661話 村の子どもたちと遊ぶ

 ゴブリンの群れを殲滅し、村に平和が訪れた。

 報酬も割安にしておいたし、村長や村人たちは感激している様子だ。


「せめてものお礼としまして、ゴブリンやオークの運搬と解体はお任せください! 村の者たち総出で行わせていただきます!」


「おう! それぐらいなら俺たちでもできらぁな!」


「任せてくれよ!」


 村人たちが張り切る。

 今回のように魔物の巣に乗り込んで殲滅した場合、冒険者の取る選択肢は主に3つある。


 1つは、魔物の死体を放棄すること。

 大自然の奥地ならその場に放っておいても大きな問題はないし、焼却や埋葬などの手もある。

 依頼達成時の報酬が十分なら、魔物の素材の売却益などは微々たるものと考える場合があるのだ。

 持ち帰ったり解体するのにも手間が掛かるからな。

 それに、討伐者が冒険者であれば、謎の高度技術によりギルドカードに討伐した魔物が自動で記録される。

 討伐報酬金はそれでもらえるので、低ランクの魔物を持ち帰る意味は高ランク冒険者にとってはあまりない。


 次の1つは、自分たちで持ち帰り、そのまま冒険者ギルドに引き渡すこと。

 解体の手間は掛からないが、運搬に人手が掛かる。

 ポーターを雇っているパーティや、アイテムバッグ持ち・空間魔法使い持ちのパーティならではの選択肢だと言っていい。

 ミリオンズは通常この方針で運用している。

 俺が空間魔法のアイテムボックスとアイテムルームを使えるし、ミティはアイテムバッグを持っている。

 また、ジェイネフェリアから購入した新たしいアイテムバッグもあるしな。


 最後の1つは、自分たちで解体した上で持ち帰り、冒険者ギルドに引き渡すことだ。

 一口に魔物の素材とは言っても、その市場価格にはピンキリがある。

 オークの場合は、食用に適した一部の肉はそれなりの値段が付く。

 しかし、大半の部位は安い買取額となることが多い。

 ゴブリンの場合はさらに安い。

 ほぼ捨て値同然だ。

 それでも駆け出しのEランク冒険者あたりにとっては貴重な収入源となるので、頑張って解体し運搬するのが一般的だが。


「解体はお願いしよう。しかし、運搬は不要だ」


 ここで解体しておけば、冒険者ギルドに引き渡したときの買値が上がるだろう。

 冒険者ギルド側にとっての不要な作業が減るからな。

 そして、不要な部位はここで捨てていけばいい。

 アイテムルームの容量には余裕があるが、収納量に応じて常時MPを消費する。

 今の俺にとっては問題があるような消費量ではないが、消費MPは少なければ少ないほどいい。


「え? よろしいのですか? 数十体の魔物の運搬など、高貴な方々のお手を煩わせるような仕事ではありませんが……」


 村長が不思議そうな顔をする。


「ああ。俺たちには必要のないことだ。なぜなら……」


 俺はアイテムルームを起動し、亜空間に収納してある大量の魔物を取り出した。

 ドサドサッ!

 村の中央広場に、魔物の死体が積み上がる。


「このように、俺にはアイテムルームがあるからな。これに入れて運んできていたのさ」


 俺がそう言うと、村人たちはあんぐりと口を開けて固まってしまった。


「く、空間魔法……? 使える者自体は何人か知っていますが、せいぜい貨幣や鍵などの貴重品を入れておく程度……。これほどの容量をお持ちだとは……」


 村長が信じられないという表情をする。


「ハイブリッジ騎士爵様は、空間魔法のエキスパートだったのか!」


「バカ言え! ”紅剣”の二つ名通り、剣術に長けている御方だ!」


「農業改革を始めとして、内政面でも多大な功績を上げられていると聞いているぞ」


「噂では、不治の病に侵された難病患者を何人も治療されてきたとか。治療魔法の技量も飛び抜けていると……」


 村人たちが口々に騒ぐ。


「では、解体の方を頼むぞ。魔石が出てきたら確保しておいてくれ。オークのうまい箇所の肉もいくらか欲しいな。後の安いところは村で好きに使ってくれ。不要なら処分してくれてもいい」


