第十話 宿命が彼の名を呼んだなら-10

「カミキリィィィィィィィィッ!」


 我を忘れて雄叫びを上げるハサミ。

 だが、カミキリの斬撃はハサミのメッシュブレードを両断し、放たれた真空波の衝撃でハサミは弾き飛ばされる。


『ハサミ!』

「馬鹿野郎!」


 フモウが飛んできたハサミを身体で受け止めるが、勢いを殺しきれずに背後の自動車に衝突する。


『恩に着るぜフモウ! ハサミは無事か!?』

「ああ。刀傷を受けたような形跡はない。気を失っているだけのようだ」


 フモウはハサミの様子を確認し、傾狼は安堵する。


「私の刀は柔肌すら斬れぬ鈍らだが、EXスタイルを封じる特性がある。今の右左原ハサミはエクステンドではない。エクステンドにとって髪は命そのものだ。髪を失ったということは死んだも同然。故に私はこれ以上、君たちと争うつもりはない」


『…………』

「ならば、何故我々に挑むようなことをする!」

「私は囮だ。断髪式を私が一人で相手取り、その隙に私の部下たちがスカルプリズンの各所を襲う。アフロスたちは陽動の陽動だったという訳だ」

「フモウ隊長! ハサミ副隊長! 聞こえておりますか!?」


 フモウの通信機に本部で待機させていた断髪式の隊員から連絡が入る。


「どうした?」

「大変な事態が起きました! スカルプリズンの様々な場所で同時にCOMBが襲撃を始めて既に四つの施設が占拠されてしまいました!」

「四か所も占拠されただと!? 他の隊員は何をしている!」

「それが、本部に残っていた小隊長の方々もそれぞれ現場の対処に向かったのですが、どうやら、今回の襲撃はCOMBの幹部が直々に行っているものらしく、幹部たちには全く歯が立たなかったようです!」

「ええい、情けない奴らめ! まだ全員生きているか!」

「確認したところ、死者や重篤な負傷者はいないようです! 今のところ、COMBに市民が人質を取られてているという報告もありません!」

「わかっているな、市民の命は最優先だ! だが、同様に貴様らの命も代わりはない! 私が戻るまでは一人も死ぬな! これは命令だ!」

「りょ、了解です!」


 フモウは部下の返事を聞いて通信を切る。


「自分が置かれている状況を理解出来たか?」

「貴様、何が狙いだ! 貴様の要求はWIGの解体ではなかったのか?」

「今までのテロは断髪式の戦力を削減するために起こしたものだ。我々はこれよりスカルプリズンの武力制圧作戦を始める」

「要求を飲まないことを見越して力尽くでスカルプリズンごとWIGの支配しようとしているのか!」

「作戦開始の狼煙としてCOMBの幹部が今回占拠した東西南北の四地点を起点にスカルプリズン全域へ侵攻する。君たちは指を咥えて見ているが良い」

「ふざけるな! そんな作戦、私が一人で蹴散らしてくれる!」

「EXスタイルを持たない君には不可能だ」


『ハサミにも不可能だと言うのか?』


 突然、傾狼が声を上げる。


「……右左原ハサミもたった今、EXスタイルを失った」

『だけど、まだハサミの闘志は死んでねえ!』

「帽子、貴様はカミキリに何を訴えている……」


 フモウは傾狼を気絶しているハサミの頭に載せる。


「君と右左原ハサミにCOMBを止めることが出来ると言うならやってみろ。幹部四人全員を倒したならば、私はもう一度君たちと戦ってやろう」


 カミキリはそう言い残して地下駐車場から去ろうとする。


「逃がしはしないぞカミキリ――グフッ!」


 フモウは立ち上がろうとするが、ハサミを庇って背中を強く打った影響で身体に激痛が走り、カミキリを追いかけることは出来なかった。

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