第9章 西の森の奥地へ、モニカ、ニム

259話 ラーグの街に帰還 これまでの活動の振り返り

 キメラを倒してから、2週間ほどが経過した。

そろそろラーグの街に帰る頃合いだろう。


 ここからラーグの街までは遠い。

一度帰ると、また来るのはしばらく先になる。

きちんとお別れを済ませておかないといけない。


 ……と言いたいところだが。

俺には転移魔法がある。

ユナの実家の、彼女の部屋に転移魔法陣を設置済みだ。

彼女の部屋を訪れた際にちょっとした事件があったのだが、それはまたの話としよう。


 今の俺の最大MPや、ラーグの街とウォルフ村との距離などを考えると、俺を含めて3人までは同時に転移できるだろう。


 今のミリオンズのメンバーは、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナの6人だ。

全員がラーグの街に転移するには、2往復半する必要がある。

MPの自然回復に要する時間を考慮に入れると、合計で3日間ほどかかってしまう。

その間は、冒険者活動をフルメンバーでは行えない。


 とはいえ、普通に馬車で移動するよりははるかに楽だ。

ここからラーグの街まで、馬車だと2週間ほどかかるからな。


 ……ん?

そういえば、馬車の転移も考えないといけないな。

馬車自体は非生物なので、俺のアイテムルームに収納すればラーグの街まで持っていける。


 しかし、馬はもちろん生物だ。

生物は、アイテムルームには収納できない。

厳密に言えば、微生物や植物は収納できるので、そのあたりの線引はよくわからないが。


 転移のスケジュールを組んでみよう。


 帰還1日目は、俺、ミティ、アイリス。

3人でラーグの街の自宅に転移する。

MPが自然回復するのを待つために、ラーグの街で一晩を明かす。

次の日の朝に俺が1人でウォルフ村に転移する。


 2日目は、俺、モニカ、ニム。

3人でラーグの街の自宅に転移する。

MPが自然回復するのを待つために、ラーグの街で一晩を明かす。

次の日の朝に俺が1人でウォルフ村に転移する。


 3日目は、俺、ユナ、そして馬。

2人と1頭でラーグの街の自宅に転移する。


 こんな感じのスケジュールとなるだろう。

各日程の人選は仮ではあるが、実際にこの順番で悪くないと思う。


 最初に帰る2人は、できれば戦闘能力の高いしっかり者がいい。

2日目の朝に俺がウォルフ村に転移した後は、ラーグの街にその2人きりになる時間があるからだ。

まあ、自宅でゆっくり待つだけなので、大きな危険はないだろうが。

しかし、かつてのハルク男爵のように招かれざる客が私軍を率いてやってくる可能性もあるにはある。

最低限の警戒はしておかなければならない。


 俺以外の5人の中で比較的戦闘能力が高いのは、ミティ、アイリス、モニカだ。

ミティは圧倒的な怪力を持つし、アイリスの武闘の腕前は折り紙付きだ。

モニカの雷魔法と武闘の合わせ技も強力だ。


 ニムも強いがまだ幼いので精神面は不安。

ユナはまだ強化したばかりの能力を使いこなせるか不安だし、彼女は弓士なのでどちらかと言えば援護が本職だ。


 また、戦闘能力以外にも考慮すべき点はある。

モニカとニムは仲がいいので、できれば同じ組がいいだろう。

そしてユナは、せっかくの故郷なので帰るのは最後の組がいいと思う。


 そう考えていくと、さっき挙げた順番と組み合わせで帰還していくのがベストだと思われる。

本人たちの希望を聞きつつ、柔軟に組み替えていこう。



●●●



 とうとう、ウォルフ村を旅立つ日になった。


 転移魔法陣の件は、ドレッドとジークにのみ話しておいた。

ウォルフ村の人たちは信頼できるが、無闇に広める必要もないしな。


「ふふん。それにしても、さすがね。転移魔法まで使えるなんてね」

