第7話・新たなバグの誕生「みんなで仲良く殴り込み」
野良猫亭の店先には、仁・ラムウオッカと、十連車輪タクシーの運転席に座ったカプト・ドラコニスの姿があった。
店から出てきたレオノーラに仁が言った。
「その顔は何かを決意した女の顔だな……ここでやらなきゃ、女が廃るって顔してやがる──いい表情だ」
口から火を吹いて、カプト・ドラコニスが言った。
「町をタクシーで流していたら、オーバーオール姿で泣きながら歩いているディアを見つけたから乗せて店まで連れてきた……莫連組の奴ら、アコギなマネしやがる」
仁が朱ヒョウタンの底に残っている、救世酒を飲みながら言った。
「喧嘩おっぱじめるなら協力するぜ、少し退屈していたところだ、報酬はヒョウタンを満たす救世主でいい」
「オレも莫連組のやり方には日頃からムカついていたところだ。剣客を乗せるのは血で座席が汚れるからあまり好きじゃないが……今回は特別に無賃で乗せてやる」
「そりゃどうも、レオノーラさま……本気で莫連組と、やりあう覚悟はあるのか? 生半可な覚悟ならやめておきな──やりあう理由を聞かせてもらおうか?」
仁の言葉にレオノーラは唇を噛み締めてうなづくと、店から木製のカップに入れて持ってきた、乳竜のミルクを二人が見ている前で一気飲みした。
「おいしい乳竜のホットミルクを、これからも、この星で飲めるために」
仁とドラコニスがレオノーラの言葉を聞いて、楽しげに高笑いする。
「十分すぎる理由だ、まずは光弾銃と動きやすい格好が必要だな」
「それじゃあ、最初に行くのは古着屋とガンショップだな……その酒場娘の格好をなんとかしないとな」
レオノーラと仁を乗せた、カプト・ドラコニスのタクシーが最初に向かったのは町の古着屋だった──衣服の見立てはカプト・ドラコニスが行った。
店内に二人で入ったドラコニスは、レオノーラに似合いそうな。ガンファイター衣装を探した。
「上はチェック柄の長袖ワークシャツ〔衝撃吸収繊維仕様〕と、このフリンジ付き銀色の妨光弾ベストが必要だな……素肌に塗る衝撃緩衝クリームとスプレーの類いも買っておくか。塗っておけば露出した肌や普通の服に光弾が命中したり、殴られても衝撃を吸収してくれる……おっと、ガントレットを忘れるところだった」
次々とドラコニスが放り投げてくる衣服を、レオノーラは両手で抱え受け止める。
「ブーツは今、履いている履き慣れたモノでいいとして……問題はその、ヒラヒラしたスカートだな」
ドラコニスは、古いデニムコーナーを物色して一着の、擦りきれたデニムを選び出した。
「予算的には、こんなところか……片方の太腿のところが、ほとんど千切れそうだな。おい店主、このデニムはいくらだ?」
木製人形型種族の店主は、手にした電卓の画面をドラコニスに見せる。
「そうですね、ヴィンテージの一点モノですから……ナグルナ〔銀牙共通貨幣単位〕で、このくらいですかね」
表示された金額を見たドラコニスは。
「そうか、片足の生地が無くなれば、もう少し安くなるな」
と、言って。躊躇なく千切れかけていた片足の生地を引きちぎった。蒼白顔で悲鳴を発している店主を無視して、ドラコニスはレオノーラに向かって。
「試着してみろ」と、言った。
試着室から出てきたレオノーラを見て、カプト・ドラコニスはうなづく。
「見た目だけはガンファイターっぽくなったな……銃の方は仁に任せるか」
古着屋から出てきたレオノーラを見た仁・ラムウオッカが口笛をひゅうと吹く。
「なかなか似合っているじゃねぇか……次は光弾銃か」
レオノーラと仁は、近くのガンショップに歩いて向かった。
店の奥にあるテーブルで尖耳で小柄な精霊型宇宙種族〔ゴブリン種とドワーフ種ハーフ〕の店主が、片眼鏡をして分厚い本を読んでいるのが見えた。
苦虫を噛み潰したような、しかめっ面をした灰色肌でカギ鼻の醜悪な容姿の店主は店に入ってきた。レオノーラと仁を
壁に飾られている銃類を眺めながら、仁が店主に訊ねる。
「この娘に合う光弾銃はあるか?」
