⑤赤ちゃんだったマオマオくん、こんなに大きなヲタクになりました
真緒の幼馴染みで同じ高校に通う怪人衆の一人『暗闇果実』はカリカリした様子で、真緒の先に立って歩き。
真緒は慌てて後を追う。追いつき並び歩きながら真緒は果実と会話する。
「学校がもっと近くにあればいいのにね、亜区野組織所属の怪獣か巨大ロボットを使って、夜中にこっそり数センチづつ魔王城の方に動かしてきて……一年後には魔王城の隣に学校が移動」
「バス亭じゃあるまいし、すぐにバレる。だいたい、そんなコトしたら家が学校から遠ざかって困る生徒も出てくるでしょう……あんた、いつも自堕落に部屋でアニメばかり観ているんだから。楽ばかりするコト考えていたら今よりダメ人間になる」
果実はチラッと横目で、イケメンな幼馴染みの顔を見てタメ息を漏らし呟く。
「はぁ……こういうのを、残念なイケメンって言うんだろうな」
真緒と果実が進む道路の前方に一台の大型トレーラーが、道をふさいでいた。
それを見た果実が、面倒くさそうな顔で呟く。
「毎日、毎日懲りもせずに……また、今日もヒマな大人の遊びにつき合わないといけないのか」
トレーラーのコンテナの上から男性の声が聞こえてきた。
「待っていたぞ、魔王の息子!」
逆光シルエットで人相がわからない、男性が一人コンテナの上に立っていた。
男はコンテナから「とぉぉぉっ」と叫んで、真緒たちの前方に飛び降りてくると逆光状態のまま、ポーズを決める。
真緒が逆光でジャケットを着ている男性に向かって頭を下げる。
「極神さん、おはようございます」
逆光男も頭を下げる。
「あぁ、おはよう……って、そうじゃないだろう。マオマオ今日こそおまえを倒す!」
「極神さんのチャレンジ精神には、心底すごいなぁって思います……ボクも応援していますから、頑張ってボクを倒してください」
ここで、さすがに呆れ返った果実が横から口を挟む。
「マオマオ、おまえ少しどいていろ……おまえがヒーローと会話をすると、ややこしくなる……ちゃっちゃと片付けて学校行くから」
「え──っ、もう少し極神さんとお話しさせてよ」
真緒はキュルキュルとした聞こえない超高速会話で、銀河探偵・極神狂介に質問する。
「出前で食べ終わった丼の回収中なんでしょう。油を売っていて、早朝営業しているお店の方は大丈夫? どうして逆光モードなの?」
真緒と同様に超高速会話をマスターした狂介が、超高速スピードで返答する。
「緋色軒の方は、パートナーの『緋色』が、おまえのところの夜間勤務戦闘員の客の接客と、厨房で中華鍋を炎の前で振っているから大丈夫だ……オレが逆光なのは、ヒーローは夕日の中から現れるのが定番だからだよ」
「今、朝だよ」
「うっせい、男だったら細かいコトを気にするな……だいたいだな、おまえのところの親父がこの世界で、悪の組織を改心統合させちまったからいけねぇんじゃねぇか……ヒーローと悪もどき、が戦った大戦で敗北したヒーロー連合に、オレと戦っていた組織の怪人と幹部から『過去の遺恨は忘れて、ヒーローでもいいから、オレたちの組織に来て一緒に世界を平和にしないか』って誘われた単品ヒーローの惨めさが、おまえにわかるか!」
「うん、それはわからない……だって、大戦が勃発した時、ボク小さかったから」
「ツッコミどころはそこじゃねぇ! まったく、おまえと話していると調子が狂う……疲れるからそろそろ、超高速会話モード終了するぞ」
逆光モードを解除して、通常会話モードにもどった狂介は、片手を空に向けて言った。
「覚悟しろ、魔王の息子! 爆!〔バオ!〕」
空から照射された、金属粒子の光の柱が狂介の体を包み。
狂介は熱風サウナ並みの熱射に咆哮する。
「ぐぉぉぉぉ! あぢぃぃぃぃ!」
0・3秒で極神狂介は、戦闘メタルスーツの装着を完了する──今回は片身分だけの装着だ。
「刻んで炒めて、へいっ、お待ち!『銀河探偵ザ・ステン』……って、今回は片半身かよ!? おまけに、ゴクドーブレードの装備も無いじゃないか……緋色のヤツ、装着金の振り込み金額ケチりやがったな。まぁいい、おまえたちの相手なら半身の戦闘メタルスーツで十分だ」
狂介の言葉にカチンときた果実に、一気に戦闘モードのスイッチが入る。
「マオマオ、少し離れていろ……怪人化する必要もない」
果実は狂介に向かって、手の平を上に向けると「かかってこい」のポーズをとる。
女子高校生の挑発に、本気になる銀河探偵の大人。
「ヒーローをナメるな! 女子高校生! 数分で片付けてやる!」
数分後……暗闇果実にボッコボッコにされ、メタルスーツ解除で地面にうつ伏せで倒れ。
「ちくしょう、ちくしょう」
と、瀕死の虫状態で悔しがる極神狂介の姿があった。
果実がスカートの埃を払いながら真緒に言った。
「学校行くよ……また、つまらないヒーローをボコッてしまった」
「うん、極神さん、またお店にラーメン食べに行くからね」
真緒の言葉に狂介は倒れたまま。
「おうっ、待ってるぜ」と、返答した。
並び歩きながら、真緒が果実に言った。
「果実ってスゴいね……吸血コウモリの怪人に変身しなくても強いんだから」
真緒の言葉に足を止めて、真緒を睨みつける果実。
「あのねぇ、何度も言うけれど」
暗闇果実の顔が鼻先が突き出た、狼のようなコウモリの顔に変わる。
「あたしは、果物を主食にしているフルーツバットの怪人……血なんか吸わないから、ほらっ鼻が尖っているでしょう」
トレーラーが走り去り、真緒と果実の姿が離れて見えなくなると、倒れていた狂介は立ち上がり。
回収した丼が入った岡持ちを提げて、近くのドリンク自動販売機に硬貨を入れて希望商品のボタンを押した。
自動販売機の中でガタンと音が聞こえただけで、購入した商品は出てこない。
軽く握った拳で自動販売機をコツンと叩いてみても缶は出てこない。
「ちくしょう、自動販売機にまでバカにされた……ついてない、こんなんじゃオレの心のエンジンに着火しねぇ」
狂介が歩き去って数分後──自動販売機の取り出し口からゴトンッと缶飲料が、外に転がり出て白煙が缶の中から吹き出した。
煙の中から老人の声で咳き込む声が聞こえてきた。
「コホッコホッ、ここが星形悪魔が言っていた、魔王がいる世界か?」
風で煙が晴れると、そこには白髪で腰が曲がった姿の老勇者メッキが立っていた。
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