283話 救出隊の選抜

 タカシたち先遣隊が、”光の乙女騎士団”の睡眠魔法により全滅してしまった頃。

その様子を遠くからうかがっていた者がいた。


「まさか、やつらが負けるとは……。マズいな……。それに、ソフィアたちが盗掘団と通じていることも想定外だ」


 冒険者ギルドのギルドマスターであるマリーだ。

彼女は後発隊を率いている。

西の森を少しずつ進んでいるところだ。

今のペースだと、タカシたちがいる盗掘団のアジトまでは1日以上はかかる。


 マリーはギルドマスターであると同時に、上級のテイマーでもある。

上級テイマーとしての能力の1つに、使役する従魔と視界を共有するというものがあった。


 今回は、鳥型の従魔と視界を共有し、タカシたちの動向を把握していたのだ。

タカシ、マクセル、アイリス、ミティ、ギルバート。

5人の特別表彰者により優勢だったが、ソフィアたちの合同魔法により眠らされてしまった。


「マズい? 何かあったのですか?」


 モニカがマリーにそう問う。

彼女は目上の人には丁寧な言葉を使う。


「ああ。先遣隊だが、どうやら全滅してしまったようだ。視界の共有が解かれたから、最後まではわからなかったが」


 鳥型の従魔もギリギリ合同魔法の範囲内に入ってしまっており、眠らされてしまったのだ。

今は償還して、マリーのもとに戻っている。


「ぜ、全滅ですか!? タカシさんたちが? まさかそんな」

「事実だ。どうやら敵の睡眠魔法にかかってしまったようだ。普通の睡眠魔法は、戦闘中の敵対者を眠らせるほどの効力はないはずなのだが」


 ニムの言葉を受けて、マリーがそう言う。

睡眠魔法自体は、それなりに使い手が多い一般的な魔法だ。

初級の睡眠魔法は、ララバイという。


 ララバイは、子守唄のようなイメージの魔法だ。

対象者が緊張状態であれば、効力が減じる。

対象者がリラックスしていれば、効力が増す。

また、術者と対象者の関係性も影響する。

親しい仲であれば、効力が増す。


 具体的には、母親が子どもに対して使用すれば、効力が増す。

街のお母さんたちには、初級の睡眠魔法ララバイを会得している者が一定数存在する。

それほどありふれた魔法だ。


 ただし、街のお母さんたちが使える程度のララバイの効力であれば、戦闘中の冒険者を眠らせることなど到底できない。

実の親子という関係性を持ってしても、我が子に若干の眠気を覚えさせる程度の効力である。


 ソフィアたちのララバイは、相当な効力だった。

各人の練度が高いのか、術者である4人が深い絆で結ばれているのか。

もしくは、効力を増す魔石や精霊石などを所持している可能性もある。


「ふふん。眠らされただけなら、とりあえずは安心だけど……。一刻もはやく助けに行きたいわね」

「そうだね。私も心配だよ」


 ユナとモニカがそう言う。


「うむ。少し想定外ではあったが、先遣隊が暴れてくれたおかげで盗掘団の戦力を把握できた。それに、眠らされるまでに相当な戦力を撃破してくれている。今が攻め入るチャンスだろう」


 マリーがそう言う。

下っ端戦闘員の多くは、マクセルとギルバートにより撃破されている。

ブギー頭領とジョー副頭領は、タカシたちとの戦闘で大ダメージを負っている。

治療魔法やポーションによりある程度は回復されるかもしれないが、全快とまではいかないだろう。

そして、手練のナディアとパルムスも、タカシ、ミティ、アイリスとの戦闘で一定のダメージを負っている。


「へっ。マクセルのやつ、だらしねえな。俺を先遣隊に入れねえからこうなるんだよ。助けに行ってやるか」

「ストラス君が行っていても、同じだったと思うの。でも、助けに行くのは賛成なの」

「そうですわね。あのマクセルさんでも、負けることがあるんですね。頼るばかりじゃなくて、もっと私もしっかりしていかないと……」


 ストラス、セリナ、カトレアがそう言う。


「みんなが早く助けに行きたい気持ちはわかった。だが、おそらくタカシ君たちは人質に取られているだろう。下手に刺激することは避けたい。それに、この人数の後発隊で急行するのは現実的ではない」

「ふふん。一理あるわね。なら、どうするのかしら?」


 マリーの言葉を受けて、ユナがそう問う。


「少数精鋭の救出隊を選抜して、その者たちで敵陣に乗り込んで撹乱してもらう。どさくさに紛れてタカシ君たち人質を解放できれば、こちらの勝ちは決まったようなものだ。そして、残りの私たちもできるだけ早くアジトに合流する」


 マリーがそう言う。


「作戦内容に異議はないです。ただし、当然私はそのメンバーに選んでもらえますよね?」

「わ、わたしも参加したいです!」

「ふふん。もちろん、私もただ待っているだけなんて性に合わないわ」


 モニカ、ニム、ユナがそう言う。


「じっくりと考えさせてくれ、と言いたいところだが。時間がない。私の独断で選ばせてもらおう」


 マリーがそう言う。

彼女が思案顔になる。

しばらくして、彼女が口を開く。


「モニカ、ニム、ユナ。そして、ストラス、セリナ、カトレア。ええと。後は、ディッダとウェイクだ。この8人で敵陣に乗り込んでくれ」


 マリーがそう言う。

この8人は、後発隊の中では上位の実力を持つ。

特に、最初の5人は近いうちに特別表彰がなされると思われる強者たちだ。

妥当な人選だろう。


 選ばれた8人が、敵陣に乗り込むための準備を整えていく。


「へっ。俺の超スピードで撹乱してやるぜ。進化した鳴神(ナルカミ)に驚くがいい」

「スピードなら自分も負けないの」

「待っててくださいね……。マクセルさん」


 ストラス、セリナ、カトレアがそう言う。


「タカシもまだまだ甘えなあ。実力は急成長したようだが」

「くっくっく。先輩である俺たちがフォローしてやることにしよう」


 ”荒ぶる爪”のディッダとウェイクがそう言う。

タカシと彼らは、かつてこの西の森でスメリーモンキーをともに討伐し、そして食事会でも親睦を深めたことがある。

冒険者ランクこそタカシに追い抜かれてしまったものの、冒険者としての経験は彼らのほうが上だ。


「無事でいてね、タカシ。私が助けるから。この”雷天霹靂(らいてんへきれき)”でね」

「わ、わたしもがんばります!」

「ふふん。私は、森の中では火魔法は使いにくいし……。サポートに徹しようかしら」


 モニカ、ニム、ユナがそう言う。

彼女たち8人は、無事に盗掘団を撃破し、タカシたちを助け出すことができるのだろうか。

タカシたち先遣隊の命運は、彼女たち救出隊に託された。

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