382話 切り拓けない道はないんだッ!!!

 翌々日になった。

 いよいよ、明日にはこの街を出発する。

 その前にーー。


「タカシ様、リーゼロッテさん。先日からお預かりしていましたこちらの杖ですが、無事に蒼穹の水晶を組み込むことに成功しました」


 ミティがそう言って、リーゼロッテに杖を差し出す。

 シュタイン経由で炉を借りて、この数日でミティが仕上げてくれたのである。


「おお、いい感じだな。ありがとう、ミティ」


 先端部に、蒼穹の水晶が組み込まれている。

 青く光輝いており、高貴さを感じる。


 リーゼロッテが杖を手に持ち、感触を確かめる。


「すばらしいですわ! 蒼穹の水晶の質が想像以上に高いのもありますが、ミティさんの鍛冶の腕前も相当ですわね」


 リーゼロッテがそう称賛する。

 杖の先端に蒼穹の水晶を組み込んだだけではあるが、それにも鍛冶師の技量は出る。

 鍛冶術レベル5を持つミティによって組み込まれたこの杖は、一級品だ。


 リーゼロッテが満足気に杖を眺め、言葉を続ける。


「それで、この杖の名前は何といいますの?」


「え? 確か、アクアロッドですよね?」


 リーゼロッテの問いに、ミティがそう問い返す。

 俺もその名を聞いたことがある。


「いえ、それはもともとの名前ですわ。蒼穹の水晶を組み込まれた以上、この杖は別物になりました。ミティさんによって、新たな名を与えてほしいのです」


 リーゼロッテがそう言う。

 蒼穹の水晶を先端部に組み込んだだけなので外見には大きな違いがないが、性能は格段に増しているはず。

 別物になったという考えにも一理ある。


「わかりました。ええっと……。……では、蒼杖ラファエルでどうでしょうか?」


 ラファエルか。

 ウリエル、ガブリエル、ミカエルあたりと並ぶ大天使の名前だ。

 リーゼロッテもミリオンズに加入したことだし、武器のネーミングにも統一感を持たせようといったところだろう。


「蒼杖ラファエルですか。何となく、神秘的ですてきな名前ですわね。その名をいただくことにします」


 リーゼロッテが満足気にそううなずく。


「その杖で、ダンジョン攻略とファイアードラゴンの再封印に向けてがんばっていきましょう」


 俺はそう言う。


「そうですわね。これがあれば、わたくしもお父様やお兄様たちに並び立って貢献できるかもしれません。何だか、水魔法が突然上達したような感覚もありますし……。タカシさんとソーマさんの決闘を見届けた頃からですが……」


 リーゼロッテがそう言う。

 彼女は俺の加護(小)の恩恵により、水魔法がレベル5に達している。

 加護付与(小)の条件を満たしたのは、ちょうど俺とシュタインの決闘が終わった頃のことだ。

 サリエもそうだったが、加護(小)でもやはり本人にとっては自覚できるレベルの違いがあるらしい。


「緊迫した決闘を見て、いい意味で刺激を受けたのかもしれませんね。俺も、彼と戦うことで何か掴んだ気がします。リーゼロッテさんとも、できれば合同水魔法を練習しておきたいですね」


 俺はそう誤魔化しつつ、まとめておく。


「わかりましたわ。合同魔法は、本来であれば短期間で合わせられるものではありませんが……。タカシさんとなら、何とかなりそうな気もします。ぜひ練習しておきましょう」


 彼女の言う通り、合同魔法は本来であれば高い難易度を誇る。

 お互いの信頼感と、魔法に対するイメージを統一しなければならないからだ。


 リーゼロッテの忠義度は40に達しているので、俺とリーゼロッテとの間には確かな信頼感があると言っていいだろう。

 そして、加護によって強化された水魔法は、イメージも統一されているはず。


 つまり、俺とリーゼロッテが合同魔法を成功できる可能性はそれなりに高い。

 ある程度練習しておけば、ちゃんと発動できるようになるだろう。

 ファイアードラゴンの再封印に向けて、きちんと仕上げていきたいところだ。



●●●



 いよいよ、この街から出発する日になった。

 俺たちミリオンズ、リーゼロッテやコーバッツたちラスターレイン伯爵家一行、そしてシュタインやミサたちソーマ騎士爵家一行が街の出口に集まる。

 それぞれが自前の馬車を持っている。


 ちなみに、リーゼロッテは俺たちミリオンズの馬車に乗り込む。

 残されたコーバッツやその他の同行兵が、先頭の馬車に乗って道案内兼警戒役を務めてくれる感じだ。


 シュタインは、第一夫人であるミサと、あと数人の妻たちを連れて行くようだ。


「シュタイン。妻たちを連れていくのだな。この旅は危険なものになるかもしれないぞ」


「問題ないさ。彼女たちも、十分な戦闘能力を持つからね。戦闘の心得を持っていない妻たちはこの街に残ってもらって、領主代行として私の留守を守ってもらうしな」


 シュタインがそう答える。

 ふむ……?