「おう。タイミングが合えば、俺たちがラーグの街に行くときにも使わせてもらおうか。まあ、もう無理に稼ぐ必要はねェがな」

「……だが、クトナが外へ出たがっている。時期を見計らって、冒険者として再活動するのもいいだろう」


 ユナ、ドレッド、ジークがそう言う。


「おう。まあそれは、俺たちでクトナを鍛えてからだな。まだ先の話だ」

「ふふん。それまでに、私はもっと強くなっているわ。楽しみにしておいてね。お兄ちゃんたち」


 ユナがそう言う。


「またユナを連れて、この村まで来ることもあると思います。そのときは、よろしくお願いします」

「おう。元気でな。ユナのことをよろしく頼む」

「…………健闘を祈っている。妹を泣かしたら承知しないぞ」


 俺たちミリオンズは、ドレッドとジークに別れのあいさつを済ませる。

最後にジークからユナのことで釘を刺された。

気を引き締めないとな。



●●●



 数日後。

最後の組のユナと馬を連れて、ラーグの街に戻ってきた。


「ふう。この家に戻ってくると、疲れがとれるな。もちろん、ウォルフ村もいいところだったが」

「ふふん。そうね。この家は、なかなかのものね」

「いい家だと思います。私にとっては第ニの実家のようなものです」


 俺の言葉に、ユナとミティがそう答える。


「ボクにとってもそうだな。ボクの故郷は遠いしねー」


 アイリスがそう言う。

彼女の故郷は、中央大陸にある。

一方で、ラーグの街やウォルフ村は新大陸にある。


 アイリスの故郷に行こうとすれば、船での移動が必要となる。

いずれは行くことになるだろうが、なかなか気軽にはいけない距離だ。


「さっそく、ウォルフ村で教えてもらった辛い料理を練習しようかな。後でお父さんとも共有しないとね」

「わ、わたしは、このトウガラシという野菜の栽培に挑戦してみます」


 モニカとニムがそう言う。

彼女たちは冒険者活動だけではなく、本業のほうにも力を入れている。

モニカの本業は料理人。

ニムの本業は栽培士だ。


 しばらくは、そんな感じで他愛のない雑談を続けてのんびりする。

雑談に興じつつ、俺は思考を整理していく。

今までに何度も考えてきたことではあるが、今一度方針の再確認をする必要がある。


 今後の俺たちミリオンズの活動方針をどうすべきだろうか。

資金にはかなり余裕がある。


 普段の魔物狩りで安定して稼げるし、今回のウォルフ村やディルム子爵領での一件でもたくさん稼げた。

また、俺たちが立て替えようとしたウォルフ村の借金の金貨500枚は、結局免除されて俺たちに返還された。

さらに、ミティとアイリスの特別表彰の報奨金もある。

これらの貯金を切り崩しつつ、ずっとこの街で適当な依頼をこなして生きていくのもいい気がする。


 しかし、実際にはそうするわけにはいかない。

30年後の世界滅亡の危機を回避しなければならないからだ。


 世界滅亡の危機を回避するために、これまではミッションを参考に行動してきた。

この世界に転移した初日には、”魔物を1匹討伐しよう”や”街へ行こう”などのミッションに従った。


 その半月ほど後、他の冒険者と合同でホワイトタイガーを討伐した。

その際に、"ゾルフ砦の防衛に加勢しよう"などのミッションが追加された。

俺はそれに従い、ゾルフ砦を訪れることにした。


 ゾルフ砦に到着後、"ゾルフ砦のガルハード杯本戦に出場しよう"というミッションが追加された。

俺とミティは道場に入門し、武闘の訓練に励んだ。

その結果、無事にガルハード杯本戦に出場することができた。


 その後に防衛戦があった。

ゾルフ砦に、魔物の軍勢が押し寄せてきたのだ。

みんなで強力してファイティングドッグやゴブリン、それにジャイアントゴーレムなどを撃破した。


