第五章・ご都合的な戦闘空間とド根性の銅色ロボットと姿が少し怖い怪人ヒーロー
① 二番目に強いやつら
その日──老人姿で顔にパンダ目と猫ヒゲを落書きされた勇者メッキが、緋色軒の床をモップで拭きながら。厨房で餃子の具を皮で包んでいる極神狂介に質問した。
「そう言えば前から気になっていたのだが、このアチの世界のヒーローの中で一番強いヤツって誰なんだ? 巨大ヒーローは除いて」
「一番強いヒーローか、そりゃ決まっているだろう」
狂介は白い歯を見せて笑うと、自分を親指で示した。
軽く無視して、質問を続けるメッキ。
「二番目に強いのは、どいつだ?」
「二番目か……強さにもいろいろな分け方があるから一概には言えないが、オレが知る限り最強の部類に入る一人は【モリブデン】だろうな……液体から気体や固体、あらゆる物質に肉体を変えられる。モリブデンは強い」
「どんなヤツなんだ?」
「画像がある」
狂介が取り出したスマホ画面を見たメッキが、大声を発する。
そこには、フルフェイスのバイクヘルメットのような頭をした、オレンジ色と緑色のマダラ模様の怪人の画像があった。
「ほとんど化け物じゃねぇか! 強い一人と言ったな。他にも二番目に強いヤツがいるのか?」
「オレがモリブデンの他に強いと思うのは【カッパーロボ】だな、銅色のレトロなロボットでスクラップ置き場に住んでいる……最近は見ないけれど」
「そんなに強いのか? カッパーロボとか言うヤツ」
「強いというか、厄介なヤツというか……あまりアイツとは、かかわり合いたくない。まぁ、二番目に強いヤツってのはその二つかな」
「ふ~ん、モリブデンとカッパーロボか……よし、今日も床掃除で一日一善したぞ」
ボンッとメッキの体が白い煙に包まれて、老人から若者の姿に変わる。
「やっぱり、若い体は楽でいい……ジジィになると、体に妙な痛みが走る」
若者のメッキが体を動かして軽く運動していると、買い物に出ていた緋色と若い魔女の桜菓が緋色軒にもどってきた。
「ただいま、店に入る前にチラッとカッパーロボの名前が聞こえたけれど……まさか、店に入れたんじゃないでしょうね狂介」
三角巾を頭に巻いて凄む緋色に、狂介は全面否定する。
「入れてない、入れてない、誰があんな危険なヤツを厨房に入れるか」
緋色と狂介のやり取りを聞いていた、メッキが質問する。
「カッパーロボって、そんなに危険なヤツなのか?」
「以前、店の厨房で大暴れされたコトがあってな。食器を大量に割られた」
「あの時は、本当に大変だったわよね店の中で『暴走モード』発動されて……で、二人はカッパーロボの名前を出して、何を話していたの?」
狂介はメッキと、強いヒーローは誰かの話しをしていたと緋色に伝えた。
狂介の話しを聞いた緋色は、野菜の入った買い物カゴをテーブルの上に置いてから言った。
「ふ~ん、モリブデンとカッパーロボねぇ……あたしは、強いヒーローに【恒河沙】も入れたいな」
「恒河沙〔ごうがしゃ〕って、あのガンメタル色をした。ご都合的な戦闘空間発生マシンか? アイツ自体は強くないぜ」
「発生させる、戦闘空間が時として強いでしょう……遊園地みたいな場所とか、宇宙みたいな場所とか。実際に狂介は、あの空間の中で一度も怪人に勝ったコトがないじゃない」
「あ、あれは……ご都合空間の中では、怪人が1・5倍の強さになるから」
「挙げ句の果てには、勝てないからムキなって泣きながら怪人に向かっていったメタルスーツの狂介に、怪人の方から『もう、よさないか。おまえが勝ちってコトでいいから』って同情されていたわよね」
「うっ……いやなコトを思い出させるな」
じっと、緋色と狂介の話しを聞いていた桜菓が言った。
「あたしは、アイドル格闘家か。格闘アイドルかよくわからないけれど。【水浅木音恩】〔みずあさぎねおん〕を強いヒロインとして一押ししたい」
「あぁ、あの最近ネットで動画配信されているヒーロー新人の子ね……強さは未知数だけれど」
「白玉栗夢や青賀エルも強いけれど、ヒーローじゃないから。栗夢は怪人だから除外した」
そう言って、桜菓は腰のベルト小箱が取り出した、赤い渦巻きのナルトを一枚食べて白煙の中でボンッと、太った老婆の姿になる。
緋色が言った。
「思い出した、商店街で聞いた噂話なんだけれど、また戦慄戦隊【ジャアクマン】の連中が真緒くんを狙って、動きはじめたみたいよ……気をつけてね狂介」
「ジャアクマンか、あの町の害虫が」
メッキが狂介に質問する。
「ジャアクマンって何だ?」
「リーダーはジャアク・コックローチ、
ジャアク・モスキート、
ジャアク・ドクガ、
ジャアク・マダニ、
ジャアク・コバエの5人で構成された、戦隊ヒーローを名乗っている最低の連中だ。巨大ロボットに乗って巨大化前の怪人を平気で踏みつける」
エプロンをして厨房に入る緋色。
「狂介、もしも真緒くんがジャアクマンに襲われている場面に遭遇したら、ジャアクマンの連中を追っ払って真緒くんを助けてあげなさいよ……真緒くんたちは、うちの店のお得意さまで。狂介の銀河探偵ザ・ステンは毎回、遊んでもらっている立場なんだから」
そう言って、緋色はキャベツの千切りをはじめた。
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