 確かに、今回連れてきている妻たちは、なかなか鍛えられていそうだ。

 冒険者ランクで言えば、Dは確実にあるだろう。

 Cランクに届くかどうかは、実際に戦っているところを見ないと何とも言えないが。


 そうして、俺たちはラスターレイン伯爵領に向けて出発した。

 目的地は、領都である海洋都市ルクアージュだ。


 パッカパッカ。

 馬車が道を進んでいく。


 しばらく進んだ頃ーー。

 ピクピク。

 モニカの耳が動く。


「むっ!? タカシ、この先に強そうな魔物がいるよ」


 モニカがそう警戒の声を発する。

 そしてーー。


「ガアアアァッ!」


 魔物の雄叫びとともに、大きな石がこちらに投げつけられた。

 投げてきたのは、ゴブリン型の魔物だ。


 通常のゴブリンよりも大きい。

 しかし、以前戦ったゴブリンキングよりは小さい。

 おそらく、こいつがゴブリンジェネラルという魔物だろう。

 周囲には、通常のゴブリンが10匹ほどいる。


 あの大きさの石なら、頭部にモロにくらわない限りは致命傷にならない。

 しかし万が一ということもあるし、馬車に当たって壊されるのも嫌だ。

 ここはーー。


「……焼き尽くせ。バーンアウト!」


 俺はオリジナルの火魔法を発動させる。

 火力がかなり強い魔法だ。

 その代わり、対象は無生物に限定される。

 生物に対して発動した場合は、火力が大幅に弱くなるという制約がある。


 ジュッ。

 大きな石が、俺の火魔法により熱せられて、蒸発する。


「ガアッ!?」


 ゴブリン型の魔物が驚愕に目を見開く。

 魔物ではあるが、自然現象を理解する程度の知能は持っているはず。

 石が魔法によって蒸発させられるというのは、初めて見る光景だったのだろう。


「タカシ。あいつは、ゴブリンジェネラルだ。街を出てすぐに遭遇するとは、運がいいのか悪いのか」


 シュタインが隣の馬車からやって来て、そう言う。

 自分たちだけのことを考えるなら、運が悪いと言えるだろう。


 しかし、この地を治める領主として考えるなら、運がいいとも言える。

 高い戦闘能力を持つ俺たちなら、安定して討伐しておけるからだ。

 近隣住民や通行人に被害が出る前に、討伐しておこう。


「ゴブリンジェネラルか。確か、ゴブリンキングよりは弱い魔物だったな? 軽く討伐してやろう」


 俺はそう言う。


「悪いな。領主として、もちろん私も手伝うぞ」


 シュタインがそう言う。

 俺と彼の2人で、ゴブリンジェネラルとその取り巻きのところへ向かっていく。

 別にみんなで向かってもいいが、この程度の相手にそこまでする必要もない。

 むしろ、同士討ちのリスクのほうが少し高いくらいだ。


「ギャウッ!」


 ゴブリン数匹が、シュタインの行く手を阻む。

 しかしーー。


「コークスクリューSOMA突きーッ!!」


 ギュルルァッ!

 シュタインが剣を螺旋状に突き出し、ゴブリンたちを瞬殺する。


 続けて俺のほうにも数匹来たが、俺も軽く蹴散らしておく。

 これで、残るはゴブリンジェネラル1匹だけだ。


 ーーどんな相手が来ようとも、絶対に俺たちが倒してみせる…!!

 ラスターレイン伯爵領に、そしてハーレムにたどり着くまでの道がどれほど困難でも関係ねえ…!!


「シュタインッ!!!」


「おう!! いくぞッ!」


 俺とシュタインは、息を合わせてゴブリンジェネラルに向かって駆け出す。


「「オオオオオッ」」


 俺たちはそう雄叫びを上げる。

 …そうさ、今までと何も変わらない。


「「斬魔一刀流最終奥義」」


「ガアッ!?」


 俺たちの魔力と闘気の高まりを感じて、ゴブリンジェネラルが警戒の声を上げる。

 俺たちはそのまま、ゴブリンジェネラルに突っ込んでいく


 俺たちが力を合わせればーー。

 切り拓けない道はないんだッ!!!!


「「W魔皇斬!!!!」」


 俺の魔皇炎斬。

 シュタインの魔皇氷斬。

 この2つの合わせ技がゴブリンジェネラルを襲う。


 やつが致命傷を負う。

 この戦闘はこれで終わりだ。

 しかし、俺たちの長い戦いはまだまだ終わらない。


 俺たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ!!!

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