714話 ひ、人が乗ってるぞ……!!

 黒狼団を王都に連行してネルエラ陛下に謁見したところ、足りない金貨2000枚の話になった。

 どうやらスラム街に潜んでいる盗賊団が隠し持っているらしい。

 黒狼団以外にも複数の大型盗賊団が存在し、それを今回殲滅することになった。


 隊長のベアトリクスの他、副隊長に俺とシュタイン。

 そして、その他王都騎士団を中心としたメンバーをベアトリクスが編成し集めた。


「諸君! 今回の任務は、盗まれた王国予算を奪還するためのものである!! だが同時に、王都の治安維持も兼ねている! くれぐれもしっかり役目を全うするように! 特に、ハイブリッジ男爵!!」


「ん!?」


 突然名指しされて、俺はビクッとする。


「黒狼団との戦いの直後で、疲れも残っているであろうが、今回は頼りにしておるからな! しっかり働いてもらうぞ! もちろん、無理は禁物だが!」


「あ、ああ。頑張るさ……」


 ベアトリクスが珍しく優しい言葉を掛けてくれる。

 それだけ、今回の戦いにおける俺の働きを期待してくれているということだ。

 嬉しい気持ちと照れ臭い気分が入り混じる。


 しかし、そんな気持ちに浸っている場合ではなかった。

 すぐに出発の準備に取り掛かる。


「では、各自の健闘を祈る! くれぐれも無闇な殺傷は控えるように!」


「ああ、ベアトリクスとシュタインも気をつけてな」


「我が盟友ばかりにいいところを持っていかれるわけにはいかない。私もそろそろ活躍させてもらおう」


 俺たちはそんな言葉を掛け合いつつ、別れる。

 王都騎士団の面々がそれぞれに付いてきている。

 さすがは王都だけあって、スラム街も結構な広さがあるなぁ。


 一般街からスラム街へと切り替わる境目あたりで、俺が率いる隊は一時停止した。

 というのも、何やらバリケードのようなものが築かれていたからだ。

 スラム街といっても一枚岩ではないはずだが、騎士団の面々を警戒しているという点では同じ。

 これを突破するのはなかなか苦労しそうだ。


「ふうむ。俺たちがやって来ることを見越していたようだな……」


 そういえば、黒狼団を撃破したときに、何やらボソボソと呟いている奴がいた。

 今さらだが、通信の魔道具あたりで王都の奴らと連絡でもしていたのかもしれない。


「よし。では、まずは俺が乗り込んで、中から撹乱しよう」


 黒狼団との戦いでもそうだったが、愛する妻たちを危険な目に遭わせたくない。

 とはいえ、彼女たちは加護の恩恵により高い能力を持つ。

 世界滅亡の危機に立ち向かうためにも、完全に遊ばせておくわけにはいかないだろう。


 危険な先陣は俺が切りつつも、その後の戦闘には彼女たちにも参加してもらう。

 それぐらいのバランスがベストだと思ったのだ。

 俺は作戦の詳細をミティに伝達する。


「あの……。本当にやるのですか? タカシ様」


「ああ、思いっきりやってくれ」


「でも……」


「だいじょうぶだ。無事に到達したら、すぐに通信の魔道具で連絡する。そうしたら、みんなで駆けつけてくれればいい」


「わ、わかりました! やるからには全力でいきます!! むんっ!」


 ミティが闘気を高めていく。

 そして、アイテムバッグから砲弾くらいの大きさの岩を取り出したのだった。



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 タカシたちがスラム街の入り口あたりに陣取っている頃……。

 スラム街内部では、混乱が広がっていた。


「見張り台から騎士団が見えるって……」


「指揮官は紅の剣を持っているらしい! ”紅剣”が来たんだ……!!!」


「早く逃げなきゃ殺されるぞ!!!」


 スラム街の住人たちは慌てふためく。

 騎士団がやって来たというだけでも恐怖なのに、それが紅の剣を持っていたら尚更だ。


 だが、実際のタカシは、人を殺したことがない。

 本人曰く、自分と敵対した者には容赦しないという覚悟を持っているらしいが、それもどこまでが本当なのか怪しいものだ。


 今回の掃討戦についても、目的はあくまで金貨2000枚の奪還。

 ついでに、王都の治安を良くする。

 悪意を持ってハイブリッジ男爵家に害をなそうとした盗賊団がいるわけでもないので、タカシは今回の作戦でも不殺を貫くだろう。


「どこでもいい! この場から逃げるんだ!」


「だ、だが……。他の方面も騎士団が詰めてきている!」


「八方塞がりだ!」


 タカシの気性を知らない彼らは、絶望感に打ちひしがれている。

 ドンッ!!!

 不意に大砲が発射されたような音が聞こえてきた。


「う、嘘だろ!? まさか大砲か!?」


「いきなりかよ! くそ、容赦ねえな……」


「いや……。何か変だぞ……。…………!!」


 大砲の弾道を見極めようとしていた男が目を見開く。


「ひ、人が乗ってるぞ……!!」


「えっ?」


 彼の言葉を聞いた別の男は、目を凝らす。

 確かに、砲弾の上には人が乗っていた。

 紅色の剣を担いだ騎士だ。


「ウソだろ!?」


「バ、バカなあああぁーーーっ!!!」


 ドゴーン!!!

 住民たちの悲鳴とともに、騎士を乗せた砲弾が地面に激突した。

 直撃した者はいなかったが、周囲に土煙が舞う。

 かなりの衝撃だ。

 もちろん普通であれば、乗っていた騎士も大ケガをしているところだが……。


「あー。こちらはタカシ。無事に到着した。応答願う」


 騎士は何事もなかったかのように立っており、通信の魔道具を使って何やら話している。

 彼を恐怖の目で見る者、逃げ惑う者、ただただ混乱し座り込む者。

 スラム街は、混乱の極地に陥ったのであった。

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