第57話 ふん、ざまーみろ。

「はぁっ!? んな訳ないでしょうが! なんでわたしがあんたを助けないといけないのよ!?」


「えっ!?」


「なにが『えっ!?』よ。あんたがわたしにしたことを忘れたの!? どこまで世の中なめくさってんのよ!?」


「ええっ!? わたくしは特に世の中をなめているようなことは、ないと思いますけど……」


「チッ、ほんとどうしようもない女ね。軟禁されてる惨めなあんたの顔を、こうやって見下ろしに来たに決まってんでしょ! へへん、いい気味ね! ざまぁ!」


 はっ!?

 おっとと、ありえない発言を聞かされて思わずカッとなってしまったわ。


 落ち着くのよミレイユ、この女は徹頭徹尾そういうやつだったじゃない。


「なっ……酷いです! 仲良くしましょうよミレイユ」


「できるわけないでしょ、本気でバカなの?」


「お願いですミレイユ、何でもしますからここから出して下さい! バターを塗っただけの食パンや、豆と野菜ばかり入ったスープはもう嫌なんです! やわらかいお肉と甘いお菓子と、いっぱいのフルーツ盛りが食べたいんです! お風呂も毎日入れないし……」


「まったく反省してないわね、こいつ……」


「え? なんでわたくしが反省しないといけないんですか? わたくしは王女なんですよ? 神に選ばれた尊き人間なのに。本当にお父さまはいったいどうして、こんな悲しい勘違いをされたのかしら。およよ……」


 やれやれ、まだ全然反省が足りてないみたいね。


「はぁ、もういいわ……せっかくざまぁしようと思ったのに、なんかもう馬鹿らしくなってきたから。とりあえずはあんたが軟禁されて惨めな姿でいるところを見れただけで溜飲りゅういんは下がったしね」


「じゃあここからわたくしを出してくれるように、お父さまに言ってください」


「死んでもごめんだわ! なにがどう『じゃあ』なのよ!? はぁ……もういいわ。わたしは『破邪の聖女』として早いとこ水晶室にいかないといけないから、あんたの相手を長々とはしてられないの」


 わたしがもうここに用はないとばかりに部屋から出て行こうとすると、


「ちょっと待ってミレイユ! わたくしを置いてかないで! 助けてよ! お願い! なんでもするから!」


 ヴェロニカがわたしに駆け寄ってきた。

 しかし――、


「ヴェロニカ様。外部の者に触れるか、もしくはこの部屋を一歩でも出た瞬間、逃亡の意思有りとみなして殺すようにとの王命にございます。どうかご自愛くださいませ」


「ひぇ……っ、そんな……お父さま……なんで……」


 腰の剣に手をやった衛兵にすごまれると、ヴェロニカは顔を真っ青にして部屋の奥にすっこんでいった。


 いい気味だった。

 ふん、ざまーみろ。


「ま、今のでちょっとは気が晴れたかな」


 近い将来、ヴェロニカは王女ではなくなり国外追放されるのだ。


 あの時いきなり国外追放されたわたしが途方に暮れて感じたどうしようもない惨めな気持ちを、今度はあんたが味わうんだからね。


「じゃあね王女ヴェロニカさん♪ 末長くお元気で~♪ 2度と顔は見ないと思うけどぉ♪」


 わたしが追放される時にヴェロニカが言い放ったセリフを、名前だけ入れ替えて後は一言一句たがわず言って返してやると、わたしは最高のルンルン気分で水晶室へと向かった。


 わたしはこういうこと意外としっかり覚えているタイプですから。


 可哀そうだなんてまったく思いはしなかった。


 やられたことは絶対にやり返す。

 それがわたしの流儀だから。


 次にケンカを売る時は相手をちゃんと選ぶことね?


 心の中にある絶対に許さないリストの一番上にあったヴェロニカの名前に、わたしは気落ちよく斜線を引いた。


 ヴェロニカに見事にやり返してのけたわたしは、


「お待たせ~♪」


 アンナとジェイクと合流すると、やる気と気力と充実感で身体をみなぎらせながら水晶室へと向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る