「みんな死んじゃったね……召喚された仲間は」

 女子高校生と同じように無理矢理、異世界に何の前触れもなく転移させられ。

 聖戦士の格好で戦わされた、男子高校生が言った。

「あぁ、みんな死んだ」


 男子高校生は片腕を、女子高校生は片脚を失っていた。

 流星群を眺める女子高校生の目に涙が溢れる。

「帰りたい……元の世界に、あたしたちこれで帰れるの?」

 男子高校生は、何も答えられなかった。

 邪悪な魔王を倒すためだけの、使い捨ての召喚者。

 片脚を失った剣士姿の女子高校生を、男子生徒は自分の方に引き寄せる。

 焚き火の揺らぐ火を眺める、女子高校生の目が涙でかすむ。


 男子高校生が鍋に残っていた、草食ドラゴンのスープ肉をフォークを持った片腕で苦労しながら皿に盛り。

 一緒に旅を続けるうちに親しくなった、女子高校生に手渡す。

 スジ肉が盛られた皿を、受け取った女子高校生は一言。

「ありがとう」

 と言った。

 男子高校生は片腕で、電池が切れたスマホを取り出して眺めた。

 激しい戦いの連続で、スマホの画面は割れている。

 女子高校生は鎮痛薬草が途切れた、切断されて包帯が巻かれた片脚の痛みに耐えながら。

 男子高校生が眺めているスマホについて訊ねた。

「それ、まだ持っていたの? この世界じゃ使えないのに」

「最初は旅の日記や写真を残すコトや、ダウンロードしたモノとかも見聞きできたんだけれど……電池が切れてからは中に入っている記録を取り出せなくなった」


「あたしは、ずっと前に使えないスマホを売っちゃって、お金に変えちゃったけれど……レザリムスでは、使えないスマホでも異世界からの珍品収集目的で買う人もいるんだって」

 男子高校生は、画面が割れて今は無用の長物になったスマホを眺めた。

「東方地域に行けば放電生物の電気を利用して、お金を払ってスマホの充電ができる場所もあるって聞いたコトあるけれど……レザリムスではそこまでして、充電する必要ないから」


 片方の膝を抱えた女子高校生が、悲しそうな声で呟く。

「あたしたち、ずっとこの異世界で生きていくのかな? アチの世界に帰りたい、家族に会いたい」

 片腕を失った男子高校生は唇を噛み締める。

「退屈で平凡な生活を送れるコトが一番の幸せだったんだ……もっと早く気づけば良かった」

 女子高校生がパスケースに入った、ボロボロの写真を取り出して見せる、アチの世界で女友だちと顔を寄せた笑顔で、駅前広場のような場所で自撮りをしている写真だった。

 女子高校生の背後には、特徴的な銅像があった。

 女子高校生が、男子高校生に質問する。

「この写真の場所を知っている?」

「もちろん、自宅から一番近い駅の広場だ」

「ねぇ、もし自分たちの世界に帰れたら。この銅像の前で待ち合わせて会わない? 日時と場所をお互いに決めて」

 男子高校生が、うなづく。

「もどれたら、その銅像の前で日時を決めて会おう。魔物がいない平和な世界にもどれたなら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る