386話 蓮華との再会

 どすこい寿司にて、ミリオンズのみんなで寿司を堪能しているところだ。

 隣のテーブルには、シュタインたち一行もいる。


 俺たちがひと通り寿司を楽しんでいたところ、少し離れた席から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ぬううっ! 鮪や鮭の寿司の再現度は見事。しかし、はんばあぐや茄子を寿司に乗せるとは何事でござる……! 大和連邦出身の拙者としては、このような寿司を認めるわけには……」


 俺は視線の主に目を向ける。

 金髪碧眼のエルフの少女がそこにいた。

 服装は、和服である。


「おお、蓮華さんじゃないか」


「ぬ? これはタカシ殿。奇遇でござるな」


 彼女はエルフの侍、蓮華である。

 東方の島国ヤマト連邦の出身。


 ソーマ騎士爵領の南端付近の村で、俺とともにゴブリンの集落を襲撃したことがある。

 その後、その村で別れた。

 彼女は、彼女は俺たちミリオンズとは目的地が異なっていたのだ。

 この新大陸の北端付近にある剣の聖地ソラトリアへ向かっている途中だったはずだ。


「しかし、蓮華さんはどうしてここへ?」


「もちろん、そらとりあへ向かう途中でござる。しかし、この街の領主が、何やら腕に覚えのある冒険者を募集しておったのでな。何でも、迷宮を攻略するのだとか。拙者も修行と路銀稼ぎのために、参加することにしたのでござる」


 蓮華がそう言う。

 俺たちミリオンズはシュタインの件で少し時間を取られていたが、蓮華はその間に先行してこの街に入り、ダンジョン攻略に備えて待機していたといったところか。


「まあ。蓮華さんも参加されるのですね。それは心強いですわ」


 リーゼロッテがそう言う。

 蓮華は特別表彰者ではないが、Cランクではある。

 俺との決闘でも結構いい線いっていたし、強いのは間違いない。


「ほう……。なかなか美しいエルフのお嬢さんだ」


 シュタインがそう言う。

 確かに、蓮華はなかなかに整った顔立ちをしている。

 美しさの中に、かわいらしさもある。


「む? たかし殿、こちらの軟派な男な何者でござる?」


 蓮華がシュタインを一瞥し、そう言う。

 シュタインは結構なイケメンなのだが、そこには特に反応していない。

 男にあまり興味がないのか、祖国に恋人がいるのか、それとも美的センスが俺たちと少し異なっているのか。


 俺としては、美的センスが違う説を推したい。

 彼女にとっては、シュタインよりも俺のほうがイケメンに見えているとかな。


 ……え、それはない?

