【破邪の聖女】婚約者を第二王女に寝取られ婚約破棄&追放された聖女は、エルフの国の土下座王子と恋仲に~「ちなみに私が居なくなった後、破邪の結界は大丈夫?っていうか今さら帰れとか言われても遅いんだけど?」

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第一章 婚約破棄された聖女と、エルフの国の土下座王子

第1話 いきなり婚約破棄!?

「ミレイユ、君との婚約を破棄する」


 急に呼びだされたわたしが婚約者であるアンドレアス伯爵から告げられたのは、あまりに唐突な一言だった。


 アンドレアス伯爵はイケメンだけど、かなりの我がまま、かつ権力志向が高い人だった。

 わたしはまぁ色々あって、数年前にその婚約者になったんだけど――。


「ごめんなさい、どういうこと?」


 長年の横暴っぷりにもすっかり慣れていたわたしも、だけどさすがにこれは聞き返してしまった。


「どういうことだと? シラを切る気かい? 己の胸に手を当てて聞いてみるがいい」


 アンドレアスはそう言うけれど、しかし、わたしには全く身に覚えがなかったのだ。


「ごめんなさい、でもわたしにはなんのことやら――」


 わたしがなおもそう言うと、


「先日エルフの少女を助けただろう!」


 アンドレアスはイライラと不愉快そうにそう言った。


「えっと、はい。酔っぱらいから目が合ったって因縁を付けられていたのを目撃して、さすがに黙っていられなくて――」


 エルフの可愛い女の子が、べろんべろんに酔っぱらった小汚い小太りのおっさん2人に絡まれていたのだ。


 しかもそいつらときたら、スケベそうな手つきでべたべたとその子の腰やお尻を触りながら、薄暗い路地裏に無理やり引っ張り込もうとしていたのだ。


 いやらしいおっさん2人が、嫌がる女の子に何をしようとしていたかは明々白々だった。


 たしかにそれを助けはしたけど、でもそれって人として当たり前のことだよね?


「エルフは二等市民だろう! 一等市民である人間に逆らうなどもってのほか! ミレイユ、お前はこのセラフィム王国の在り方を否定したんだぞ!」


「えっと、あれはそんな高尚なものではなかったと思うんだけど……。単に酔っぱらいが、女の子が二等市民のエルフだからって、無理やりどうこうしようとした、いかにも品性下劣な事件というか……」


 わたしはしごく当たり前のことを言ったんだけど、


「なっ! お前は自分の行いを謝罪するどころか、反論するというのか?」


「反論というか、当たり前の意見を述べたにすぎないような……?」


「ミレイユ……疫病をはねのける『破邪の聖女』と言うことで、今までさんざんお前の振る舞いには目をつぶってきたが、さすがにもう我慢の限界だ――」


「ええっ!?」


 わたしお目こぼししてもらうようなことなんて、してきたかな!?

 そりゃ似たようなことをした覚えは結構あるけど──。


「ボクはセラフィム王国に忠誠を誓った貴族だ。この国の在り方を破壊しようとするミレイユと結婚することはできないと考えたのだが……どうも婚約を破棄するだけでは足りないようだな」


 そこまで言うと、アンドレアスは芝居がかった仕草でわたしに指をつきつけると、宣言した。


「ただいまをもってミレイユ・アプリコットの『破邪の聖女』の地位を剥奪し、追放処分とする。明日にでも王都より去るがいい」


「ちょ、ちょっと待ってよ! だって『破邪の聖女』は今わたししかいないんだけど――」


「それがどうした?」


「それがどうしたって、どうもするでしょう? 癒しの力『ヒーリング』と、様々な疫病の流行を防ぐ『破邪の結界』を作成しメンテナンスするのが、『破邪の聖女』の役目なんだから。いなくなれば国の根幹に関わるじゃない」


「つまり、自分は何をやっても許される特別な存在だと、そう言いたいのかい? ふん、相も変わらず傲慢ごうまんな女め」


「そんな意味で言ったんじゃないわよ。ただ国のためを思って――」


 『破邪の結界』にアクセスすることができ、予防と対処をどちらもこなすスペシャリストである『破邪の聖女』は、100万人に1人のレアスキルと言われている。


 その証拠に今は、先代の『破邪の聖女』から引き継いだわたし1人しかいないわけで――わたしがいなくなれば、大事なお役目が空席になってしまうのだ。


「安心しろ、大きな流行り病など、ここ数十年おこってはいないさ」


「それは歴代の『破邪の聖女』が、結界を懸命に維持してきたからです。いなくなれば、いつ流行り病が起こっても不思議ではありません」


「そんなものは問題が起きてから考えればよいのだ。万が一のことなど、お前ごときが気に病む必要はない」


「問題が起きてからでは遅すぎるでしょう――?」


 一度流行り病が蔓延まんえんすれば、罪のないたくさんの人が苦しみ死んでいくだろう。

 下手をすればこのセラフィム王国そのものが滅びてしまう――。


「くどいぞミレイユ! それにお前には月に金貨10枚の給金も支払っている。実質なにもしていない聖女に10枚だぞ? この国は今、長年の不況から脱出するための構造改革と財政再建の真っ最中なのは知っているだろう。無用な出費は削らねばならないんだ」


「流行り病に対する予防は、決して無駄な出費ではありません。病が大流行してからでは、国家財政が傾くほどの出費が必要になるはずです」


 そもそも、長年続く不況は王侯貴族がひどい賄賂わいろ政治を行って、自分や自分のお友達にお金が行くように、わざと無駄遣いばかりしてるからじゃない……。


 わたしが何度それとなく注意しても、そこには絶対に見て見ぬふりして知らんぷりだし……。


「はんっ、元庶民の女風情が、知った風な口をきくものだな。ボクの婚約者になったからって、偉くなったつもりか? だがそれもこれまでだ」


 アンドレアスは侮蔑的な、見下すような目でわたしを見て、言った。


「くくっ、ボクとの婚約を破棄され、『破邪の聖女』ですらなくなったおまえには、もう何の価値もないんだよ」


「今一度、どうかお考え直し下さい。『破邪の聖女』がいなければ、この国はいつか必ず重大な危機に直面することになります」


「くどい! ボクはこの改革の責任者なんだ。そしてそのボクが要らぬと言っているんだ! つまりこれはこの国の総意なんだよ。わかったら、とっとと荷物をまとめて立ち去るがいい!」


「……わかりました」

 わたしがこれはもうなにを言っても無駄だと諦めて、仕方ないなと肩を落としていると、


「アンドレアス様、お話はもう終わりましたの?」


 そこへなぜか、第二王女のヴェロニカが突然やってきたのだ。

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