第3章 弟子の魔法使いは優等生達を欺き凌駕する(何気なく)。

第15話 メタル君の訓練と元妹からの接触(弟子はメタル君と仲良くなった)。

「じゃあ、今日も実験を開始する。用意はいいかなメタル君?」

『……!(ピュイ!)』


 俺が告げるとメタルスライムはピシッと敬礼する(ドラ◯◯んの腕っぽいのを作って)。

 倒したスライムの魔石を利用してテイムした。魔神が利用した復活の禁術とは当然異なるが、師匠のオリジナル魔法の一つ。


冒険家の秘密道具アドベンチャー・シリーズ』と名付けている原初魔法オリジナルの一つでもある。原初魔法とは何か? 詳しくは別作を!(簡単に言うと固有魔法)


 ダンジョンの探索に便利だからそう名付けているが、一つだけ欠点がある。

 確かに秘密道具と呼べるくらい便利ではあるが、攻撃系のオリジナル魔法は一つもない。全部が補助系サポートの魔法となっている。


「まぁ魔力消費を考えるとサポート全般で丁度いいけど」


 内心落ち込んだのは置いといて、あと俺の封印スキルの一つも使って、こいつをテイム化させた。

 ちなみに使った魔石は隠れエリアの裏ボスことビックスライム(仮)である。あとメタルスライムの魔石も使っているので、メタル化も出来るようになっている。


「モデル人型・形態変化!」

『……!』


 スライムが水のように液体金属な肉体を歪ませる。

 モチモチと液体が動いていくと、顔なし装飾ゼロのメタルな人型が生まれた。背丈は俺に合わせているメタル君。


「剣を作れ。刃は……一応潰してくれ」


 指示すると手元に作ったメタルソードの刃を潰れた。

 俺も土魔法とスキルで一本の剣を作る。一応同じように刃を潰してメタル君は構えた。


「……いくぞ」

『……!』


 俺から斬りに行く。

 肉体強化は軽い感じで済ませて、六割程度の瞬間加速と間合いに入る。

 勢いよく振り上げてメタル君を真っ二つするつもりで、剣を振り下ろした。


『……!』

「良い動きだ……!」


 上手く衝撃を抑えて俺の刃を受け止めたメタル君。

 弾くと足元から斬り掛かってきたので、狙われた足をズラす。すかさず、ズラした足で真下の剣の腹を踏むように押さえる。一秒と少しだが、メタル君の動きが鈍った。


『……!!』


 頭を狙った俺の一閃。剣を持ったままでは対処不能と直感したメタル君。

 押さえられていた剣を手放すと、体ごと頭を下げる。横回転をして、大振りな蹴りをかまして来た。


「はっ!」

『……!?』


 その蹴りを俺も回転しながら躱す。体の上下を変えるようにして、片手を地面に付けてバランスを取りながら、両足で振られた足を捕まえる。


 もう片方の握っていた剣で、片足立ちとなっているメタル君の足、関節部分をぶっ叩いた。


「ふっ」


 バランスを崩したところで、捕まえた足を引き寄せて相手をうつ伏せで押し倒す。

 押さえ付けるように、相手の背中に乗ってトドメを刺そうとしたが……。


『……!』


 関節などないから肩や手首をクルリと回して、背後の俺の顔を狙ったメタル君の裏拳が襲って───。


「ァァァァッッ!」

『……!?!?』


 裏拳を俺は空いている手で掴んで握り潰した。

 液体であるが、メタル君の体は金属でもある。

 拳に形成されているソレは、間違いなく鉄レベルの強度がある。


「ァァ、ァァァ!」


 しかし、魔王の一部を喰らって

 俺の肉体もまた鋼のような強度があり、筋力や握力も相当。

『魔力・融合化』による身体強化はしていないが、ただの鉄レベルなら握力だけで握り潰せた。 


「この辺にしておくか」

『……(こくり)』


 トドメに胴体を真っ二つに……なんて思ったけど、付き合ってくれたメタル君に悪いので手を伸ばして起こしてあげる。形態を解いて元に戻った。


「戦闘技術はまぁまぁだな。あとは形態変化がもっと上手くなれば……」


 隠れエリアのセキュリティ門番完成である。仮に見つかっても追い払う準備は一応整った。

