膨れ上がる不安
アリスは頭が混乱していた。優希をワナに嵌める作戦は成功に終わり、『吸血鬼事件』は無事に解決へと向かったはずなのに、脳裏の片隅に引っ掛かるものがあるのだ。
『事件の被害者二人は、共にカミラに好意を抱いていた──』
さきほどきららから聞かされた話が、頭を混乱させる要因だった。
ひょっとしたら、あたしたちは何か大きな勘違いをしているんじゃ……。
新たな疑問が頭に浮かんでくる。
もしかしたら、この事件の真犯人は別にいて……。
しかし、すぐに自分の考えを否定した。
いや、そんなはずはないか……。だって犯人は彼で決まっているんだから……。彼以外が犯人だなんて考えられない……。
頭の中で思考が二転三転する。混乱するばかりで、思うように考えが上手くまとまらない。
だいたい被害者はみんな女子高生なんだから、男の優希が犯人で間違いないはず──。
そこまで思考が進んだとき、アリスの脳裏にきららが言った言葉が思い浮かんだ。
『カミラの恋愛志向は女性に向けられている』
その瞬間、頭に電気ショックが走った。光速のスピードで伝達信号が脳内を駆け巡っていく。アリスはある可能性について閃いたのである。
今までは、被害者二人が女子高生だったから──つまり被害者が『女性』だったから、てっきり犯人は『男』だと勝手に思いこんでしまっていたけれど、もしも犯人が『女性』だとしたら──。もしも『女性』の犯人が、『女性』の被害者を襲っていたとしたら──。
今まで考えていた事件の図式ががらりと変わる。コペルニクス的な発想の転回だった。
もしも、この街に『女』の吸血鬼がいたとしたら──。もしも、その『女』の吸血鬼が女子高生を襲っていたとしたら──。
アリスはようやく事件の本質に考えが至ったのだった。
犯人が『女』の吸血鬼だとしたら、きららが抱いていた疑問についても合理的な説明が出来る。なぜ二人の女子高生は夜に外出したのか? 会いに行った相手が『女性』だったからである。『女性』に会いにいくのならば、夜だとしてもそこまで警戒したりしないはずだ。しかも被害者は『その女性』に対して好意を抱いていたのだ。だとしたら、なおさら疑う気持ちなんて持たないはずである。
頭の中で事件の全貌が徐々に見えてきた。
ということは、『彼女』が真犯人ということになるの? つまり『彼女』の正体は『吸血鬼』ということなの?
そこまで考えたところで、新たな疑問が生じた。
でも、それじゃ『彼』はどうなるんだろう? 『彼』は吸血鬼じゃないっていうことなの? でも、橋塚俊実くんが屋上で催眠術を掛けられたのは事実だし、今夜カミラさんが襲われたのだって……。
一度は収まりかけていたはずの頭の混乱が、再度ぶり返してきた。
これっていったいどういうことなの……? もしかして、今この街には──吸血鬼が『二人』いるっていうことなの……?
思考は五里霧中のまま、解答がまったく見出せずに、頭の混乱はさらに拍車が掛かるばかりだった。そして徒に時間だけが過ぎていくことに、そのときアリスはまだ気付いていなかった──。
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