九月十五日 耳の遠いおばあさん

九月十五日 火曜日 晴 


 妻から夕食にとあるお店のコロッケが食べたいとのリクエストがあり買いに出かける。少し遠出をするので移動手段はバスだ。買い物が済めば妻と合流して今日も息子を迎えに行く予定だ。


 バスでは走行中におばあさんが運転手に道を尋ねていたのだが、おばあさんの耳が遠くちょっとしたトラブルになっていた。運転手さんが返答しても、質問しても「聞こえない」の一点張りで運転手さんに尋ね続けるのだ。さすがに運転中のやり取りは危険だと感じたらしく、運転手さんはさかんに着席を求めるが、それもまた聞こえないと言う。仕方なく運転手さんはバス停に止まり決着はついたようだった。


 耳が遠いのは難儀な話だが、運転中に声を掛け続けるのは流石に危険だ。少しざわつきもあったが、そのおばあさんは目的地であろうバス停で降りていき再びバスに静寂が戻った。その後コロッケは無事購入できたので妻の帰りを近くのマクドナルドでコーヒーでも飲みながら待つことにした。


 一つ離れた席に赤ちゃん連れの女性が座りスマホをいじっていた。少しやつれたお母さんだ。きっと育児の合間に落ち着く時間が欲しくてマクドナルドに来たのだろう。そんな親のことなど露知らずと赤ちゃんは暇そうにトレーで机を叩いたり、その上の紙を次々といじりだす。さすがにトレーを落としたときには母親は拾ったが、きっと疲れているのだろう、力なくトレーを拾い再びスマホをいじりだした。


 妻からの連絡も入り息子を迎えに行く。昨日と同様に息子は機嫌が悪かった。今日も疲れているのだなとは思ったが、言うべきことは言っておく。案の定、「お母さんが好き」が出た。しかし、今日は少し事情が変わり妻も叱った。そして出た言葉。


 「お父さんが好き」


 息子よ、コウモリは嫌われるぞ。そして「好き」が軽いぞ。ひとまず息子が早く心身ともに休めるようにと努力しよう。

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