 うん、次は戦隊モノか巨大ロボでも目指そうか。


「これで変装も出来たら便利なんだが」


 プルプルと横に振っている。まだ無理か、まぁいいけど。


「当分は───で代用するか」


 使い道があるか不明だが。

 何やら不穏なマドカの話から一週間が経過した。

 とくにクラス内で異変が起きている様子はない(未だに友達も居ないけど)。


 しかし、別クラスでは戦術クラスとのトラブルは、少なからず起きているらしい。

 ミコの方にも確認を取って、決闘こそはあまりないが、向こうから絡まれる件が結構あるそうだ。


「学校側がもう少し介入すればいいが、どうも生徒同士のトラブルには控えめだな」


 放課後の部活や昼の食堂、さらには外でも何かと絡まれて迷惑を被っていると聞く。

 喧嘩沙汰には発展してないそうだが、これらが全部フランスパン(勝手な名)こと鬼苑と呼ばれる不良君の策略だとすれば……。


「桜香の心境はさぞ穏やかじゃないだろうが」


 神経質な桜香を刺激しているのはまず間違いない。

 未だにイメージがフランスパンだけど、鬼苑っていう不良男子。相当性格なようだ。






「ま、俺には関係なし、マドカとジィちゃんにケーキでも買って帰りますか!」


 何がというわけか分からない人は少し前を遡ってください。あ、分からないか、要するに現実逃避です。

 学校の帰り道、商店街の一角にあるケーキ屋さんに顔を出した。


「う〜ん、どれも美味しそうだ。偶にはこういうのも悪くないな」


 とりあえずハズレはないと思われるショートケーキやチョコ、モンブランを選択。家でも忙しいマドカには二個三個ほど多く買った。……多いか?


「まぁ甘いのは別腹って言うし、いいよね?」


 マドカならモグモグ食べそうだと納得。

 日も暮れ始めたので、さっさと帰ろうとした。……その時だ。



「で、いつまでついて来る気だ? もう日が暮れる。いくら三年でも中学生がこんな時間に彷徨うろつくのは褒められたものじゃないぞ」

「っ……!?」



 まだついて来るようなので注意する。

 既に他人同然の関係であるが、最低限の年上としての注意くらいは問題ないと思う。

 尾行がバレてると思わなかったか、ケーキ屋さんの物陰で隠れていた制服姿のポニテの彼女は、動揺を必死で隠しながら(けど表情が硬っている)が姿を現した。


緋奈ひな、確かお前が通ってる女中はこっちではない筈だ。それに迎えの車はどうした? まさか寄り道したいから要らない、なんて言って来たわけじゃないだろう?」

「に……っ、あ、貴方に関係ありますかっ?」


 神崎緋奈。腹違いの元妹だ。カバンと刀を入れる袋が肩に掛かっている。

 地元の女子だけの魔法学園に通っている現在は中学三年。れっきとした受験生だ。


 ただし、エスカレーター式の学校だった筈なので、受験があるとすれば成績とテストのみ。

 他所の学校を志望しない限り大変ではないが、大事な後継者である娘を親父が安全な女子校以外を選ばせるとは思えないので、その線はほぼありえない。


「関係ないあるの問題じゃない。神崎家の人間ならもっと褒められる行動を──」

「貴方に神崎家を語られたくはありませんっ! あんなに手を回したお父様の期待に、一切応えてこなかったじゃありませんかっ!」


 焦りと不満から感情が爆発したように見えた。

 地雷だったか、珍しく怒鳴った緋奈に俺は言葉を紡ぐ。周囲で歩いていた人達も何事かと立ち止まって、俺たち二人を見ている。……大半は俺を訝しげな視線で見ている。


「別に語るつもりはない。語る資格があるなんて思ったこともない」


 だから俺は落ち着いて話すことに集中した。

 咎めようとも思っていなかったが、元でも相手が妹だからか。つい叱るような口調で言ってしまったが、それが緋奈にはお気に召さなかったらしい。


「だが、そんなお前の単独行動を家族やあの家の奴らが許すと思うか? いくら力を認められているからって、心配されるような行動を進んで行うことが、正しいと本気で思っているのか?」