 いやいや、好みは人によって様々だ。

 ミティはよく俺のことをカッコいいと褒めてくれるし、ニムやユナもたまに褒めてくれる。


 俺の顔つきについて、日本にいるときは普通くらいかなという自己評価だった。

 しかし、この世界にきて少し自己評価は上がった。

 冒険者活動を通して、少し顔つきや体つきも引き締まったような気がするし。

 今の俺の顔つきは、上の下くらいだと言っても過言ではないと思う。


「ああ、蓮華さんは初めて会うのか。こちらはシュタイン=ソーマ。俺の盟友であり、この国の騎士爵を授かっている。剣の腕前もすごいぞ」


「シュタイン=ソーマだ。美しいお嬢さん。私のことは、ぜひ気軽にシュタインと呼んでほしい」


 俺の紹介を受けて、シュタインがそう自己紹介をする。


「いや、結構。そーま殿。ほどほどに仲良くさせてもらうでござる」


 蓮華は結構そっけない。

 まあ、彼女は色恋よりも剣術に興味がある感じだもんな。


「ところで、蓮華さんは先ほど難しい顔をしてうなっていたな。何か悩みごとか?」


 俺はそう問う。


「いや、悩みごとというほどでもないでござるが……。はんばあぐや茄子の寿司が、どうにも受け入れ難くてな……」


「まあ確かに、少しだけ邪道かもしれないな。本場の寿司を知っている人からすると」


 日本の回転寿司に慣れ親しんだ俺にとっては、多少変わったネタが乗っていても特に違和感を覚えない。

 ハンバーグやナスの他、アボカドやチーズすら乗っていたりするしな。

 俺は、おいしければ前例や型には拘らない。

 しかし、そういうのを大切にする人がいることも理解できる。


「……ぬ? その口ぶりだと、たかし殿は本場の寿司を知っているのでござるか? 大和連邦には、行ったことがないと言っておった気がするのだが……」


 やべ。

 口がすべった。


 ミティやアイリスにも、俺の出身国のことは詳しく伝えていない。

 おそらく、普通にサザリアナ王国のどこかの街や村の出身だと思っているはずだ。


 口には出さないだけで、もしかすると他国の出身だと勘付かれているかもしれないが。

 厳密に言えば、他国どころか他世界だけど。


「ああ、いや……」


 俺はうまい言い訳を考える。

 が、なかなか思いつかない。


「ええっと。タカシさんは、おそらく書籍で読まれたのではないでしょうか。我がハルク男爵家からお渡ししました書籍に、ヤマト連邦に関するものがあったと思います」


 そういえば、そういうのもあったな。

 書籍【鎖国国家、ヤマト連邦の秘密】だ。

 俺も少しずつ読み進めているところである。

 確かに、寿司に関する記述もあった。


「それだそれ。ヤマト連邦の情報を知っている人は少ないし、重宝している。ありがとう、サリエ」


「いえいえ。どういたしまして」


 サリエが照れたようにはみかむ。


「まあ、いいでござる。郷に入れば郷に従え。拙者も、この斬新な寿司を味あわせていただくでござる。1週間後に控えておる迷宮攻略人員の選別試験で結果を残すために、きちんと腹ごしらえをしておかんとな」


 蓮華がそう言う。


「迷宮攻略人員の選別試験? なんだ、それは?」


 そんなものがあるとは聞いていないが……。


「ラスターレイン伯爵家が主催する試験ですわね。この領地の孤島にあるダンジョンは、入り口が6箇所に別れています。戦力を適切に分散させるために、各自の実力を把握しておく目的のテストですわ」


 リーゼロッテがそう言う。

 そういうことは、早めに言ってくれよ。

 まあ、早めに言われたからといって何ができるというわけでもないが。


「ふむ? わざわざ戦力を分散させるのか」


 1つの集団に戦力を集中させたほうが、安定感は増すと思うが……。


「ああ、タカシはダンジョンに潜るのが初めてだったねー。ダンジョン内の魔物は、ある程度連携して侵入者を迎え撃つんだよ。戦力を集中させようが、分散させようが、全体として相手にしなければならない魔物の戦力は一定と考えていい」


 アイリスがそう説明する。


「その通りですわ。下手に戦力を集中させ過ぎてしまいますと、同士討ちの危険が増しますし、範囲攻撃の魔法も使いにくくなります。適度に散らしたほうが、結果として安定感は増しますわ」


 リーゼロッテがそう言う。

 なるほど?

 理屈はわからないでもない。

 ダンジョンについて詳しいアイリスやリーゼロッテがそう言うのであれば、それが妥当なのだろう。


「わかった。その1週間後のテストで好成績を残せるよう、みんなでがんばろう」


「がんばります! むんっ!」


 ミティが元気よく意気込む。


「応援していますわ。ちなみに、わたくしも評価を下す担当者の1人になるかもしれません。実家のほうにも顔を出しておきましょう。……タカシさんたちのことは強く推薦しておきます。多少テストの成績がイマイチでも本隊や副本隊にねじ込めるでしょうが、できれば好成績を収めてくださいまし」


 リーゼロッテがそう言う。

 彼女は俺たちの実力を既に知ってくれている。

 ゴブリンキングをあっさりと討伐し、シュタインの浄化に成功し、ゴブリンジェネラルを一蹴したわけだからな。


 戦闘試験とやらの結果がイマイチでも、ダンジョン攻略でお留守番という事態にはならないだろう。

 しかし、せっかく推薦してくれるリーゼロッテの顔を立てるためにも、何とか好成績を収めたいところだ。


 1週間後の戦闘試験の概要を聞きつつ、みんなで対策を練っておこう。

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