02 プリンセス、お外に出る

 外に出ようと思った。


 ただ、窓は、仕切りは開いたけど窓そのものは開かなかった。何か特別な仕掛けを施さないと、開かないのかもしれない。かなりの高さだった。


 この眺めを見ていたいけど、それよりも、この景色の中のものを、ひとつひとつ、見てみたい。どうせ夢ならば。夢が覚める前に。この夢の世界を、心のままに感じとりたい。


 外へ出る場所を探した。


 襖があるので、開ける。


 箱が三つ。宝が入っているのだろうか。一番上を開けてみる。服。上着だろうか。真ん中。今度はスキニー。これは下に履くもの。一番下。なんだろうか。これは。下着、なのかな。


 他の扉も、開けてみる。大したものは、見つからない。


 他よりも一段低い扉。開けてみる。


「あっ」


 風を感じる。別な通路に出た。扉が、たくさんある。


「これは、廊下だわ」


 城なのか。ここは。階段を探した。すぐ隣。


 走って、降りる。現実では走ることなど許されていないけど。夢の中なら、王女という立場もない。狩りをしたり園遊会のときに隠れて走っているので、体力に自信はあった。舞踏会でも、誰よりも長く踊っていられる。


 外の景色。階段を降りながら、見える。太陽に照らされて、どこまでも美しい。


「ああ」


 はやく。はやく外に出てみたい。


 降りた。


 突然、外の景色が見えなくなった。


「あら」


 少し暗い。


「これは」


 この階段。地下の隠し通路と繋がっている。


「何て不用心なの」


 階段と繋がっていたら、地下に隠し通路を作る意味がないじゃない。


 上がって、地階らしきところで、エントランスを探す。


 広い場所。おそらくここが、エントランス。


 抜けようとして、気付く。


 番人の衛兵。女性。


「あなたが、番人なの?」


 声をかける。


「え?」


「あ、ああ。ごめんなさい。ねぼけていて」


 そうか。夢の中だからといって、全てが私の思う通りにはいかないんだ。さっきも、窓は開けられなかった。


「お外に出ても、よろしいかしら」


 挨拶にスカートの端を持ち上げようとして、気付く。


「あら」


 男装してる。スカートじゃない。胸には、何か柔らかなものが当たっている。さっきの箱の一番下。下着だったのね、やっぱりあれは。


 ええと、どうしようかしら。


「あの。ここは、お外に出られるのよね?」


「ええ。出られますけど」


「お外から入るときは、どうすればいいのかしら?」


「あ、暗証番号をお忘れですか?」


 暗証番号。なにか、符丁のようなものか。


「ええ。お外から帰ってこれなくなると、困るので」


「指紋認証はしてますか?」


「指紋?」


「指です。ちょっと待ってください」


 女性衛兵。奥に引っ込んで。


 何か、魔術儀式に使う台のようなものを、持ってきた。


「ここに、親指を」


「え」


 なにやら、変な光を出している。これは、見たことがある。魔獣やドラゴンの迷信を若い貴族が信じ込んで集めたりする、嗜好品だ。この衛兵は、存在しもしない魔術的儀式が趣味なのか。


 そおっと、親指を出す。


 光と音が出る。


「あら。登録済みですね。ええと、9011の菅原看緑すがわらみどりさん。お帰りの際は、こうやって親指をあそこに当てれば帰れますから」


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