693話 我はここに宣言する!
俺はネルエラ陛下との戦いに勝利した。
彼を消し炭にしたのはやり過ぎかと焦ったのだが、なぜか彼はピンピンしている。
その上、ネルエラ陛下、ミティ、ベアトリクス、審判のイリーナなどが『ドッキリ大成功』と書かれた紙を持っているのだ。
まったく意味が分からない。
「一体どういう事なのです?」
「はっはっは! 先ほども言った通り、これは貴様の人柄と実力を見定めるための試験のようなものだったのだよ。そして、見事に貴様はこの試験にクリアしたというわけだ」
「なんですって? しかしそのためだけに、みんなを巻き込んでこれほどのことを? それにドッキリのためとはいえ、陛下の実の娘であるベアトリクス殿下を攻撃するのはやり過ぎでしょう!」
俺は憤りを感じる。
確かに、俺の実力を確かめるために、陛下自ら俺と戦ったのは分かる。
だが、そのために無関係の人たちまで巻き込むなんて、許されるはずがない。
「はっはっは! 愛する娘を本気で攻撃するはずがなかろう! 雷撃はただの『パラライズ』系統の魔法だし、物理攻撃には大して力を入れていない。それに、この程度のことでもなければ、貴様の本当の力を見ることができなかっただろうからな」
「くっ……」
俺は歯噛みする。
確かに彼の言う通りかもしれない。
俺がどの程度の実力を持つのかを把握するには、こうして状況を整える必要があった。
最初は『獄炎滅心』を出すつもりはなかったし、ましてや奥の手である紅剣アヴァロンの『解放』を行うつもりなんてさらさらなかった。
「ベアトリクス。お前はこれを知っていたんだな? つまり、俺との決闘はお遊びだったと?」
俺は怒りを込めて尋ねる。
だが、ベアトリクスの顔色は優れない。
「すまない……。いくら我でも、父上を止めることは難しかったのだ……」
彼女はそう言って、深々と頭を下げた。
「だが、戦いには真剣に取り組んだ。我があっさり勝つようであれば、そもそも父上が乱入することもない段取りだった。改めて驚かされたぞ。貴様の力は本物だと」
「なるほどな。……まあいい。勝負は俺が勝ったんだ。約束通り、レインは俺に返してもらうぞ」
「ああ、承知した。そもそも、我が勝っても同じようにするつもりだった」
「うん? それはなぜだ?」
今回の決闘騒ぎの発端は、どMのレインを俺が責めているプレイを、ベアトリクスが目撃してしまったことだ。
逆らうことができない弱い立場のメイドを俺が虐待していると勘違いされたのである。
だからこそ、ベアトリクスは俺を決闘で下し、レインを保護しようと考えていた。
「そのことなのだが……。実はあれから、その娘に詳細を聞いていたのだ。……その、なんだ。男女の営みというのは、様々な趣向があるのだな。ハイブリッジはそういうことに詳しいのか?」
ベアトリクスが恥ずかしそうに聞いてくる。
「ん? あぁ……。まぁそうだな」
ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レイン。
それぞれの趣味嗜好がある。
積極的なミティ。
舌使いと腰使いが上手なモニカ。
野外で開放感と共に交わるのが好きなユナ。
全裸で街や自然の中を疾走するのが好きな蓮華。
どMのレイン。
俺は割りと何でもいけるタイプなので、それぞれに合わせて楽しませてもらっている。
「そ、そうか……。知らなかった……。いや、知識としては知ってはいたが、実際に見たのは始めてで……。あれほど本格的にするものだとは思っていなかったのだ……」
ベアトリクスは頬を赤らめながらモジモジしている。
俺とレインの尻たたきプレイは、かなり激しかった。
レインを満足させるには、それぐらいは必要だからだ。
普通の人が少し楽しむぐらいなら、もっと大人しい尻たたきになっていただろう。
「まあ、俺とレインは上級者だからな」
ベアトリクスの初めての目撃があれになってしまって、彼女の常識が歪められていないか心配だ。
こうして少しだけ訂正しておくことにする。
「うむ。そうか……。上級者とはすごいのだな……」
ベアトリクスが納得してくれたようだ。
彼女が神妙な顔で頷いている。
「はっはっは! ハイブリッジは本当に好色漢だな! まさかこれほどとは!」
「ええと……。まあ、はい……」
否定したいところだが、8人もの妻を娶っておいてそれは通じないだろう。
その上、妻以外にも手を出していることがバレたわけだし。
「よかろう! じゃじゃ馬のベアトリクスの相手をできるのは、ハイブリッジしかおらぬ! 我はそれを確信した!!」
「は、はあ……。俺ぐらいしかいない……と言っても過言ではないかもしれませんが……」
ベアトリクスは強い。
彼女を相手にできる者は限られているだろう。
まあ、俺以外にもミリオンズのみんなや、誓約の五騎士とかは十分に戦えると思うが……。
ネルエラ陛下は何が言いたいのだろう?
「我はここに宣言する! 我が娘ベアトリクス=サザリアナ=ルムガンドと、タカシ=ハイブリッジ騎士爵の婚約を認める! 異論のあるものは前に出ろ!」
彼がそう叫んだ。
「なんですって!?」
「…………は?」
俺とベアトリクスは、2人して口をポカンと開けてしまう。
「「「「「「おおおぉ~!!!」」」」」」
周囲の者……ミリオンズのみんなや騎士たちから、盛大な拍手と歓声が上がった。
「お、お待ちください、父上!! 我とハイブリッジは、まだそんな仲ではございません。いきなり結婚などと言われても……。まずは彼の素質を見抜くだけという話だったはずでは……」
「はっはっは! 『まだ』と言っているあたり、憎からず思っているのだろう? 普段の言動からも、それが透けて見えていた。我が気づいておらぬとでも思ったか!」
ベアトリクスの焦りを他所に、彼は自信満々に断定する。
さすがは一国の王だ。
その決断に、少しの揺らぎも生じていない。
「陛下! 俺には既に8人の愛する妻が……」
「よい! 貴様の好色具合は知っておる! 今さら1人増えたところで、放ったらかしにすることなどないであろう! それに、我がベアトリクスを攻撃した際の貴様の怒りは本物だった! あれを見て確信したぞ! やはり、じゃじゃ馬ベアトリクスは貴様に託すしかないとな!」
「ぐぬぅ……」
俺は言葉に詰まる。
確かに、あの時は本気で怒っていたかもしれない。
でなければ、一国の王に喧嘩を売るなんて無謀なマネをすることはなかった。
「はっはっは! 他に異論のある奴はおらぬな? では、その方向性で調整するぞ! まずは叙爵式で婚約を正式に発表する! 実際に結婚式を上げるのは、ヤマト連邦の件が片付いてからだ!!」
「「「「「はっ!」」」」」
「「…………」」
ネルエラ陛下の宣言に、元気よく返事をする一同。
俺とベアトリクスは、ただ沈黙して思考を整理するのに精一杯だった。
どうしてこうなった。
--------------------------------------------------
小説家になろうの新作ですが、おかげさまで日間ランキングに入ることができました!
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
新作の宣伝はひとまず終わります。
まだの方はぜひ読んでみてください。
本作「無職だけど~」も引き続き更新していきますので、何卒よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます