333話 食事会

 今は、奴隷たちを引き取った初日の夜だ。

俺たちミリオンズ組、セバスやキリヤたち男性組、ヴィルナやクリスティたち女性組に分かれてそれぞれ入浴を済ませた。


 次に、みんなで食事会を開く。

今後は生活リズムの違いもあるし、なかなか全員いっしょに食事をとる機会はないだろう。

せめて初日ぐらいは、いっしょに食べておきたいところだ。

おいしい料理を食べれば、仲良くなれるだろうしな。


 今日奴隷を購入することは、もちろん事前にみんなと相談していた。

俺とミティが昼間に奴隷商館を訪れている間に、モニカやレインたちによって料理の準備が行われていた。


 当初の予定では奴隷を2~3人ほど購入するつもりだったが、実際に購入したのは6人だ。

想定よりも多くなってしまったが、まあ大きな問題はないだろう。

即席でつくれる料理もあるし、アイテムボックスに保存している料理もあるしな。


 食事会の会場は、屋敷の庭となった。

参加人数が多いので、さすがにいつもの食卓では全員が収まらないのだ。


 みんなで庭にテーブルやイスを用意していく。

リビングのテーブルを1人で持ち上げようとするミティに、ネスターが近寄っていく。


「奥方殿。ここは俺たちに任せていただけないだろうか? 主人の奥方殿を働かせるわけにはいかん。それに、そもそも1人では持ち上がらないだろう」


 ネスターがそう言う。

そう言えば、彼ら奴隷組はミティの豪腕を知らないのだったな。

登用試験組は、模擬試合のときに見ていたはずだが。


「問題ありません。ふんっ」


 ミティが軽々とテーブルを持ち上げる。


「なっ!? バ、バカな……」

「どこにこんな力が……?」


 ネスターとシェリーが驚きに目を見張る。

クリスティやニルスも驚いている。


「はっ。な、なかなかやるな。確かに、力自慢とか言っていたか。だが、力が強いだけじゃ真の強者とは言えねえぜ」


 クリスティが震え声でそう言う。

彼女とミティは、1年ほど前に奴隷商館内で若干の交流があったそうだ。

その際に、ミティが力自慢であることは聞いていたのだろう。


 しかし、それから俺のステータス操作の恩恵により、ミティの腕力は飛躍的に伸びている。

クリスティが想像していた腕力よりも、ずっと上だったことだろう。


 そんな感じで、会場のセッティングを終えた。

続けて、テーブルの上にできあがった料理の皿を並べていく。

使用人たちに任せて俺は貴族らしくドカッと座っていてもいいのだろうが、初日だし俺も積極的に手伝っている。


 ここで、参加者をもう一度整理しておこう。

ミリオンズ組は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。

執事・メイド組は、セバス、レイン、クルミナ、ハンナ、ニルス。

見習い雑用組は、ロロとリン。

行政機関の下働き組は、トリスタ。

警備兵組は、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、クリスティ、シェリー、ネスターだ。


 総勢20人の大所帯である。

男女で分けると、男性6人と女性14人だ。

年齢で分けると、10歳未満が2人、10代が13人、20代が2人、30代以上が3人となる。


 若い女性が多いのでウハウハだ。

……と言いたいところだが、それぞれお相手がいる女性が多い。

ヴィルナに対するキリヤ、ヒナに対するトリスタ、ハンナに対するニルス、シェリーに対するネスターだ。

俺が彼女たちに手を出すわけにはいかない。


 また、ハルク男爵やセバスの紹介によって雇用しているレインやクルミナにも少し手を出しづらい。

加えて、まだ10歳にもなっていないロロとリンは俺の趣味の範囲外だ。

いくら俺がロリコンとはいえ、さすがにな。


 そう考えると、まず忠義度を稼ぎたいのはクリスティかな。

彼女は戦闘部族の出身で、自分よりも弱い者の言うことは聞かないそうだ。

さすがに日常生活レベルのちょっとした指示には従ってくれているが、戦闘や仕事で言うことを聞かせようとすると実力を見せる必要があるだろう。

近いうちに、模擬試合でもしようかな。


