716話 三者三様の戦い

 タカシがスラム内に突入して暴れている頃……。

 他の方面では、ベアトリクスが賊と対峙していた。


「大人しくお縄につくがいい。そうすれば、命だけは助けてやろう」


「ベアトリクス第三王女殿下か……! これは大物が出たものだ」


「マズイっすよ! 俺らかなり終わってます! 捕まれば重罪、下手に抵抗して王族を傷つければ、それこそ死刑は免れないっすよ!!」


「構わん。どの道、王家が本腰を入れた時点でオレたちは終わりだ。ならば、最後の悪あがきをするのみ!」


 賊たちが戦闘態勢を整えていく。


「ふん。抵抗を選ぶか。往生際の悪い奴らめ」


「うるせえ! やらなきゃ、やられるんだろうがよ!!」


「せめて仲間が逃げる時間は稼いでやるっす! 王族だろうが、傷つけることを恐れている場合じゃないっす!!」


 リーダー格の2人を始め、賊たちの士気は高い。

 しかし……。


「愚か者どもが。何の心配をしている? 我が、貴様らに傷つけられるだと? そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ぬわ」


「上等だコラ!」


「第三王女の実力は、せいぜいCランク上位。お情けでBランクに上げてもらったという噂っす」


「オレたちだって、地べたを這いずりながらしぶとく生きてきたんだ! お高くとまった王族が、舐めるんじゃねえ!!」


 賊たちが一斉に飛びかかってきた。

 しかし、ベアトリクスに焦りの色はない。


「王家の威光を笠に着た勘違い王女。一部で我がそう噂されていることぐらいは知っておる」


 ベアトリスは余裕の表情を浮かべつつ、剣を構えた。


「だがな……。今や、それは間違いだ。我が愛する夫、ハイブリッジとの鍛錬により、真の力を手にした!」


「ひゃはは! お硬い第三王女が噂の新貴族にたらしこまれたっていうのは、本当だったか!」


「その男も気の毒に! こんなじゃじゃ馬が相手じゃ、さぞかし苦労するだろうっす!!」


「色に溺れた第三王女、恐れるに足らず!! くたばれやーーー!!!」


 賊たちは、口々に叫び声を上げながら、ベアトリクスに飛びかかる。


「これが我の新技だ! 【スターダスト・サザンクロス】ッ!!」


 ベアトリクスが双剣を振り下ろす。

 すると、そこから十字状に光の奔流が放たれ、瞬く間に賊たちを包み込んだ。


「「「ぐああぁぁぁぁぁ!!」」」


 ……そして、光が消えた後、そこに立っていたのはベアトリクス1人だった。


「ふむ。やはり、まだまだ改善の余地があるな。威力調整が難しい……」


 ベアトリクスはそう呟きながら、自らの新技の出来に不満げな様子を見せた。

 彼女が放った技は、本来であれば広範囲を壊滅させる威力を持つ。

 しかし、今回はあえて威力を抑えた。


 この場にいて抵抗の意思を示しているのは、盗賊。

 それは間違いない。


 だが、その個々の罪状は不明だ。

 人殺し、強姦、放火などの重犯罪は、王都では少なく抑えられている。

 この場にいる者たちも、大半はコソドロやひったくり程度だろう。

 もちろんそれはそれで取り締まるべき対象なのだが、問答無用で殺すほどではない。


「さて、貴様らの出番だ! こやつらを捕縛せよ!」


「「「はっ!」」」


 ベアトリクスの指示を受けて、王都騎士団の面々が動き出す。

 こうして、ベアトリクスの担当区域の賊は順調に捕らえられていったのだった。



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 ベアトリクスが作戦を進めている頃……。

 また別の方面では、シュタインが賊と対峙していた。


「さすがは王都だな。賊もそれなりに強い」


 彼が感嘆の声を上げる。

 目の前には、10人ほどの賊が倒れ伏していた。

 だが、それをまとめていたリーダー格の大男はまだ立っている。


「ぜえ、ぜえ……」


 ギリギリ立ってはいるが、既に満身創痍だ。

 賊の中では強くとも、武功を評価されて騎士爵を授かったシュタインの敵ではない。


「……くっ。”紅剣”ばかり警戒していた……! まさか”聖騎士”まで出てくるとは……。王家もそれだけ本気だということか……」


 紅剣はタカシの二つ名、聖騎士はシュタインの二つ名だ。

 両者ともサザリアナ王国において知名度が高い。

 特にタカシについては、ここ最近で一気に広まっている。


「お前たちはやり過ぎたんだよ。多少なら、ネルエラ陛下も必要悪だとして黙認していただろうが……。金貨2000枚を見過ごすほど、陛下は甘くはない」


「ちいっ! 今回の取り分があれば、しばらく食うに困らねえと思ったが……」


「年貢の納め時ってやつだな。諦めたまえ」


「ふざけるな! まだ、俺は負けちゃいねー!!」


 賊のリーダー格が叫び声を上げた。

 2人の戦いは佳境を迎えるのであった。



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 場面はタカシのところに戻る。

 通信の魔道具の使い方を聞くため、タカシがホプテンスに話し掛けている。

 ホプテンスは落ち着いたものだが、それを見る取り巻きの賊たちは狼狽している。


「頼むから逃げてください!!」


「ホプテンス頭領ーー!!!」


 取り巻きの叫び声、そして目の前にいるタカシの存在を意に介さず、ホプテンスは何やらトランプを用いて占いのようなものを始めた。


「『戦闘』……敗北率100パーセント。『逃走』……成功率13パーセント。『防御』……回避率77パーセント」


「聞こえなかったか? この通信の魔道具の使い方を知りたいのだが……」


 無視されていることにめげず、タカシが再び同じ質問をする。


「『生存』……死亡率……0パーセント」


 そこまで占って、ようやくホプテンスは納得したようだ。

 彼がトランプを仕舞い、顔を上げてタカシに返答する。


「オレは魔道具に詳しくない。他をあたってくれ……」


「いやぁそれが……。通信できないとなれば、心配した愛する妻たちがいずれ突入してくるだろう。その前に、危険な男は排除しておきたい」


「…………」


「お前のことだよ。”白狼団”の頭領、ホプテンス……!!」


 タカシが男を睨む。

 今回の作戦決行にあたり、優先度の高い標的は頭に入れている。

 ホプテンスはその内の1人だった。


「速度は……”重さ”。爆速で蹴られた事はあるか?」


 タカシが自身の足付近に小さな爆発を起こさせる。

 その威力を利用した超速の蹴りがホプテンスを襲った。


 ドゴオオォーン!!!

 彼は弾き飛ばされ、周囲に凄まじい轟音が響き渡る。

 砂煙が巻き起こり、辺り一面に土埃が立ち込めたのだった。

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