冷たい青いハートの四天王【ディラハン伯爵】の死と誕生②〔海軍師団長『惑わしのセイレーン』誕生〕

 片側半身不随のディラハン伯爵が病室から。こつぜんと消えて数週間が経過した。

 ディラハン伯爵を担当していた医師も首をかしげる、不可解な失踪だった。

「あの体でどうやって?」


 挙式を三日後に控えた、皇女セイレーンは中庭のバラ園でバラに水を与えていた。

 太陽の光りを反射している水滴も、セイレーン皇女の結婚を祝福しているようだった。

 バラの花に水を掛けながら、セイレーン皇女は事故を起こしたディラハンのコトを考えた。

(まさか、わたくしの婚約発表があった日の夜に、事故だなんて)


 セイレーン皇女はディラハン伯爵にも、挙式の招待状を送る予定だった。

 半身不随になってしまった、ディラハン伯爵の容態が安定したら見舞いに行くコトも、セイレーン皇女は考えていた。

 セイレーン皇女は、大学で海洋生物学を学び。人類が原因の海洋汚染に憤り〔いきどおり〕を感じていた。

(人間さえ存在しなければ……海は何億年でも美しいままなのに……人間さえ存在しなければ)


 セイレーン皇女の口から、思った言葉が無意識の呟きでこぼれる。

「人間さえ存在しなければ……海も美しいままなのに」

 その時──セイレーン皇女は背後からの視線を感じて振り返る。

 バラの茂みから半身を覗かせた、ディラハン伯爵が立っていた。

「ディラハン伯爵? どうして?」

 疑問視しているセイレーン皇女に、ディラハンが質問する。

「突然ですが、セイレーン皇女は平民男性とのご結婚を、本当に望まれていらっしゃるのですか?」


 立っているディラハンの姿に、驚き困惑している状態のセイレーン皇女の口から、誰にも話さずに心の奥底に留めていた本音が漏れる。

「実は挙式を三日後に控えて、少し悩みが生じています……わたくしは本当に、あの方を心の底から愛しているのかと……このまま婚礼をしても良いものかと、

あの方の本心もわたくしを心の底から、本当に愛してくれているのかと」

「そうですか……本音が聞けて良かった」

 機神ディラハンの顔に不気味な笑みが浮かぶ、ディラハンが言った。


「セイレーン皇女の海に対する想いと、人類に対する憤り……確かに聞きました、わたしがその悩みから解放してあげましょう……海の機神になりなさい、セイレーン皇女」

「えっ!?」


 茂みから出てきた、半身機械体の体に恐怖するセイレーン皇女。

「ひっ!?」

 バラの茂みに潜んでいた金属のバラ蔓が伸びてきて、鋭い刺針をセイレーン皇女の首筋に刺して、セイレーンは意識を失った。

 セイレーンは、バラ園から姿を消した。


 そして、数時間後の機神天國──液体が満たされた、円筒の強化樹脂カプセルの中に浮かぶセイレーンの姿があった。


 口には酸素吸入の透き通ったマスクをした、セイレーンは虚ろな目をした上半身裸体姿で、カプセルの中に浮かんでいた。

 セイレーンの下半身は無惨にも、背骨と尾てい骨が露出していて。

 手術マニュピュレーターが処術する、機神化手術で内臓が引っばり出され。

 銀色のフレキシブルチューブが何本も、体内に埋め込まれた機械に接続されていた。

 機神化手術が施されている、セイレーンにディラハンが訊ねる。


「どんな気分ですか?」

 恍惚とした表情で答えるセイレーン。

「素晴らしく清々しい気分です……わたくしの体から汚物が詰まった、汚ならしい臓器が取り除かれているのですね……

悩みや苦しみも一緒に取り除かれていくようです。

もっと、もっと、汚ならしい人の臓器を排除して、体の中を機械で満たしてください」


「あなたは、生まれ変わったのです……機神の海軍師長『惑わしのセイレーン』として。

わたしの、部下になりました。美しい機械の人魚に変えてあげます」

「あぁ……四天王ディラハン伯爵さま」


 機神化手術が終了して、人魚体に変形可能な下半身を手に入れてカプセルから出てきたセイレーンは、四天王・ディラハン伯爵の前にひざまずいて言った。


「機神天國四天王……ディラハン伯爵に、この海軍師団長『惑わしのセイレーン』──終生変わらぬ忠誠を誓います」

 ここに、機神天國の海洋機神を指揮する海の師団長、惑わしのセイレーンが誕生した。



冷たい青いハートの四天王【ディラハン伯爵】の死と誕生②〔海軍師団長『惑わしのセイレーン』誕生〕~おわり~

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