750話 今助けてやる

 ミティの実力行使に乗じて、賭博場を制圧した。


「ちぃっ! せっかく手にしたお宝が……」


「あれだけ仕込みに手間を掛けたのによぉ」


「おいしいところを持ってかれちまうのか……」


 ロッシュや五英傑が、何やら未練がましく呟いている。


「お前たち、この期に及んでまだ何か隠しているのか?」


「……お前には関係のないことだ!」


「そうやって怒鳴っていれば、俺たちが怯むと思っているのか? それが通じるのは、一般人か、せいぜい駆け出し冒険者くらいまでだ。俺がBランク冒険者であることは知っているだろう?」


「ぐっ……」


 男たちが怯む。

 この『闇蛇団』は、騎士団の目をかいくぐって活動していた点が厄介な組織だ。

 しかしその一方で、戦闘能力においては『黒狼団』や『白狼団』には一歩劣る。

 彼らが多少凄んだところで、俺には通じない。


 ……内心では少しだけビビっていることは内緒だ。

 俺の戦闘能力はほぼほぼチートによって得たものだからか、格下相手でも結構怖いのだ。


「……そんなに気になるなら、見てくればいいさ。中にはとびきりの宝がある」


「ほう! それはそれは……。よし、見てみよう。みんな、ここの後処理は頼むぞ」


「ははっ! お任せください! タカシ様」


 ミティが元気よくそう返事をする。


「残党がいるかもしれません。アタシもいっしょに……」


「不要です。タカシ様なら、残党程度に不覚を取ることはありません」


 ナオミが同行を申し出たが、ミティがキッパリと却下する。

 まぁ、こういう閉じられた空間内における戦闘において、俺が負けることはまずない。

 野外における長期の旅路だとか、普段の寝泊まりなどであれば、警備の者は多いに越したことはないが……。

 ここはミティの言う通り、俺ひとりで十分だろう。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は賭博場の隅にあった扉を開け、その奥へと進む。

 扉の先はそこそこ長い廊下になっており、左右にはいくつかの扉があった。

 扉のひとつを開けると、そこは倉庫のような部屋だった。

 大きな木箱がいくつも積まれている。


 廊下に戻ってまた別の扉を開けると、そこにはベッドや椅子などの家具が置かれた寝室が広がっていた。

 俺は再び廊下に戻る。


「ふうむ。物置や休憩部屋が用意されているのか。さほどきれいではないし、『闇蛇団』のメンバー用のものか」


 俺は独り言を呟きながら、さらにいくつもの扉を開けていく。

 意外に広々とした間取りには驚いたが、金目のものは少ない。

 男が言っていた『とびきりの宝』とやらを探してみたが、見当たらない。


「本当にここに宝物なんてあるのか? まさか、俺を騙しやがったのか?」


 あんな状況から嘘をつく理由もない気がするが、現に宝は見つからない。

 俺が疑念を持ち始めたときだった。


「うぅ……。ぐすっ」


「……!?」


 泣き声が聞こえた。


「子どもの声か?」


 トパーズが口を滑らせていた、例の奴隷堕ち少女だろうか?

 だとすれば、一刻も早く救助して安心させてやる必要がある。

 だが、もしかしたら『闇蛇団』残党の何かしらの罠とかの可能性もある。

 俺はとりあえず足音を立てないよう注意しながら、ゆっくりと歩く。


(ここか)


 1番奥の部屋。

 他より豪華な装飾が施されたドアを、そっと開けた。

 部屋の中は薄暗く、わずかに漏れる光の中に人影が見える。


「…………」


「ひぐっ! ふぇええん! ……ぐすっ!」


 俺は、一瞬言葉を失った。

 泣いている女の子。

 百歩譲って、それはいい。


 問題は、その子の姿だ。

 薄切れ一枚すら身につけていない。

 真っ裸で、イスの上に拘束されていた。

 しかも、ご丁寧に足がM字に広げられており、大切なところが丸見えとなっている。


「これは……」


 どう見ても、乱暴をされていた最中にしか見えない。

 そう言えば、ロッシュや五英傑たちは『いいところを邪魔された』とか『とびきりの宝』とか言っていたな。

 ひょっとすると、この子を辱めて楽しもうとしていた途中だったのかもしれない。

 そこに俺やミティがカジノ荒らしをしているという連絡があり、この子を放って慌ててカジノの方に顔を出したといったところか。


「おい。大丈夫か? 今助けてやる」


「……ひっ! いやあああっ!!」


「おっと! 落ち着け! 俺は、君を助けに来たんだ」


「や、やだあああぁっ! 騎士様、助けてぇっ!!」


 俺の言葉が届いていないのか、少女は悲鳴を上げて暴れる。

 見たところ、少女に外傷はない。

 顔も肌も、きれいなものだ。

 ロリコン揃いの『闇蛇団』は、少女を無闇に傷つけるのは避けたのだろうか。


 だが、心は別だ。

 全裸でイスに縛り付けられて、恥部を晒しているこの状況は、かなり精神的にキツイものがあるはずだ。


(あのクソ野郎どもが……!)


 俺は内心で怒りを募らせる。

 イエスロリータノータッチの精神にはギリギリ則っていると言えなくもないが……。

 明らかにこれはやり過ぎだよ。

 同じロリコンとして恥ずかしい。

 俺は思わず、魔力と闘気を練り上げる。


「あっ……。ひ、ひいぃっ……!」


 少女が怯えたように、小さく叫ぶ。

 俺が放つ殺気に気づいたようだ。


「あ、すまん。俺は怖くないからな。すぐに解放してやる」


 怒りの余り少女を怖がらせるなんて、本末転倒じゃないか。

 『闇蛇団』の鬼畜変態ロリコンどもには、相応の報いを受けさせてやる。

 だが、それはそれとして今は怒りを鎮め、少女を救わなくては。

 俺は優しい足取りで少女に近づいていくことにしたのだった。

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