「……」


 いかんな。どうにも説教な感じになってしまった。

 だが、言われて自分の立場と行動を改めて見つめ直したか、荒れていた緋奈の表情が次第に和らいで、少々暗いものになって沈静化する。俺に言われなくても自覚はあったようだ。


「そう、ですね。確かに少々無茶をしたのは認めます。どうしても確認したいことがあったので」

「確認? 俺にか?」


 コクリと頷いて、そして覚悟決めた顔付きで、俺に一歩だけ近付いた。


「兄さん、少しだけお話があります。時間を頂けませんか?」


 そう言って肩の掛けている刀袋に少し力が入った。





「というわけで家に呼んだから、あとで迎えを寄越してくれ。一時間後ぐらいでよろしく頼む」

『何がというわけか分からないが、緋奈が龍崎家に居るんだな? 分かった。一時間後に迎えを寄越せるようにするが、何の話をするつもりだ?』


 あっという間に夜である。

 家に招いた緋奈を客間に案内して、一応父親保護者へ連絡を取っていた。


「それは帰った時に本人にでも訊いてくれ」

『あの娘が私に話すと思うか?』


 思わない。言ってみただけ。

 話の内容は知らないが、この後の展開はなんとなく分かってしまったからバレたくない。


「じゃあ、今後はもう少し、娘に嫌われない程度に気を配れよ」

『分かった。一応言っておくが、手は出すなよ?』

「ク・タ・バ・レ」


 耳障りな親父の電話をさっさと切る。

 とくに着替えず、客間へ直行した。


「マドカはともかくジィちゃんが留守だったのは運が良かった」


 ジィちゃんは年寄りの友達と、アイドルコンサートで遅くまで留守。ヘタしたら朝まで飲むかもしれないので、緋奈と遭遇することはない。

 マドカにも連絡を入れているので、帰りは少し遅い。ギリギリまで漫画喫茶を満喫すると言っていた。


「招いたとはいえ、不思議な状況になったな」


 元妹と二人っきり。

 ブラコンとシスコンならお互い喜ぶが、関係絶ってるので大して嬉しくもない。


「なのに招いた。不思議なのは俺の行動か……」


 客間に着いたので自問自答はこの辺で。

 引き戸を引くと座布団の上で綺麗に座る緋奈と目が合う。多少緊張しているのか、視線ややぎこちない。まずは緊張でも解してやるか。


「とりあえず茶でも飲んで落ち着け」

「あ、どうもすみません……」


 やや焦りつつも用意したお茶を受け取る。

 俺も対面の座布団に座りテーブルに置いたお茶を飲む。

 ケーキも配ろうかとも思ったが、既に夕飯の時間帯。あんまり良くなさそうだから、お土産で渡すことにしよう。




 ……そして。



「準備はいいか? サイズは大丈夫か?」

「はい、着替えをありがとうございます」


 動き易い運動系のジャージとシャツに着替えた緋奈と、家と繋がる道場の方へ移る。

 服は家にあった物で袖やズボンが長い気がしたが、どうやら許容範囲だったらしい。


「兄さんは着替えないんですか?」

「ひと勝負の為に着替えるのは手間だからな。この制服も一応戦闘用で少し頑丈だから問題ない」


 女子の制服場合はそうはいかない。

 スカートの中は短パンかスパッツかを履いているようだが、妹のそんな姿、兄としては絶対ノーだ。


「最後にもう一度確認する。話す前に、どうしても勝負したいのか?」

「……はい」


 質問は始まらなかった。普通ならラッキーと思うが、今回ばかりは残念でしかない。

 どういう意図か知らないが、まず剣によるひと勝負したいと緋奈は要望した。……いや、だからなんで?


