429話 火竜纏装『豪炎爆華』

 戦いは佳境を迎えようとしている。

 リカルロイゼ、シャルレーヌ、リルクヴィスト、マルセラは戦闘不能。

 残るは、リールバッハとセンだけだ。


「よし。みんなの力を結集して、一気に畳み掛けるぞ!」


「ふふん。まあ待ちなさい。ここは私……いえ、私たちの出番よ」


 ユナがそう言って、前に出る。

 ドラちゃんもいっしょだ。


「ユナ? やる気は結構だが、リールバッハは火に強い水魔法使いだし、センは得体が知れない。みんなで戦うべきだと思うが……」


「初めての技を使うから、範囲に巻き込まないか不安なのよ。とりあえずは見ていてちょうだい」


「見てて!」


 ユナとドラちゃんがそう言う。

 彼女たちは、テイムにより深い結び付きがある。

 彼女たちならではの新技があるのか?


「いくわよ! ドラちゃん!」


「うん! ユナ!! 私を受け入れて!」


 ユナとドラちゃんの魔力が高まる。

 そして、2つの魔力の波長が合わさっていく。


 ゴゴゴゴゴ!

 あたりに土煙が立ち上る。

 さらに彼女たちの魔力が膨らんでいきーー。


 バーン!

 魔力が弾けた。

 そして、土煙が晴れていく。

 そこには、赤髪の少女が立っていた。


「「火竜纏装『豪炎爆華』」」


 もちろんユナだ。

 獣化状態となっており、狼の耳が生えている。

 しかし、今までの獣化状態と何やら雰囲気が異なるような……?


 それに、ユナとドラちゃんの声がダブって聞こえる。

 そういえば、ドラちゃんの姿が見えないな。


「バ、バカな……! それは竜種と理解し合った者だけが使えると言われる、竜の力を纏う技か!? 現実に使える者がいるとは!」


 リールバッハがそう驚く。

 何やら有名な技だったようだ。


 ユナとドラちゃんが一時的に同化しているようなイメージか?

 パーティメンバーである俺よりも、リールバッハのほうがこの技に詳しいとは。

 後で本人たちに詳細を聞いておかなければな。


「ますます危険な存在だ。我の手で排除する。……レインレーザー!」


 ピュンッ!

 リールバッハから鋭い水魔法が放たれる。

 しかしーー。


「ファイアーブレス!!!」


 ジュッ!

 ユナの口から放たれたブレスにより、水魔法は蒸発した。

 そしてそのブレスは、リールバッハを襲う。


「ぐっ! ぐあああぁっ!」


 リールバッハは必死に抵抗を試みている。

 彼の魔法抵抗力により威力は減退したようだが、無事とはいかなかったようだ。

 服や肉体がところどころ焼けている。

 さらにーー。


「フィンガー・ファイアー・アロー!!!」


 ドドドドド!

 ユナが広げた右手の指から、それぞれファイアーアローが放たれる。


 彼女は火魔法をレベル4、魔力強化をレベル3にまで伸ばしている。

 ファイアーアローは彼女の得意魔法だ。

 ソーマ騎士爵領でゴブリンの巣を襲撃した際には、100本のファイアーアローを次々に放っていた。


 それに対して、今放ったのは5本。

 数は少ない。

 しかし、即応性と威力はずいぶんと向上している。

 ドラちゃんと一時的に同化(?)している影響もあるだろう。


「ぐ、ぐむ……! 何という力だ。無念……」


 リールバッハがとうとう倒れ込む。

 彼もこれで戦闘不能だ。


「すばらしい。さすがはユナ」


「ふふん。私もいいところを見せられたようね」


 ユナがそう言う。

 そして、彼女が『豪炎爆華』とやらを解除する。

 ユナとドラちゃんがいつもの姿に戻った。

 あまり長時間は持続できない技のようだ。


 さて。

 何はともあれーー。


「セン。残るはお前だけだ」


 俺はセンをにらみつける。

 いろいろな場所で悪巧みをしてきた彼女だが、ついに年貢の納め時だ。


「うふふ。確かに、わたくし1人であなたがた10人の相手はできません。……かくなる上は破産覚悟の最後の手です!」


 センが懐から何かを取り出す。

 大きめの魔石だ。

 そして、彼女はそれを足元に投げつけた。


 パリン!

 魔石が割れる。

 

「神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」


「なにっ! しまった!」


 中級の治療魔法だと?

 センは、本当に多芸に秀でているな。

 いや、感心している場合じゃない。


「く……。不覚を取りました」


「ひいい……。岩怖い岩怖い」


「とんでもねえ速さの一撃だった。もはや武闘では追い抜かれちまったか」


 リカルロイゼ、シャルレーヌ、リルクヴィストが起き上がってそう言う。

 せっかく戦闘不能に追い込んだ彼らが、復活してしまった。

 まあ、エリアヒールでは全快とまではいかないだろうが。

 それに、シャルレーヌは精神的なダメージを負ったままである。


「私はおばさんではありません!」


「ぐむ……。当主として、不甲斐無し。すまぬな、センとやら」


 マルセラとリールバッハも復活だ。

 治療魔法士を敵に回すと、こうも厄介なのか。

 まあ、パーティ内に5人も治療魔法使いがいる俺たちミリオンズが言えた義理ではないけどな。


「仕切り直しか……。センを優先して撃破するぞ!」


 治療魔法士を撃破しないと、長期戦になってしまう。

 まあ、これまでのようにラスターレイン伯爵家にダメージを負わせていくだけでもいつかは勝てるだろうが。

 センのMPももちろん無限ではないし。


 おそらく、彼女が先ほど地面に叩きつけた魔石は、治療魔法に必要な魔力を補填するためのものだったのだろう。

 彼女元来のMPは、さほど余裕がないのだと思われる。

 魔石をあとどれぐらい持っているかは不明だが、あれほどの魔石だ。

 そうそう大量には持ち歩いていないはずである。


「ボクに任せて!」


「私もいくよ!」


 先陣を切るのはアイリスとモニカだ。

 移動速度に優れた彼女たちは、ミリオンズの切り込み隊長である。

 しかしーー。


「センには近づけさせぬ。……レインレーザー!」


「アイスレイン!」


「ブリザード!」


 リールバッハ、シャルレーヌ、リルクヴィストの水魔法が彼女たちの行く手を阻む。

 やはり、こっちを何とかするのが先か?

 なかなか厄介である。

 彼らを一網打尽にできるような技はないものか……。

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