ギョロとレオノーラを見た店主が、しゃがれた声で喋る。
「なんだ、アリアさんところの娘じゃないか……その格好はコスプレか? うちに置いてあるのは本物の銃だけだ……玩具の銃なら他をあたってくれ」
レオノーラが厳しい表情で、バンダナで束ねたキツネの尻尾のような後ろ髪を揺らしながら、店主に詰め寄って言った。
「ボクは遊びじゃない……本気だ!」
「本気だと? まさか本気でバグになるつもりか……悪いことは言わない、やめておけ」
仁が横から口を挟む。
「とりあえず、光弾銃を選ばせてみたらどうだ……光弾銃と刀剣は持ち主を選ぶと言うぞ、それで本気か遊びか分かる。空箱を選んだら店から退散する」
「ふむっ、一理あるな……好きな銃を選んでみろ」
レオノーラは店内の銃を見て回る、レオノーラの足は何かに引き寄せられるように店の奥へと進んだ。
そして高い棚の上に無造作に置かれた、埃を被った木箱をレオノーラは指差した。
「アレ……アレがいい」
店主はニヤッと笑う。
「ハズレだ、あれはただの空箱だ……さあ、帰った帰った」
「ちがう……空箱の後ろにある木箱に入った銃から、ボクを呼ぶ声が聞こえた……黄金色に輝く綺麗な光弾銃だ」
レオノーラの言葉に驚愕して椅子から転げ落ちる店主。
「なにぃ、どうして!? あの銃のコトを!?」
その時、空箱の後ろに置いてあった鎖が巻かれた木箱がガタガタと動き、木箱の隙間から黄金色の光が迸った。
店中の銃が怯えたように振動する。
店主は慌ててハシゴを棚に掛けると、空の木箱を投げ落とし、長年隠してあった木箱を棚から下ろす。
木箱に巻かれていた鎖は千切れていて、埃を吹き払った木箱のフタには『銘銃レオン・バントライン』と書かれていた。
フタを開ける店主。中から黄金に輝く大型の光弾銃と、肩から手甲に装着する甲冑のような、銀色に輝くショックアブソーバー内蔵のガンアーマーが現れた。
店主はレオノーラの顔と銘銃を交互に、数回見る。
「まさか、数百年間持ち主を選ばなかった銘銃が選んだのが……こんな小娘とは、これは運命か?」
店主はレオノーラの太モモを露出した足と反対側の腕に、ショックアブソーバー内蔵のガンアーマーを装着させて。
デニム生地がある足の太モモにレッグホルスターを装着すると、レオノーラに黄金銃を持たせて言った。
「ついて来い、その銃を使いこなせるかどうか見極めてやる」
レオノーラと仁が連れて行かれたのは、ガンショップの地下にある射撃場だった。
数メートル離れた位置に立つ、人型を模した板を指差して店主が言った。
「狙って撃ってみろ」
うなづいたレオノーラは銃を構えトリガーを引く──銃口から光弾が迸り、木製の人型を粉々に吹き飛ばす。
発射時の凄まじい衝撃がレオノーラの体を襲い、ガンアーマーの肩と肘から詰まっていた埃が煙のように噴射した。
衝撃に少しだけ踏ん張って耐えた、レオノーラの体は後方へ吹っ飛び緩衝壁に激突した。
レオノーラに駆け寄った店主は、レオノーラの腕を上下左右に動かして骨折箇所が無いか確認しながらレオノーラに訊ねる。
「どこか痛むところは無いか?」
「光弾を発射した時に、少し腕が痺れたけれど……別に痛みは」
「少し、出力と重心を調整すれば大丈夫そうだな」
店主はレオン・バントラインをレオノーラに合うように調整する。
仁は発射の衝撃で飛んだ、カウガールハットを拾い上げるとレオノーラの頭に被せた。
仁が店主に言った。
「その銃で決まりだな、いくらだ?」
「金はいい……くれてやる」
「いいのか?」
「貴重な瞬間を見せてもらったからな……新たなバグ娘にプレゼントだ」
レオノーラと仁が射撃場から立ち去ると、その場に座り込んだ店主の呟き声が聞こえた。
「持ち主次第で『神の銃』にも『悪魔の銃』にもなる銘銃、レオン・バントライン……儂はとんでもない歴史の瞬間に、立ち会ってしまったのかも知れんな」
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