第34話 土下座王子と笑えない聖女。

「ふっ、なんにせよ。君が首を縦にふってくれるまで、オレは土下座をやめない! こうと決めたら貫き通す、それがオレのモットーなんでね!」


「だからカッコいいこと言ったつもりかもしれないけど、貫き通してるのは土下座だからね!?」


「これがオレのベストな愛の示し方だと思ったんだ。まったくミレイユの言うとおりだよ。誰かに気持ちを伝えるのに、自分のベストを尽くさないなんて、オレはなんて愚かだったんだ」


「くぅ……っ! この王子ってば本気で一途で頑固なんだから……! わかったわよ、わかったわ! 結婚してあげるわよ! これでいいんでしょ!?」


「本当かミレイユ!?」

 わたしの言葉に、ジェイクが目を輝かせて顔を上げた。


「ほんとよ! まぁその? ジェイクのことは悪くないかなーって思ってたし? ここまで情熱的に想いを告げられたら、まんざらでもないかなーって思わなくもないし? だからいい加減に土下座を止めて、立ってくれないかしら!?」


 だけどジェイクは顔こそ上げたけど、まだ両手両ひざを地面についたままだった。


 もうこれほんと、王子様を土下座させてる女王様の図だよ……。


 こんなところをもし知り合いにでも見られたら――、


「はわっ!? ミレイユ様がジェイク様を土下座させてます!?」

 突如として、馬車の外から可愛い声が上がった。


 見るとアンナを乗せた馬車が隣を並走していて、アンナが窓から中を覗き込んでいたのだ――!


「アンナ!? なんで覗いてるの!?」


「なにやら大きな言い争うような声がしたので、なにか問題でもあったのかと思いまして。そしたらまさかミレイユ様――」


「ちょっと! 誤解なんだからね、アンナ! 私は決してエルフの王子様を土下座させるプレイを楽しむ変態ドS女王様ではないんだから――」


「ジェイク王子から、告白されてたんですね!」


「…………はい?」


「このシチュエーション、もうそれしかありませんもんね!」


「…………え?」


「あれ、違うんですか?」


「いえ、違わないんだけど……」


「ですよね! やっぱり!」


 アンナはこれ以上ないほどに満面の笑みだった。

 そこには裏とか含んだところなんてちっとも感じられなくて。


 え、ってことは?

 つまり?


 これ(ジェイクを土下座させるわたし)がわたしとジェイクの関係性だって、最側近のアンナにすら思われてるってこと……?


 え……っ。

 ええ……っ。


「それでミレイユ様は、もちろんオッケーしたんですよね!」


「あ、うん……そうなんだけど……」


 こ、これは今すぐにちゃんと確かめておかないと……!


「すごくお似合いだと思います!」


「ありがとうアンナ。それであの、ちょっと聞きたいんだけど、アンナってわたしのことをどう思って――」


「そうだ、今日はお二人の新たな門出を祝ってお赤飯にしないと!」


「あらありがとう。それで質問なんだけど――」


「あ! めでたいということで、尾頭付きのタイも用意しないとですよね。ゲン担ぎは大事ですから。では今から市場でタイの尾頭付きを買ってきますので、わたしはここで失礼します! チョッパヤで行って、お夕飯に間に合わせないと!」


「あの、アンナ――」


「もうミレイユ様ってば、ジェイク様との甘々スイーツタイムをお邪魔虫したりしませんよぉ。馬車の中で思う存分ジェイク様を可愛がってあげてくださいね。それではお夕飯の時にまた会いましょう!」


 そう言うと、アンナを乗せた馬車は最寄りの商業区のほうに進路を変更して、風のように去っていった。


「だから誤解なんだってばぁ……」


 可愛がるって、わたしに一体ナニさせようっていうのよ?


 ちなみにジェイクは立つタイミングを掴めなかったのか、まだ土下座していた。

 ほんとどうしようもないほどに土下座王子だった。

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