503話 ハイブリッジ家トーナメント開催

 王都の騎士団に所属しているというナオンが屋敷を訪ねてきた。

 さっそく採用しようと思ったのだが、キリヤと口論になってしまった。

 エリート騎士は、やや貧しい暮らしをしていたキリヤとは相性が悪いようだ。

 俺は仕方なく、間に入って彼らをなだめることにした。


「それなら、直接戦って白黒を付けてみるか?」


「「望むところだ(です)!」」


 キリヤとナオンが同時にそう叫ぶ。

 こういうときだけ息が合っているな。


「なら、さっそく始めよう。場所はこの庭でいいか……?」


 俺はそう思案する。

 と、そこにちょうどセバスがやって来た。


「お館様。いかがされましたか?」


「おう。新たにこのナオンという騎士を登用しようかと思ったのだが、その前にキリヤと試合をさせて実力を見ようかと思ってな」


「なんと。そのようなことが」


「うむ。それで、この庭で戦わせても問題ないと思うか?」


「ふむ……。大きな問題はありませんが、あまり推奨はできませんな。戦いの余波で屋敷や菜園にダメージが及ぶ可能性がありますので」


 確かに。

 さすがはセバス。

 よく考えている。


「では、場所を変えるか」


「ええっと……。それでしたら、北の草原にある広場がいいと思います。確か、”北の練習場”でしたか」


 ヴィルナがおずおずとそう口を挟む。

 北の練習場。

 かつて俺がただのDランク冒険者だった頃に、北の草原の一部に名付けた場所である。

 今ではニムの土魔法などにより整備され、よりきちんとした練習場になっている。


 時おり、初級冒険者たちが利用しているのを見かける。

 もとは俺たちミリオンズが整備したものだが、あまり利用権を制限するつもりはない。

 土地自体はミリオンズのものではないしな。

 いや、俺は領主なので厳密に言えば俺の土地なのだが。


「ふむ。確かにあそこがいいだろうな。意見をありがとう、ヴィルナ」


 俺は彼女にそう礼を言う。

 キリヤとヴィルナは幼なじみであり、普段から相当にいい雰囲気だ。

 俺は彼女に手を出すつもりはない。

 しかし、適度に忠義度を稼いでいきたいという思いもある。

 決まったお相手がいる女性相手の忠義度稼ぎは、なかなか神経を使う。

 まあ、それはともかく。


「北の練習場での模擬戦で決着を付けてもらう。キリヤとナオンもそれでいいな?」


「おう」


「構いません」


 2人がそう返答する。

 と、そのとき、また新たに人がやって来た。


「タカシの旦那! こりゃ何の騒ぎですかい?」


「見かけない女騎士がいるわね! 私のハイブリッジ家に何の用かしら?」


 Cランク冒険者のトミーとツキだ。

 後ろには、ハナとユキもいる。

 彼らは、たまにこの屋敷に顔を出すのだ。


「強そうな騎士さんだね~」


「……新しい配下の人……?」


 2人は興味深そうにナオンを見る。


「私はナオン=ネリアだ。王都の騎士団に所属している」


 彼女は毅然とそう自己紹介する。


「ほーん? 騎士団の方ですかい?」


「ああ。何でも、俺の配下として働きたいらしくてな。まずは実力を見せてもらうことにしたのだ」


「おおっと! そりゃ聞き捨てならねえ! 俺もタカシの旦那の配下に加えていただきたいですぜ!」


 トミーがそう主張する。


「私は側室入りね!」


「ハナちゃんは妾でも構わないよ~」


「……ボクは配下になりたい。不安定な冒険者よりもそっちの方が……」


 ツキ、ハナ、ユキがそう言う。

 確かに、ぽっと出の騎士をホイホイ採用していれば、彼女たちも面白くないか。


「わかったわかった。では、お前たちの実力も改めて見せてもらおう」


 これで参加者は6人になった。

 キリヤとナオン。

 トミー、そして雪月花の3人だ。


「せっかくだし、トーナメント形式にするか。優勝者には何でも1つ、望みを叶えてやろう。……もちろん、俺ができる範囲でだが」


「「「おおおおぉっ!!!」」」


 俺の言葉を聞いて、みんなが嬉しそうに身を乗り出す。

 それぞれ、自分の強さに相当自信があるようだ。


「ちょっと待てや。それならあたいも参加するぜ」


「俺も出たいな」


「そうですね。私も参加したいです!」


 クリスティ、ネスター、ヒナがそう言う。

 どこから聞きつけたのか、いつの間にか多くの人が集結していた。


「へ、へえ……。聞きましたか? ミティさん」


「もちろん聞きました。ここは私が優勝して、願いを叶えてもらいます。むんっ!」


 ニムとミティがそう言う。


「ま、負けませんよ。震えて眠ってください。いよいよタカシさんとわたしが結婚して、わたしの時代が始まるのです!」


「まさか私に勝てるつもりですか? 寝ぼけているようですね」


「す、睡眠時間は十分足りています。筋肉だけではわたしの土魔法に勝てないということを、思い知らせてあげましょう」


「むきぃ~っ」


「ふふふふふふ」


 なんだかバチバチと火花が散っているような気がする……。

 普段のミティとニムは、特別に仲良しというほどではないが、険悪というわけでもない。

 優勝賞品を目指して、2人の闘争心に火がついてしまったようだな。


「まあまあ。落ち着け2人とも。ケガがないように気をつけろよ」


 俺はそう言って場を収める。

 特にミティは、ここ最近で体調不良でおとなしくしているときも多かった。

 あまりムチャはできないだろう。


「ええと……。今で11人か。あと5人いれば、ちょうど16人のトーナメントができるな……。セバス、だれか心当たりはないか?」


「そうですなあ……」


 セバスがチラリと視線を向ける。

 彼の視線の先には……。

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