 あとは、シェリーとネスターの肺の治療、リンの目の治療、ロロの孤児院の支援なども行いたいところだ。


 まあ、今日のところは置いておこう。

まずは目の前の食事会だ。


「今日も腕によりをかけてつくったよ。みんな、たくさん食べてね」

「ふふん。私も手伝ったわよ。心して味わいなさい!」


 モニカとユナがそう言う。


「ありがとうございます、モニカ先輩。楽しみです」


 ヴィルナがそう言う。

同じ兎獣人として、モニカには親近感を持っているようだ。


「はっ。あたいの舌を満足させることができるかな?」


 クリスティがそう言う。

今回の登用組と奴隷組の中で、今なお忠義度が低いのが彼女だ。

まあ10は超えているし、敵対的というほどでもないが。

この挑発めいた言動は、もともとの気質なのだろう。


「こ、こんなに豪華な料理をほんとに食べていいのでしょうか? なんだか怖いですぅ」

「リンちゃん。怖がる必要なんてないよ。たくさん食べようね」


 おどおどするリンに対して、アイリスが優しく声を掛ける。


 リンは隷属奴隷である上に、年齢もロロに次いで低い。

だれかがフォローしてあげる必要がある。

その役目は、優しいアイリスが適任だ。


「ふふ。私もたくさん食べますよ」

「わ、わたしもです!」


 ミティとニムがそう言う。

彼女たちは、人の世話よりも自分の食欲を優先している様子だ。


「さあ。みんな、遠慮せず食べていこう」


 俺の言葉を皮切りに、ミリオンズのみんなが食べ始める。

少し遅れて、他のみんなも食べ始めた。


「これは……。本で読んだことのある調味料だ。確か、マヨネーズだったかな?」

「ふうん。やっぱりトリスタは物知りね! さっそく食べてみようよ!」


 トリスタとヒナが、野菜や鶏肉にマヨネーズを付けて食べていく。

隣同士に座り、結構仲良しげだ。


「まさか、貴族様といっしょの食卓に招かれることになるとは思いませんでした。おいしいです」

「本当に、信じられないぐらいおいしいです。奴隷になったときは、もうまともな料理は食べられないと思ってました。ありがとうございます」


 ニルスとハンナがそう言う。

少し大げさな気がする。

モニカの料理はもちろんおいしいが、庶民向けのラビット亭でも同じレベルの料理を食べることができるぞ。


 ……と思ったが、モニカの料理の腕前は既に庶民向けの領域を脱しているかもしれない。

俺のステータス操作により、料理術をレベル4にまで伸ばしているからな。

各地を巡ってレパートリーを増やしているし、もちろん本人の努力もある。

一流のプロ級の実力があると言っても過言ではない。


「私はいつもいただいていますが、改めてお礼を言わせていただきます! とてもおいしいです!」

「そうですね~。使用人にこれほど豪華な料理を食べさせてくれるところは、他にないと思います~。お館様に仕えて本当によかったです~」


 レインとクルミナがそう言う。

彼女たちとは、普段からたまに食卓をともにする。

生活リズムの関係で別々のタイミングで食べるときでも、基本的なメニューは同じものであることが多い。


「へえ。ひょっとすると、私たちもまたこの料理を食べることがあるのかい?」

「もしそうであれば、非常にうれしいな。これほどの料理はそうそう食べられないぞ」


 シェリーとネスターがそう言う。


「ふっ。悪くねえ味だ。おら、ちびっ子も食べな」

「…………(こくっ)」


 キリヤがそう言って、ロロに肉を切り分けて渡す。

意外と優しいところもあるんだな。


「…………(ガツガツ)」

「おやおや、ロロさん。口周りにソースが付いてしまっていますよ。これで拭きなさい」


 セバスがそう言って、ロロにハンカチを手渡す。

ロロは小さいながらも、筆記テストや模擬試合でキラリと光るものを感じた。

何より、俺に対する忠義度がこのメンバーの中でも比較的高い。

セバスのようなしっかりとした大人のサポートを受けつつ、ハイブリッジ家の一員として成長していってほしいところである。


 そんな感じで、初日の食事会はなごやかに進んでいった。

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