360話 ゴブリンの巣を襲撃

 みんなで、ゴブリンジェネラルの討伐作戦の打合せを済ませた。

俺たちミリオンズ8人、そしてリーゼロッテ、コーバッツ、蓮華の合わせて11人で森に向かう。


「さて、結構深くまで森に入ったな。村長の話では、ここからさらに進んだところにゴブリンの巣があるそうだが……」


 俺はそう言う。

この討伐隊のリーダーは、もちろん俺だ。

唯一のBランク冒険者であり、最も戦闘能力が高いからである。


 次点で、ミリオンズサブリーダーのミティ、伯爵家長女のリーゼロッテ、その筆頭護衛騎士にしてCランク冒険者としても経験豊富なコーバッツあたりに発言力がある。


「…………。どうやら、こっちみたいだ」


 モニカが耳をピクピクとさせながら、俺たちを先導する。

彼女は、抜群の聴覚により高い索敵能力を持っている。


「くんくん……。ゴ、ゴブリンの匂いが強くなってきました。巣は近いはずです」


 ニムが鼻を鳴らし、そう言う。

彼女は彼女で、並外れた嗅覚により優れた索敵能力を持っている。


「ああ。俺にもゴブリンの気配が感じ取れた。アイリスもわかるか?」


 俺は、気配察知のスキルを持っている。

生物の気配を察知できるスキルだ。

そして、アイリスも同じスキルを持っている。


「うん。どうやら、人間の廃村に巣をつくっているようだね。……ほら、もう目視で見えるよ」


 アイリスがそう言う。

彼女が指差した先には、確かにゴブリンの巣がある。


 ずいぶん寂れている村だ。

ゴブリンたちに住民たちが襲われてしまったわけではないだろう。

打ち捨てられた廃村に、ゴブリンたちが住み着いたといったところか。


「ふむ……。なかなか大きな群れだな。50匹ぐらいか。その内の1匹は強そうな気配がする」


 俺はそう言う。

強そうな個体がゴブリンジェネラルとやらだろう。


「よし。ここは拙者に任せてほしいでござる。前衛として、魔物を引きつけるでござるよ」


 蓮華がそう言って、前に出ようとする。


「まあ待ってくれ。相手に気づかれていない状態からであれば、魔法の出番だ。なあ? みんな」

「そうだねー。幸い、巣の中にさらわれた人とかは混じっていないみたいだし。魔法で先制攻撃をするのがいいだろうね」


 俺の言葉に、アイリスがそう同意する。

わざわざ正々堂々と正面から戦いを挑む必要もないのだ。


「そ、それもそうですね。では、わたしのストーンレインで……」

「わたくしも、アイスレインで攻撃致しましょう」


 ニムとリーゼロッテがそう言う。

彼女たちの広範囲の攻撃魔法であれば、ゴブリンの数を確実に減らせるはずだ。


「ふふん。第一の攻撃は私に譲ってほしいわ。今こそ、私の進化した力を見せてあげる。この魔弓ミカエルとともにね」


 ユナがそう言う。

彼女は弓士だ。

そして、火魔法のファイアーアローも得意とする。

少し前にミティがつくった魔弓ミカエルは、物理弓を引きつつ、同時に火魔法も発動しやすいように設計されている。


「そうだな……。せっかくだし、ユナに任せてみよう。念のため、ニムやリーゼロッテさんも追撃の準備はしておいてくれ。もちろん、他のみんなも油断はしないように」


 俺はそう指示を出す。

リーダーである俺の意見に、反対意見はなかった。


 さっそく、ユナが火魔法の詠唱を開始する。

それと同時に、物理弓も引いている。


「……燃え盛る熱き炎の精霊よ。我が求めに応じ、敵を討ち滅ぼし給え」


 彼女の周囲に、無数の炎の矢が生成されていく。

ええと。

1、2、3……。

おおよそ100本ぐらいありそうだ。


「焼き尽くせ! ハンドレッド・ファイアーアロー!」


 ユナの一声と同時に、炎の矢が一斉に射出される。

技名から判断すると、やはり100本で正解だったようだ。


 ドドド!

ドドドドド!

ドドドドドドド!

ゴブリンの巣に、100本の炎の矢が次々と着弾していく。


「ぎゃおっ!」

「ぎいぃっ!」


 ゴブリンたちは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

50匹程度いたゴブリンが、次々に数を減らしていく。

一見無作為にぶっ放しているように見えるが、ちゃんとユナは狙いも定めているようだ。

ゴブリンへ着実に炎の矢を命中させていく。


 しばらくして、100本の魔法の矢の射出は終わった。

生き残りは、10匹程度か。

もちろん、ゴブリンジェネラルもその中に残っている。


「十分な戦果だな、ユナ。あとは俺たちに任せてくれ」


 俺はユナにそう声を掛ける。

しかしーー。


「いいえ、まだよ。はあああぁ……!」


 ユナが物理弓に闘気と魔力を集中させている。

そうだ。

最後に、物理弓が残っていた。


「全てを討ち滅ぼせ! プロミネンス・アロー!!!」


 シュンッ!