「お、おおぉ……! かしこまりました!」


 村長が元気よく返事をした。

 他の村人たちのテンションも上がっている。

 こうして、俺たちは魔物の討伐依頼を無事に終えたのだった。





 魔物の解体作業が進められていく。

 ハイブリッジ家の面々は、森で狩りをしたり、解体作業を手伝ったり、ぐうたらしたり、鍛錬をしたり、思い思いに過ごしている。

 そんな中、俺は村の子どもたちと一緒に遊んでいた。


「よーし! 次はお兄ちゃんが鬼だ! 10数えてから追いかけるからな!」


「わーい!」


「きゃー!」


 子どもたちが楽しそうに逃げ回る。

 俺が鬼役になって、みんなを追いかけ回すのだ。

 もちろん、本気で追い回せばすぐに終わってしまうので、手加減しながらだが。


「ほらほら! 捕まえちゃうぞ~?」


「キャハハッ!」


「あははっ!」


 子どもというのは、実に無邪気で可愛いものだ。

 生まれたばかりの我が子がもちろん一番可愛いが、これぐらいの年頃の子はまた違った可愛らしさがある。

 うちの子もこんな感じに育ってほしいものだなぁ……。


「おお……。貴族様に村の子と遊んでいただけるとは……。なんと恐れ多い……。子どもたちには一生の思い出となりましょう」


 村長が解体作業の指揮の傍ら、そんなことを言った。

 彼を始めとした村の大人たちは魔物の解体作業を行っている。

 子どもの中でも、10歳ぐらいの子は一応の手伝いをしているのだが、まだ小さい子たちは退屈そうだ。

 そこで、俺が相手をすることにしたというわけだ。


 別に放ったらかしでもいいが、俺には加護付与というスキルがあるからな。

 こういう場面で、少しでも忠義度を稼いでおきたい。

 特に子どもは忠義度が上がりやすい傾向があるし。


「ねえ、お爺様。あのお方は本当に貴族様なのですか?」


 村長の孫娘が、俺の方を見ながら村長に質問した。

 彼女は6歳。

 俺の配下のリンやロロよりもさらに年下である。


「ああ、そうだとも。あの名高いハイブリッジ家のご当主様だ」


「もっと怖そうな人だと思っていました。強い魔物をたくさん倒されたそうですし」


 孫娘の言葉に、村長は苦笑する。


「まあ、お前の気持ちも分かるよ。儂も初めてお会いしたときは驚いたからな。しかしな……、実際にお話してみると、とても優しい御方なのだ。解体した魔物も、一部はこちらに提供してくださるそうだぞ」


「優しいお方なのですね。すごい……」


 彼女が目を輝かせて俺を見る。


「それに、とてもカッコいいです! まるで物語の勇者みたい……」


 彼女が頬を赤らめて言う。

 どうやら、俺に憧れてくれているようだ。

 彼女がこちらに近づいてくる。

 俺はかがんで、彼女と視線を合わせる。


「君の名前はなんていうんだい?」


 せっかく俺に憧れてくれているんだ。

 少し話して、友好を深めておこう。


「私はラフィーナと言います!」


「そっか。ラフィーナは将来何になりたいのかな?」


「将来? 今までは考えたこともありませんでした」


「うん。なら、これからゆっくりと考えて……」


 俺はそう言う。

 だが、その言葉は途中で遮られた。


「でも! 今はちがいます! 私、大きくなって立派な人になって、それで……」


「それで?」


 俺は聞き返す。

 その返答は言葉ではなく、行動によって示された。

 ちゅっ。

 俺のほっぺたに、彼女の唇が触れたのだ。


「……えへっ」


 照れくさそうに笑う彼女。


「……えっと、今のは?」


「えへへ……。私は、貴方様のお嫁さんになりたいです! 今は無理でも、きっと素敵な女性になりますから!」


 顔を真っ赤にして、そんなことを言う。

 なるほど……。

 これは予想外だったな……。


「あはは……。ありがとう。嬉しいなぁ」


 6歳の幼女とはいえ、こんなことを言われて嬉しくないわけがない。

 俺には既に8人もの妻がいることは黙っておこう。

 子どもの夢を壊すこともあるまい。


「はい! だから、それまで待っていてくださいね!」


「分かった。楽しみにしておくよ」


 俺の言葉を聞いた彼女は満面の笑顔を浮かべる。

 こうして、俺と幼女の間にフラグが立ったのだった。

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