第30話・暗黒遊星【ラゴ】・第四章ラスト
グレム・リンたちは、二連星惑星の中間にやって来た。
【因・果】を繋ぐハゴロモグモの巣のようなモノの周辺には空気があり、無重力状態で浮いていられた。
『白きシェヘラザード号ミニ』で、グレム・リンたちを中間空間に運んできたカウダ・ドラコニスは、ウェルウィッチアの首が入った鳥カゴを抱えて逆さになった状態で浮かんでいた。
鳥カゴの中のウェルウィッチア首が言った。
「さてと、どこに宝のカギがあるのかしら?」
カウダ・ドラコニスから見て、横向きで浮かんでいる仁が魔刀を鞘から引き抜く。
「指定した場所をいつでも、ぶった斬ってやるぜ」
斜めに浮かんでいるグレム・リンが、両目を閉じて集中する……数珠繋ぎの触角が順番に点滅して流れる。
両目を開けたグレム・リンが一点を指差す。
「あの場所だぁ、あそこに何かあるだ」
宇宙日本刀を構えた仁が、グレム・リンの指定した箇所に魔刀を振り下ろす。
過保護星【因】では、ザガネ総帥の救出が開始されていた。
ザガネが引っ張り込まれた穴に向かって、ウェルウィッチアの体がプロレス技を炸裂させる。
ドロップキックや、エルボーが穴の周囲やザガネの顔に炸裂して、少しづつ穴が崩れていく。
新しいドレスを着た、芽理ジェーヌが言った。
「あと少しで救出できそうですわ、ウェルウィッチア超おばさまの体、とどめのヒップアタックを」
走ってきた首なしウェルウィッチアの、お尻がザガネの顔面に激突する。
「ぶぎゅうぅ!」
穴が崩れ、やつれたザガネが穴の外に『裸身隠し隊』のメイドや執事たちの手で、半分ほど引っ張り出される……穴の中からザガネの足に絡まった触手が、ザガネ総帥の体を穴に戻そうと引っ張る。
ザガネの体で綱引きがはじまった。
「頑張ってネオ・サルパ帝国の方を助けるましょう。引いて、引いて」
【因・果】中間空間──仁の魔刀は、ハゴロモグモの巣を半分ほど切断した、中からビルほどの大きさがある機械が現れた。化学工場設備のようなパイプが随所に突出した機械だった。
巣のような糸は、その機械から二連星に向かって放出されていた。
機械の方にフワフワと浮かび近づいたグレム・リンは、機械の表面の隙間に食い込むようにハマっているカギのキューブを発見する。
「見つけただぁ、元々はもっと外側に隠してあっただが、機械に内部に引っ張り込まれただぁな……機械にパスワードみたいなの入力するパネルみたいなのあるだ? こげたらなもん、適当に入力してチョイチョイと」
何億通りの組み合わせがあるはずのパスワードが、一発で解除されて機械がバラバラになる。
織羅・グレム・リンの異名は『機械破壊者〔マシーンデストロイヤー〕』だった。
グレム・リンは、宝のカギをゲットする。
「獲ったどぅ!」
過保護星と寄生星を繋いで養分を配給していた機械が、解体飛散していくのと同時に、過保護星と寄生星の繋がりも切断された。
キューブの中を覗き込ながら、グレム・リンが言った。
「次の真っ黒な星でゴールだぁ、おっとうが隠した宝のカギにちゃんと『ゴール』って示されているだぁ」
暗黒遊星【ラゴ】──
一年中、夜の真っ黒な星
……生物はいない、地面も黒い。
織羅家六兄妹は全員で【ラゴ】にやって来た。グレム・リンが最後のカギを手にした時に、【ラゴ】の地表に光りの矢印の地上絵が出現した。
その矢印の先に明かりが灯った『暗黒神殿』があった。
織羅家六兄妹は長男の狼炎とウェルウィッチアを先頭にして、古代ローマ風の神殿内を奥へと進む。
両側に炎が灯った通路を歩きながら、狼炎が呟く。
「親父も凝った宝探しを演出したもんだな、オレたち子供が楽しんでいる姿が、親父にとっては最高の誕生日プレゼントだなんて……親父らしい」
狼炎の後ろを歩く、下半身蛇身の芽理ジェーヌが言った。
「お父さまが隠された宝とは、どのような宝でしょうか……ワクワクしますわ」
セレナーデが、ポツリと言った。
「変なトラップなんて仕掛けられていないでしょうね……床に落とし穴とか、天井が落ちてきたりとか、両側の壁が迫ってきたりとか」
レオノーラが床に開いた四角い落とし穴を、飛び越えて言った。
「まさか、いくらパパでもそこまでは……罠があたとしても子供の遊び程度の罠じゃない」
壁に押し潰された竜剣丸が、隙間から抜け出してきて言った。
「父ちゃんの仕掛けたトラップなんて、玩具みたいなもんだぜ」
落ちてきた吊り天井を電磁力で押し返して、グレム・リンが言った。
「早く、おっとうが隠した宝を見たいだぁ」
織羅六兄妹の、かなり後方からザガネ総帥の微かな「うぎゃあぁ!」とか「ぎゃあぁぁ!」と、いう悲鳴が聞こえていた。
織羅家六兄妹は、ついに宝箱が置かれた部屋に到達した。
部屋の入り口近くのトラップで、飛び出してきた数本の槍を手刀で叩き落として入室した狼炎が言った。
「アレが親父が隠した、お宝か」
宝箱には五角形の角に、それぞれキューブを押し込む四角い窪みがあった。
モンスター変異惑星【ペアレント】で、手に入れたキューブを持った狼炎が言った。
「それぞれのキューブを鍵穴に」
【ナバー】
【ペアレント】
【レゾン・デートル】
【因・果】の四つのキューブが押し込まれる。芽理ジェーヌが言った。
「一個、足りませんわね」
その時、入り口の方からザガネ総帥の声が聞こえた。
「最後の一個は、オレが持っている。織羅家の宝はネオ・サルパ帝国が頂く!! わははははははっ」
トラップでボロボロになったザガネ総帥の背後には、ネオ・サルパ帝国のロボット兵団が銃を構えて隊列していた。
ロボット兵の前に立つザガネが、勝ち誇った口調で言った。
「オレが命令すれば、ロボット兵のビーム銃が一斉に火を吹く……さあ、宝箱から離れろ」
狼炎が呟く。
「ついに本性を出しやがったな」
「なんとでも言え、この世の中、力がある者が正義だ」
セレナーデを除く、ウェルウィッチアと織羅家の兄妹が円陣に集まり、何やらヒソヒソと内緒話をする。
内緒話が終了して円陣を解くと、末っ子のグレム・リンが一歩ザガネに向かって進み出て言った。
「オラに任せるだぁ」
グレム・リンの姿が高速移動で消える。先頭ロボット兵団の背後に回り込んだグレム・リンは、手の平で銃を構えるロボットのお尻を叩く。
「悪いロボットのお仕置きは、これが一番だぁ。それそれ」
お尻を叩かれたロボットは、電流の火花を散らして機能不調になって次々と倒れた。
半数のロボット兵を機能不調にしたグレム・リンは、高速移動で兄妹たちのところに戻って言った。
「尻っぺた叩いただけで壊れるなんて、安物の部品使っているだぁな」
顔を真っ赤にして怒るザガネは、手の中に持っていたモノを、織羅家の方に向かって怒鳴りながら投げつける。
「ふざけやがって!! ネオ・サルパ帝国をナメるな!! あっ、しまった!?」
芽理ジェーヌが、投げられて転がってきた最後の立方体を拾う。
「おやおや、宝のカギを投げてしまいましたね」
ウェルウィッチアが、ザガネに言った。
「どうですか、ここはネオ・サルパ帝国も妥協して平和的な流れで話しを進めませんか……最初に宝のカギを手にした者には誰にでも宝の所有権利があると提案したのは、あたしですから……苦労してカギをゲットした、あなたの所有権利も有効です。一番最初に宝を見てから欲しかったらあげます」
「いいのか? オレはロボット兵に命令して、おまえたちに銃口を向けさせた男だぞ」
「前にも言ったでしょう、あなたは根っからの悪人ではなさそうだと……さあ、こちらに来て最初に宝箱を開ける権利を」
ウェルウィッチアに近づいたザガネ総帥は、キューブを受け取り宝箱の前に立った。