 防衛戦がひと段落したときに、"オーガ及びハーピィと和睦しよう"というミッションが追加された。

アドルフの兄貴たちとともに敵地に潜入し、なんやかんやあって無事に和睦することができた。

オーガ及びハーピィの国は、ハガ王国という名称に決まった。


 ハガ王国やゾルフ砦の面々に別れを告げ、ラーグの街に戻ってきた。

モニカやニムが困っていたのでいろいろと手伝った。

彼女たちが加護付与の条件を満たして冒険者としてデビューした。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

この5人でミリオンズとしてパーティ登録をした頃に、"ガロル村を訪れよう"というミッションが追加された。


 ガロル村というのはミティの故郷だった。

俺たちは5人でガロル村を訪れることにした。

ミドルベアや霧蛇竜ヘルザムとの戦闘もあったが、なんやかんやでみんな笑顔の結末となった。

俺とミティの結婚式という一大イベントもあった。


 ガロル村からラーグの街に戻り、のんびりと過ごした。

しばらくしてゾルフ砦を訪れることになった。

武闘の再鍛錬のためだ。


 メルビン道場にて1か月鍛錬し、メルビン杯にてそれぞれ優秀な成績を収めることができた。

特にアイリスは、優勝というすばらしい結果を残した。

大会中にアイリスから俺へのプロポーズがあり、大会後に俺とアイリスは結婚した。


 ゾルフ砦からラーグの街に帰ってきたところ、ユナと再会した。

彼女が一時的にミリオンズに加入した。

ウォルフ村のドレッドたちから不穏な手紙が届き、俺たちミリオンズでウォルフ村へ向かうことになった。


 ウェンティア王国のディルム子爵がウォルフ村に手を出してきた。

俺たちミリオンズはウォルフ村に加勢し、ディルム子爵配下の精鋭たちや、違法に研究されていたキメラを撃破した。

キメラによって破壊された街の復旧作業やケガ人の治療回りを積極的に手伝った。


 そして、ウォルフ村からここラーグの街に帰ってきたのが今日ということだ。

こうしてあらためて活動を振り返ってみると、いろいろと感慨深い。

ミッション報酬や忠義度稼ぎという目的はあるにせよ、世のため人のために結構がんばれていると思う。


 今は、全てのミッションを達成済みである。

何をすべきかは自分たちで考えていかなければならない。


 済ませておきたいことはいろいろとある。

俺とアイリスが治療魔法の合同魔法を使えるようになったので、バルダインの足の治療に再チャレンジしたい。

それに、マリアやサリエの現況も気になるところだ。


 モニカの父ダリウスとニムの母マムがいい雰囲気になっていた件も気になる。

俺たちがウォルフ村に行っている間に、さらに進展はあったのだろうか。

そろそろ再婚してもいい頃合いかもしれない。

盛大に祝福したいところだ。


 さらに、気になるニュースがある。

このラーグの街に、新しい貴族を取り立てようという動きがあるらしい。

魔物の生態系の乱れや、西の森の奥地に居座る盗賊団への対処として、戦闘能力の高い冒険者たちに白羽の矢が立っているそうだ。

俺も一応は候補の1人だとか。

冒険者ギルドで小耳に挟んだ。


 貴族になれば、しがらみは増えるだろうが、加護付与をフルに活用していく上で有用な局面も多いだろう。

サザリアナ王国の王家に嫌な人が多いのであれば敬遠したいが、おそらくはだいじょうぶだろう。

ゾルフ砦でのハガ王国に対する対応や、ウォルフ村の件に対する対応は、平和的かつ迅速な対応だった。

有能で理知的な王族が治めているのだと思われる。


 俺がさらなる功績を上げれば、叙爵の可能性も高まるだろう。

チャンスがあれば、積極的に狙っていきたいところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る