風切り音とともに、ユナからとどめの矢が放たれた。


 闘気と魔力を込めた、強大な弓矢だ。

大きな炎を纏っている。

一矢だけではあるが攻撃範囲は広い。


 ズガーン!

ユナの矢が生き残りのゴブリンたちに直撃する。


「ぎいいいぃっ!」

「ぎゃおおおお!」


 やつらの断末魔があたりに響く。


「見事だ、ユナ。無事に殲滅できたようだな」

「ふふん。ようやく、私もいいところを見せられたわね。盗掘団の捕縛作戦じゃ、モニカとニムちゃんに持っていかれたからね」


 ユナがそう言う。

最近加入したばかりのマリアとサリエを除けば、俺たちミリオンズで特別表彰者でないのはユナだけだ。

彼女は、時おりそれを気にしている様子があった。


 まあ、冒険者歴は彼女がダントツで長いわけだしな。

気持ちはわからないでもない。


 ユナに加護を付与してからもう半年ほどが経つ。

彼女はステータス操作によって強化された力を見事に使いこなせるようになった。

少し前には、ミティによって魔弓ミカエルもつくられた。

今のユナの戦闘能力は、俺やアイリスと比べても決して劣ることはない高水準にある。


「こ、これほどの火魔法は初めて見たでござる……。佐助殿でも果たして同程度の威力が出せるかどうか。凄まじいでござるな……」


 蓮華が目を丸くして驚いている。


「ふふん。そう言ってもらえるのはうれしいけれど……。残念ながら、あいつだけは討伐できなかったみたいね」


 ユナが巣の中心に目を向けてそう言う。

彼女はMPや闘気を使い果たしたのか、少し脱力気味だ。

そんな彼女の視線の先には……。


「ごあああぁ!」


 通常のゴブリンよりも一回り以上大きな個体が怒りの唸り声をあげる。

ユナの火魔法と物理弓により多大なダメージを負ってはいるが、まだまだ戦闘不能ではなさそうだ。


「ふむ。ゴブリンジェネラルとやらだけは生き残っていたようだな」

「妙ですわ……。ただのゴブリンジェネラルが、あれほどの攻撃を受けて無事なはずがありません」


 リーゼロッテが訝しげな表情でそう言う。


「……あれはもしかすると、ゴブリンキングかもしれん。発生はゴブリンジェネラルよりもさらに稀。ミドルベアやジャイアントゴーレムを超える危険度だ」


 コーバッツが緊迫した表情でそう言う。

ミドルベアを超えるとなると、俺たちが戦ってきた魔物の中でもトップクラスの強さということになる。


「なるほど。心してかかる必要がありそうだな。俺に任せてくれ」

「タカシ様。私もお供します」


 ここはパーティリーダーの俺がいいところを見せないとな。

ミティも付いてきてくれるそうだ。

できればマリアやサリエのレベリングも行いたかったが、少し危険だからやめておこう。


「タカシ。私もいくよ。……むっ!?」

「くっ。いつの間に……! 前に気を取られてしまっていたね」


 モニカとアイリスが後ろを振り向き、そう言う。

彼女たちの視線の先には、ゴブリンの群れがいた。

巣の異変に気がついて、慌てて戻ってきたといったところか。


 数はそれほど多くない。

20匹程度だ。


「タカシ! ここはボクたちに任せて! タカシとミティはあのゴブリンキングを倒して!」

「マ、マリアちゃんとサリエさんのことはわたしに任せてください。ちゃんと守ります」


 アイリスとニムがそう言う。


「よし! いくぞ、ミティ」

「わかりました! むんっ!」


 俺とミティで、ゴブリンキングのもとへ駆け出す。

他のみんなは、後から来たゴブリンたちの相手だ。

アイリス、モニカ、ニムあたりが主戦力となってくれるだろう。


 ユナはMPと闘気を大量に使っていて疲労気味なので、やや守り気味に戦うはず。

マリアとサリエは、安全第一で後方に控えることになる。


 あとは、蓮華、リーゼロッテ、コーバッツあたりか。

彼女たちは、全員がCランク冒険者だ。

ゴブリン程度に引けを取ることはない。


 後方のことは彼女たちに安心して任せて、俺とミティは前方のゴブリンキングの相手に集中することにしよう。

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