1443話 賠償
侍の提案を受け、『賠償と謝罪作戦』は始まった。
まずは金品の賠償だ。
これは、侍経由で被害者たちに連絡を取ってもらい、手元に金品が届くようにした。
その方が確実だろう。
懸念があるとすれば、侍が横領などの不正をする可能性だが……。
そのリスクは小さめだと思う。
別に、勘でそう判断しているわけではない。
チートスキル『加護付与』の副次的な恩恵だ。
あの侍の忠義度は、15程度。
加護(微)を付与できるのが30であることを考えると、決して高くはない。
だが、決して低くもない。
まだ記憶はあやふやだが……明確に悪意を持って接してくる連中は、忠義度5以下の者ばかりだった気がする。
あの侍は法律にのっとって流華の右手首を切断するぐらいには冷淡だが、私利私欲のために金品を横領するほどの悪党ではない……。
俺はそう判断したのだ。
そして、数日後――
「賠償の手続きは終わった。思ったよりも多い出費になったが、まぁいい」
俺は宿屋の一室で、紅葉と流華と向き合いながらそう告げた。
俺の言葉に、流華が顔をうつむける。
「す、すまねぇ……。オレのために、あんな大金を……」
「気にするな。これは俺の罪滅ぼしでもあるんだ」
「で、でもよぉ……」
流華がなおも恐縮する。
彼の右手首が失われたのは、俺の独りよがりな倫理観や正義感が原因だ。
申し訳ない気持ちでいっぱいである。
まぁ、仮に俺がいなくても、いずれは他の者に捕まって仏顔三度法を適用されていたかもしれないが……。
それはそれだ。
もしかすると、のらりくらりと逃げ続けていたかもしれないし、あるいは他の生き方を見つけていた可能性もあるしな。
「あ、あの侍野郎……。好き勝手に吹っ掛けてきやがって……」
流華がギリッと歯噛みする。
侍が伝えてきた賠償額は、想定よりもずっと多かったのだ。
だが、別にぼったくりとかではない。
指紋認証や映像記録がないこの街では、スリの被害額を正確に算出するのが難しいという事情がある。
そのため、侍たちの取り調べ記録や被害者のこれまでの訴えなどを参考に、ざっくりと多めに算出したらしい。
これが商取引ならば、不合理な算出方法である。
しかし、今回は俺たちが加害者側であり、法により処罰から逃れようとしている立場だ。
甘んじて受け入れねばならないだろう。
「いいって、流華。気にするな」
「兄貴がそう言うならいいけど……」
流華はなおも申し訳無さそうな顔をしている。
聞いての通り、彼から俺への呼称が『兄貴』になってしまっているが、俺はそれも受け入れた。
彼なりの信頼の証なのだろう。
紅葉のように丁寧語を使ったり『高志さん』と呼んだりしてくれても、それはそれで嬉しいが……。
やはり、年下の少年から『兄貴』と呼ばれるのは男心をくすぐるものがあるな。
おぼろげな記憶によると、俺にも『兄貴』と呼んで慕っていた人たちがいた気がする。
そういった大切な人との記憶を取り戻すためにも、まずは目の前の問題から片付けていかねばならない。
「では、心の準備はいいか?」
「ああ……。オレなりに、謝罪ってのをやってみる」
「そうか。じゃあ、行こう」
俺たちは宿を出て、大通りに向かう。
さて……無事に謝罪を受け取ってもらえるといいのだが……。
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