「桜香のバトル癖が移ったか?」

「ち、違います……! でも……」


 半分冗談、半分まさかといった問い掛け。

 さすがに違うようで、慌てて緋奈が否定をするが、少し思うところがあるのか、後半口ごもって……。


「相手を知るならまずは勝負。桜香姉さんの言葉を参考にしようと考えたのは事実です」


 確かに言ってそうなセリフだ。

 しかし、「なぜ俺と?」と思わずにはいられない。


「相手を知るため……それが理由だとして、今さら俺の何を知ろうとする? 既に縁は切っただろう。

「……」


 俯くと緋奈の周りの空気が重くなる。

 無言になって微かに肩を震わせるだけ。……何も言い返さないか。理由だけでも訊いてみたかったが。


「まぁいい。勝負か、ルールは一本勝負でいいな?」


 道場に置いてある竹刀を手にして尋ねる。

 緋奈も持っていた袋から木刀を一本取り出して頷く。袋にはもう一本、緋奈の透明な剣の柄が見えた。


「一応肉体の強化まではありにしよう。寸止めが失敗した際、お互い怪我は嫌だろう?」

「はい」


 頷くと緋奈の魔力が全身に巡るのを感じた。

 この世界の基本的な身体強化は魔力の活性のみで可能。詠唱不要なので便利ではあるが……。


(魔力強化、気の強化)


 肝心の魔力が少ないので、体内の気も強化に使って補う。

 緋奈と一定の距離を保つ。静かに構えを取った彼女を見て、片手で剣先を彼女へ向けた。


「かかって来い」

「っ!」


 力強い踏み込みと共に放たれたのは、雷ような鋭い突き。

 小柄な分、瞬発力と速力が上がり早い緋奈の一撃。


「神崎流剣術・雷ノ式『紫電殺傷シデンサッショウ』か」

「……っ!?」


 ───。突きの構えで唖然とした彼女の顔がそう言っている。

 避けたのならまだ理解出来ただろが、俺が神速のひと突きの軽い動作で弾いたことで、緋奈の動揺と驚きが肉体を硬直させた。


「で、そのままでいいのか? 斬るぞ?」

「っ──まだっ!」


 ハッとした顔で強引に硬直を解いた。

 体をコマのように高速回転。風のように至近距離からの連続の太刀を披露して来た。


「風ノ式『風車暴殺カザグルマボウサツ』……」


 広がる風のような刃の竜巻。

 本来は風属性の魔法とおり混ぜで放つが、ただの剣術のみで凄まじい迫力がある。


「やはり神崎流の剣術はマスター済みか」

「さっきからの発言は余裕から来るものですか!」


 今度は避けてばかりの俺の言葉に、遊ばれていると感じた緋奈が回転の太刀速度を上げていく。一切目を回さず的確に狙ってくる暴風の剣戟だが……。


「全部……躱された……」


 二〜三分続いて、とうとう剣戟が止む。

 鍛えており息こそ切らしていないが、さっきまでの強い闘気が萎んでいるのが分かる。

 全ての太刀を躱されるなんて思いもしなかった。そんな強い混乱が彼女の行動をまた抑制させた。


 だから。


「──っ!」

「さすがにこれは避けた」


 顔の頬を狙った俺の横薙ぎ。
 刃を乗せたような……イメージを乗せた影響か、一瞬で焦った顔になった緋奈がやや大袈裟な動作で俺の刃を回避した。


「ほら、ボサっとしない。今は試合中だぞ?」

「ふぅ……失礼しました」


 俺なんかに言われて我に帰ったか。

 静かに息を整えた緋奈がまた構えを取る。

 よく知っている型の一つ。神崎流の火ノ式───。


「──行きますッ!!」



天火斬殺テンカザンサツ



 大きく振り下ろす。一撃必殺の太刀。


 それを俺は……。


「ミヤモト流剣術……」


 避けるのも弾くのも止める。

 両手で構えて振り上げて……。



「三式───『断斬ダンザン』」



 俺の一刀両断が緋奈の一撃必殺を……。


「あ……」


 正面から叩き折った。


*作者コメント*

 第2章は短めになりましたが、話が変わるので次の章に移すことにしました。

 話は暗躍編へ移ります。誰が暗躍するかはご想像にお任せします(笑)。

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