第6話 episode6
フラーと屋敷を出た後、数名の部下と合流し馬車を置いていた宿へ向かった。
謎の魔法士の妨害を予想していたが、無かったので良かった。だが、報復に来るかもしれない可能性があるので、街に滞在する事は襲撃のリスクを高める。なので早々と南都の公爵領へと帰路へついた。
ハルト子爵の領地から南都まではおよそ半日といったところだ。夜道は道路脇の街灯の灯りがポツポツとあるが、それでも暗い。
「レイン様、横に座ってもいいですか?」
フラーニャはなんだか少し震えている。
「ん? いいぞ」
そうして俺は右横の席を手でさした。フラーニャはその瞬間、俺の右横に移動して俺の右手を掴んできた。
「フラーニャ、もしかして怖いのか?」
「……怖くなんてないです」
「強がるな。身体が震えている」
「頭を撫でてやろう」
そう言って俺は太腿にフラーニャの頭をのせて優しく撫でた。
「れ、レイン様。無理にそんなことをなさらなくてもいいんですよ?」
「構わん。俺がしたくてそうしている。なんたってフラーニャは俺の専属メイドなんだからな」
フラーニャは小さく呟いた。
「こういう事を平気でできるくせに。レイン様のばか」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ何も。もっと続けてください」
たまにはこういうのもいいかもしれんな。
しばらく撫で続けているとフラーニャは寝息を立て始めた。
夜は眠くなるのも当然か。起こすのはよしておこう。
少し眠くなってきたので俺は眠気に逆らわず静かに目を閉じて意識を手放した。
◇
数時間後。
無事に南都に着いた俺は父上に今回の一件を報告するため、執務室の前にいた。
ドアをノックしてしばらくすると中から入れと声が返ってくる。
俺は指示に従い、中に入り執務室の机の前まで歩を進めた。
「ただいま戻りました」
「無事戻ってきて何よりだ。してゼロス、どうであった?」
そうして俺は今回起きた事を話した。
一つ目はハルト子爵の暗殺任務のこと。溺死させたことなど詳細に語った。
二つ目は謎の魔法士のこと。これについては今後の起こりうる可能性について話した。
謎の魔法士の暴走により南都が火の海になる可能性。
新たな者と手を組み帝国を揺るがす事件を起こす可能性など、考えられるものを全て話した。
「なるほどな。任務は子爵の暗殺だった。謎の魔法士は正体がこちらでも掴めない以上、少しでも手がかりがほしいが仕方がない。今回は与えられた情報が少なかったにも関わらずよくやった。帝国のためにこれからも頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「後もう一ついうことがある。レイン」
さっきまで怖かった父上の顔が急に緩んだ。呼び方も変わっていることから組織とは関係のないことなのだろう。
「お前は一週間後から帝都にある学院に行くことになっている。公爵家の顔に泥を塗るような行為は許されない。そこでだ。帝都へ行くまで公爵家筆頭メイド長であるフランカに最低限の礼節を学べ。お前は親父に剣だけを仕込まれてそういうのはからっきしだろ?」
確かに言われてみれば俺は爺と剣での打ち合いに明け暮れていた。公爵家は力が強いだけでなく、心を律する事も重要なのだ。
「ええ、しかし一週間でと言われても無理があるのではないでしょうか?」
「やれるな?」
ニコニコと笑って俺の方を向きながら言ってきた。
どうやら拒否権はないらしい。
「やれます。いえやります!」
こうして俺の向こう一週間の予定が決まってしまった。
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