474話 索敵能力

 ルクアージュを出発して数日が経過した。

 遭遇した魔物たちを軽く蹴散らしつつ、のんびりと馬車に揺られているところである。

 馬車は2台だ。


「へへへ。タカシの旦那のおかげで、安心して道を進めますぜ」


「だな! いくら整備されている街道とはいえ、こんなに気を抜けるとは思っていなかったぜ!」


 トミーたちがそう言う。

 2台のうち1台は、トミーとそのパーティメンバーが乗っている。

 何でも、少し前に奮発して中古の馬車を購入したそうだ。

 彼らはCランクパーティであり食うには困らないだけの稼ぎがあるが、さすがに新品の馬車をポンと買えるほどの余裕はない。


 一口にCランク冒険者と言っても、稼ぎにはある程度の幅がある。

 Cランクになりたての者もいれば、既に特別表彰者でありBランク間近の者もいるからな。

 また、普段こなす依頼や拠点としている狩場などによっても差は生じる。


 とはいえ、極端に活動を控えめにしている者でもない限り、Cランク冒険者という時点で年収として金貨500枚以上は稼いでいるだろうが。

 Cランクの上位層なら、金貨1000枚以上稼いでいる者もいるだろう。

 そこから武器のメンテナンス費、ポーションや小道具などの諸経費、生活費を引いても、それなりに貯金はできる。


「俺たちが魔物から不意を突かれることは考えにくいな。まあ、主にモニカとニムのおかげだが」


 俺は彼らとは別の馬車に乗りつつ、そう言う。

 こちらの馬車にはミリオンズのみんなに加えて、雪月花の面々もいる。


 ルクアージュにて馬車を少し拡張してもらったので、この大所帯でも何とか乗れている。

 また、新しく馬を1匹購入した。

 今は3匹で馬車を引いてもらっている。


 俺も気配察知レベル2のスキルを持っているので、ある程度の索敵能力はある。

 しかし、モニカとニムはそれ以上の能力を持っている。


「うん。索敵は私に任せておいてよ」


 モニカが耳をピクピクさせながら、そう言う。

 彼女は兎獣人として、優れた聴覚を持っている。

 加えて、聴覚強化をレベル2にまで伸ばしている。


「くんくん……。わたしも常に警戒していますよ」


 ニムが鼻を鳴らしてそう言う。

 彼女は犬獣人。

 優れた嗅覚を持っている。


 モニカの聴覚もニムも嗅覚も、ミリオンズ内で突出した能力だ。

 他のメンバーにない長所である。

 ミリオンズもずいぶんと大所帯となり、単純な戦闘能力だけでは他と差別化できなくなってきている。

 できるだけオンリーワンの能力がほしいところだ。


 次にスキルポイントが入ったら、彼女たちに聴覚強化や嗅覚強化を取得・強化してもらうのもいいかもしれない。

 前回スキルを強化したのは、ラスターレイン伯爵家に惨敗した直後だった。

 差し迫った事態の中で、戦闘系のスキルばかりを重点的に強化した。


 それはそれで間違っていないのだが、今度はサポート系のスキルもほしくなってくるところだ。

 俺は冒険者として、そして貴族として順調に功績を挙げて成り上がりつつある。

 敵対者が増えてくるかもしれない。

 奇襲や暗殺に対応できるように、仲間に索敵能力を上げてもらうのは有効な選択だ。


「モニカとニムのがんばりには、いつも助けられている。ありがとう」


 警備という意味では、ラーグの街に待機中の警備兵組にがんばってもらうのもありだな。

 俺の屋敷専任の警備兵は、6人いる。

 双剣使いのキリヤ、兎獣人のヴィルナ、天眼使いのヒナ。

 猫獣人の奴隷クリスティ、元冒険者の奴隷ネスター、元冒険者の奴隷シェリーだ。


 特に、キリヤとクリスティは現時点でもCランク下位ぐらいの実力はある。

 条件次第だが、おそらくトミーと互角だろう。


 クリスティ、キリヤ、トミーあたりに加護(小)を付与できれば、非常に捗る。

 ラーグの街の自宅における安全性は絶対的なものになるだろう。

 ミリオンズに加入してもらって、連れ回すのもありだ。

 もしくは、別のパーティを新設してもらって、実質的にミリオンズ傘下のパーティとして活動してもらうのもいい。


 トミーは忠義度30台だ。

 キリヤとクリスティの現時点の忠義度は確認できないが、ラーグの街を離れる前の時点では忠義度30台だった。

 ずっと放置していたので下がっているかもしれないのが少し残念なところだ。

 まあ、結構いい待遇で雇っているので、この放置期間中にむしろ上がっている可能性もあるが。


「……むむっ! 3時の方向にゴブリンが2匹だけいるようです」


「本当だ。どうする? タカシ」


 ニムとモニカがそう言う。

 俺もそちらに意識を向けてみる。

 確かに、ゴブリンが2匹いるようだ。

 街道から逸れた森の中を歩いている。


「ゴブリンごときのために止まるのは面倒だな」


「ふふん。なら、私の弓で討伐してあげるわ」


「わたくしの水魔法でも倒してみせましょう」


 ユナとリーゼロッテがそう言う。

 確かに、遠距離攻撃ならこの2人の出番だ。

 特に、揺れる馬車の上から森の中のゴブリンを狙い撃ちするのであれば、彼女たちが最適である。


 俺やマリアの火魔法は、森に燃え移ったら大災害に発展するリスクがある。

 モニカの雷魔法も、余波で発火する恐れがある。


 ミティの投石は、繊細なコントロールができない。

 アイリスやモニカの闘気弾、ニムの土魔法も似たようなイメージだ。


 サリエの過剰治療であれば狙い撃ちできるし火災の恐れもない。

 しかし、過剰治療はややMPの消費が激しい。

 本来は治療のために発動する魔法をあえて超過発動することによってダメージを与える魔法だからな。


「ああ。ユナとリーゼの腕前を見せてくれ」


 ゴブリンのために馬車を止めるのはムダが大きいが、走りながら討伐できるのであれば討伐しておいたほうがいい。

 ほんの少しでも経験値を稼いでレベリングをするためだ。

 また、ギルド貢献値を稼いでおくという意味合いもある。

 ギルドカードには討伐した魔物の履歴を自動記録する便利な機能があるのだ。


 さらに言えば、ゴブリンは害獣なので討伐するに越したことはないという事情もある。

 周囲の住民の安全性が気持ち程度向上する。

 ユナとリーゼロッテの腕を見せてもらうことにしよう。

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