一度、振り返って言った。
「後から返せと言っても返さないからな……本当にオレが最初に見てもいいんだな」
うなづく、セレナーデを除く兄妹。
ザガネが最後のキューブを鍵穴に入れると、宝箱表面の溝に光の筋が走ってカチッと錠前がハズれる音がした。
宝箱のフタを開けて、光りが漏れる宝箱の中を覗いたザガネ総帥はすぐにフタを閉めると、怪訝そうな顔で織羅六兄妹に言った。
「これが、織羅家の宝か? こんなモノどう使えと言うんだ」
ザガネは気が抜けた様子で、ロボット兵たちの方にもどると、部屋の入り口に向かって歩きはじめた。
「宝はおまえたちに、くれてやるよ……とんだムダ足だったな」
ロボット兵士たちを引き連れてザガネ総帥が去っていくと、宝箱の前に集まった織羅六兄妹は宝箱のフタを開けて中を覗き込んだ。
宝箱の中には、手足を曲げた格好で横臥して眠っている忍び装束姿のグレム・リンより、少し年下に見える男の子がスースーと寝息をたてていた。
レオノーラが言った。
「宝は男の子?」
忍び装束の男の子が、目を開けて宝箱の仲で上体を起こすと、両手を上に伸びをしながら言った。
「ふぁ~っ、かくれんぼは終わりでござるか?」
謎の忍び装束の男の子は、織羅六兄妹をグルッと見てから宝箱の中にから外に飛び出してきて言った。
「兄上と姉上たちでござるか、父上から話しは聞いていたでござる」
セレナーデが頭を抱える。
「父上? まさか」
忍び装束の男の子が自己紹介をする。
「拙者、織羅家の七番目の弟『織羅・摩湖名〔まこな〕』でござる。これでも忍びの長をしているでござる」
苦笑する狼炎。
「兄弟が増えちまったな」
嬉しそうな顔をするグレム・リン。
「オラに、いきなり弟ができただぁ」
芽理ジェーヌが、にこやかな顔で言った。
「こちらこそ、よろしく仲良くしましょう」
竜剣丸が、摩湖名〔まこな〕に歓迎のフィンガーサインを示す。
「よろしくな、新しい弟」
レオノーラが、にこやかに摩湖名に手を振る。頭を抱えたセレナーデだけが。
「ありえない、こんなのありえない」と、ブツブツ呟いていた。
その時、入り口の方から豪快な笑い声が聞こえ、一人の男が入ってきた。
「はははははっ、どうだ宝探しは楽しかったか」
カニの脚や甲羅や、魚の頭や尻尾や、鳥の脚や手羽や、ケモノの肋骨や大腿骨が突き出た得体の知れない謎の肉にかぶりついている男は、竜剣丸がレゾン・デートルで単独ライブをやった時の、スタッフジャンパーを着ていた。
織羅家七兄弟が口々に男に向かって言った。
「親父」
「お父さま」
「お父さん」
「パパ」
「父ちゃん」
「おっとう」
「父上」
豪烈は「よっ!」と軽いノリで応える。
長男の狼炎が代表して父親の豪烈に質問する。
「親父、少し説明してくれ、摩湖名のコトをなぜ今まで隠していたのかを……オレは新しい家族が増えるコトは歓迎だが」
豪烈が豪快に謎の肉を歯で噛み千切る、得たいが知れない肉汁が大量に飛び散る。
「別に隠していたワケじゃないんだが、ついズルズルと言いそびれてしまってな……摩湖名をよろしく頼むわぁ」
セレナーデが訝る表情で豪烈に訊ねる。
「お父さん、まさか他にもどこかに、あたしたちの弟か妹がいるんじゃないでしょうね」
セレナーデの問いかけに少しむせる豪烈。
「けほっ。そ、そんなこと……あ、あるわけ無いじゃないか……けほけほっ」
セレナーデに凝視されて、視線を反らした豪烈は鳴らない口笛を無理して吹く。
セレナーデは内心。
(こりゃあ、まだどこかにいるな)と思った。
こうして、織羅家六兄妹は──織羅家七兄弟になった。
【紫色恒星】の偽宝~おわり~
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