二人

かんた

第1話

「なあ」


 俺は、目の前のあいつに、声をかける。この世で最も大切な、愛している人に、声をかける。


 刹那、何か勘違いをしているかのような違和感に襲われる。




「なあに?」


 そして、あいつは言う。

 それを聞き、あいつの声を聞き、俺は思い出した、思い出してしまった。そして、思い出したことにより、今の状況、その他の色々なことを理解してしまった。


 そして、理解してしまってから、何故かおかしくなってきて、笑いだしてしまった。


 それを見て、変に思ったのか怪訝な顔をして、再び聞いてきた。


「だから、何なのよ」


「いや、何でも無いんだ、うん、何でもないよ」


 そう言いながら、また少し笑ってしまった。


 あいつは、まだ腑に落ちない、といった顔をしていたが、何も言わないだろう、と思ったのかそれ以上に追及してくることはなかった。






 それから、少しの間、二人の間に沈黙が訪れた。しかし、特に不快感は無く、むしろ心地よい空気の中、おそらくすぐにでも終わってしまうだろうこの沈黙を味わっていた。






 すると、不意にあいつからの視線を感じた。

 そちらを向くと、こちらに向けて何かを話しているようで、口を開閉していた。

 そして、何故かあいつにノイズがはしり始め、あいつの姿がよく見えなっていく。動こうとしても、身体は動かず、目と口しか動かない。


「おい」


 なんとか動く口を動かして、そう声を出す。

 ノイズは強くなっていく。


「おい!」


 先ほどよりも強く言うが、あいつが何か反応しているようには見えない。

 ノイズのせいで、何も聞こえない、あいつの顔も、もう見えない。


 俺の意識も徐々に薄れていく。

 あいつが何かを伝えようとしている気もするが、何も分からない、本当に何か言っているのかどうかも分からない。




 すると一瞬、ノイズが消えた。

 その時こちらを向いていたあいつは、あいつの顔は、俺に笑いかけているようだった。




 次の瞬間には、もう真っ暗だった。ついに意識も消え去ろうとしている。




 そうだよな、こんなのは夢なんだから、もうそれだけで満足するしかないんだ。

 夢でもなければ、あいつが俺の目の前にいるなんてありえないんだ。




 だって、あいつはもうこの世にはいないんだ、もう死んでるんだから、






 俺が殺したんだから。


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