517話 決勝戦 キリヤvsヴィルナ

 ハイブリッジ家のトーナメントが開催されている。


「さあ! 次はいよいよ、決勝戦となります! 優勝の栄冠に輝くのは、果たしてどちらか!?」


 ネリーが実況を始める。


「まずは、この人の登場だ! ハイブリッジ家の筆頭警備兵、キリヤ選手! ここまで、レイン選手、蓮華選手、ミティ様という強豪を撃破してきました!」


「「うおおおおおっ!!」」


「お前に賭けているからな!」


「期待してるぞ!」


 観客席からそんな声援が飛ぶ。


「対するはこの人! ハイブリッジ家の一般警備兵、ヴィルナ選手! セバス選手、ハナ選手、ナオン選手を下してここまで駒を進めて参りました!」


「「うおおおぉ!!」」


「ヴィルナちゃ~ん!!」


「ヴィルナさーん!!」


 彼女の人気はなかなかのようだ。

 今日の大会で名を上げたか。

 それに、もともとは冒険者として活動していたし、多少の知名度はあったのだろう。


「それでは! 試合開始!!」


 試合が始まった。


「キリヤくん。手加減はしませんよ。私の願いのために」


「ふっ。それはこっちのセリフだぜ。金をたんまりといただくために、俺は負けねえ!!」


 二人は同時に飛び出し、激しく剣を打ち付け合う。

 キリヤは双剣、ヴィルナは細剣だ。


「はあっ!」


「やあっ!」


 キンッ!

 カン!

 カァン!

 しばらく打ち合った後、一旦お互い距離を取る。


「ほう。腕を上げたな。まさか、ここまで強いとは思わなかったぞ」


「私だって、日々努力しているのです。索敵や探査だけの存在だと思わないでください!」


「そのようだ。だが、俺には勝てん。お前は体力もMPも残っていないだろう? 獣化も魔法も使えん。搦め手なしなら、俺の優位は揺るがない」


 キリヤがそう言う。

 もともと、どちらかと言えばキリヤが格上だ。

 普通に戦えば彼が勝つだろう。

 ヴィルナに勝機があるとすれば、搦め手をうまく使うこと。

 しかしここまでの戦いによる消耗で、それも難しくなっている。


「確かに……そうかもしれませんね」


「認めるのか?」


「はい。でも、疲れているのはキリヤくんも同じ! 気合でがんばりますよ!!」


「そうか。ならば、俺も全身全霊で相手するとしよう」


 再び二人がぶつかり合う。

 キン!

 ガキッ!

 ガン!

 ギィン!!

 激しい攻防が続く。


「ぐっ……」


「うっ……」


 両者がダメージを負っていく。

 しかし、やはりダメージが蓄積されているのはヴィルナの方だ。

 徐々に動きが悪くなっていく。


「ここだ!」


「あっ!」


 キリヤの剣が、ヴィルナの細剣を跳ね上げた。

 彼女が無防備になる。


「俺の勝ちだぜ!! 少し痛いだろうが、悪く思うな!」


 キリヤの剣がヴィルナに向かう。


「ひっ。きゃっ!」


 ヴィルナが怯えたような表情をして、目を瞑る。

 勝負の最中に目をつむるとは……。

 これはキリヤの勝ちで決まったな。

 俺はそう思った。


 しかし……。

 ピタッ。

 キリヤの攻撃が突然止まった。


「う……ぐ……」


 攻撃に躊躇している様子だ。

 先ほどまではやる気満々だったのに。

 怯えるヴィルナを見て、戦意を喪失したのか?


 カラン。

 キリヤの手から双剣が落ちた。


「ど、どうしたんだ!? キリヤ選手! 武器を捨ててしまったぞ!」


 ネリーが戸惑ったように叫ぶ。


「ヴィルナさーん! チャンスですよ!」


「いけえええぇ!」


「やっちまえー!!」


 選手控え席や観客席からそんな声が飛ぶ。


「えっ? あ、あれ?」


 ヴィルナはようやく目を開け、状況を把握しようとしている。

 そして、彼女の視線が武器を落としたキリヤに向かう。


「え、ええいっ!!!」


 彼女が回し蹴りを放つ。


「うっ!」


 ドガッ!

 キリヤが吹っ飛ばされた。

 ヴィルナは目をつむっていて状況を把握していなかったから仕方ないとはいえ、攻撃を逡巡してくれていたキリヤをぶっ飛ばすとはな。

 容赦ない。

 キリヤはここまでのダメージや疲労が大きかったこともあり、起き上がってこない。

 ネリーのカウントが進んでいく。


「そこまで! 勝者はヴィルナ選手!!」


「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」


 会場中から歓声が巻き起こる。


「や、やったの……? 私が優勝……?」


 ヴィルナが呆然と呟く。

 そして、サリエに治療魔法を施されたキリヤが彼女のもとに向かう。


「そうだ。お前が優勝したんだよ。見事な回し蹴りだったぜ」


「キ、キリヤくん……。最後のは……」


「俺の覚悟が足りなかっただけだ。怯えた女を攻撃するぐらいで戸惑っているようでは、警備兵として失格だ」


「でも……」


「心配すんな。望みの大金はもらえねえが、真面目に働いて稼いでいくさ。ハイブリッジ家の金払いはいいしな」


「キリヤくん……」


 ヴィルナも、ここに来て状況を把握したようだ。

 最後は、彼女への攻撃をためらったキリヤの甘さに付け込んだ形となっていた。

 お互いがガチで相手を倒そうと思っていたのなら、また違った結末になっていただろう。


「さあ! 何やらいい雰囲気のところ申し訳ありませんが、表彰式に向けた準備に移らせていただきます! 参加者は一度控え席へどうぞ!」


 司会のネリーがそう指示を出す。


「優勝者のヴィルナさんは、できれば表彰式が終わるまでに、願いをまとめておいてくださいね!」


 そうだ。

 優勝者にはその賞品もあるのだったな。

 俺にできる範囲で、願いを叶えてやる必要がある。

 はたしてヴィルナの望みは何なのだろうか?


 また、彼女以外もみんなよく健闘した。

 それぞれ、多少の望みくらいなら叶えてやってもいいだろう。


 ……ん?

 街の方角から、男がこちらに向かってきている。

 彼は、医師のナックだな。

 表彰式が始まる前の準備時間の内に、ミティを診察してもらうことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る