403話 アヴァロン迷宮 4階層 ジャイアントゴーレム

 俺たちは4階層の探索を進めている。

 この階層には、ゴーレム系統の魔物が多く配置されている。


 通常のゴーレム、ミドルゴーレム、リトルドラゴンゴーレム。

 さらにはーー。


「ジャ、ジャイアントゴーレムだ!」


「ここはまだ階層の最奥ではないはずだろ!?」


「ただの一般モンスターとして、ジャイアントゴーレムが配置されてるっていうのかよ!」


 同行の冒険者たちがそう言う。


 ジャイアントゴーレムは上級の魔物だ。

 ミドルベアやゴブリンジェネラルと同格である。


「よし、ここは俺がやろう」


「タカシ様? お力は温存されたほうがよろしいのでは?」


 ミティがそう言う。

 確かに、ファイアードラゴン戦に向けて力は温存しておくべきだ。

 上級の水魔法を使える俺とリーゼロッテは特にそうすべきである。


「ミティの言う通りだが、ここまでずいぶん力を温存させてもらった。そろそろ準備運動をしておきたいも思っていたところなのだ」


「なるほど……。そういうことでしたら、私から言うことはありません」


 俺は1人でジャイアントゴーレムに対峙する。


「お、おいおい。1人で戦うつもりかよ」


「いかにタカシの旦那とはいえ、さすがにジャイアントゴーレムをソロはきついですぜ」


「他のパーティメンバーたちは、なぜいっしょに戦わないんだ……?」


 トミーたち同行の冒険者がそう言う。

 確かに、通常の冒険者がジャイアントゴーレムをソロで撃破するのは難しい。

 ゾルフ砦の防衛戦では、俺、ミティ、アイリス、リーゼロッテ、ギルバート、ジルガ、ドレッドなどの総力を結集して何とか撃破できたぐらいの戦闘能力を持つ。


 ソロで挑むのは無謀だ。

 オイオイオイ。

 死ぬわアイツ。

 ……と思われても仕方ない。


 しかし、今の俺なら……。


「ピピッ。侵入者を確認しました。排除します」


 ジャイアントゴーレムが無機質な声でそう言う。

 やつが巨大な手を振り上げ、こちらにパンチを繰り出してくる。

 かなりの質量を伴った攻撃だ。

 まともに受けてはヤバい。

 だがーー。


「遅え……」


 俺はパンチを紙一重でかわす。

 タイミング的にギリギリだったわけではなく、完全に見きっているからこそ紙一重でかわせるのである。


「斬魔一刀流……魔皇炎斬!」


 ズバッ!

 俺は、炎をまとった剣でジャイアントゴーレムを斬りつける。


 かつての火炎斬では、ジャイアントゴーレムの胴体にそこそこのキズをつけたことがある。

 そこを起点に、みんなのフルパワーの攻撃で畳み掛けて撃破したのだ。

 あの時の俺の活躍は小さいものではなかった。


 しかし逆に言えば、自分1人ではそこそこのキズをつけるので精一杯だったということでもある。

 成長した俺の力ではどうなるか。


 ピシッ!

 ジャイアントゴーレムに大きな亀裂が入る。


 ドンガラガッシャーン!

 やつは、大きな音をたてて崩れ落ちた。


「す、すげえ……! さすがはタカシの旦那だ!」


「ジャイアントゴーレムを一太刀だと?」


「と、とんでもねえ剣速だ」


「それに、あの魔力の練りも見事だ。紅剣の二つ名は伊達ではないということか……」


 トミーたち同行の冒険者が口々にそう言う。

 選別試験やここまでの探索でもある程度の力は見せてきたが、1対1で大物を倒したのはこれが始めてだ。

 彼らに、あらためていいところを見せられたかな。


「ピピッ……。ボディの損傷が許容限度を超えました。戦闘データ共有後、活動を停止します……」


 ジャイアントゴーレムは最後にそう言い残して、活動を終えた。

 俺はみんなのところに戻る。


「お疲れー。いい準備運動になった?」


 アイリスがそうねぎらってくる。


「ああ。適度に体も温まった。それに、自分の成長を実感できたのもよかったな。ファイアードラゴン戦に向けて、収穫はあったと言えるだろう」


 俺の対人戦における勝率はさほど高くない。

 ウォルフ村でのくまっち戦、西の森でのソフィア戦などでの敗北はしっかりと覚えている。


 だが、ここ最近はいい調子だ。

 猫獣人の奴隷クリスティ戦、蓮華との決闘、シュタインとの決闘など……。

 いずれも順当に勝ちを収めている。

 そろそろ、俺も自分の強さに自身を持っていいころかもしれない。


「あれ? タカシお兄ちゃん、あそこにまた石版があるんじゃない?」


「ん? おお、本当だな」


 俺とジャイアントゴーレムが戦っていたすぐそばの壁際にある。

 戦闘の余波で壊れていなくてよかった。


「ええと、なになに……。『ファイアードラゴンは強すぎる……。ダメだ、我々の手には負えない』か」


「結局、制御はできなかったのですね……。竜種を手懐けるなど、土台ムリな話です。歴史に残るほどのテイマーでも困難でしょう」


 サリエがそう言う。

 彼女は、ファイアードラゴンを手懐けることに懐疑的だったもんな。


「さらに続きがある。『我々は、この地にファイアードラゴンを封印することにした。封印が緩まないよう、最大限の封印維持設備と防衛設備を整えておくことにする』だとさ」


「ふ、封印維持設備ですか。この遺跡のことでしょうか」


「おそらくそうでしょう。そして、それを管理する使命を私たちラスターレイン伯爵家が受け継いできたのかもしれません」


 リーゼロッテがそう言う。

 そして、俺たちが4階層を再び進み始めた、そのとき。


「(ピピッ……。収集した戦闘データを送信中……。我らが母体ゼータナイン、戦闘モードに移行せよ……)」


 先ほど撃破したゴーレムから、何やら無機質な声が聞こえた気がした。

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