249話 vsキメラ 後編

 キメラ戦の続きだ。


 ミティ、ニュー。

俺、モニカ、ニム。

ジャンベス。

ウィリアム、アルカ、アイリス。

そしてユナ。

俺たち10人の怒涛の連撃でも、キメラを倒しきれていない。


 長期戦を覚悟した、そのとき。


「おう。状況はよくわからねェが、苦戦しているみてェだな」

「…………待たせたな。我らも加勢しよう」


 ドレッドとジークだ。

彼らはサザリアナ王国へ行って、今回の件の救援を依頼していたはず。

なぜここにいるのだろう。


 そして、ドレッドとジークだけじゃない。


「ふっ。俺を倒したお前たちが、こんな獣に負けてもらっては困るぞ」

「ははははは! なかなか歯ごたえのありそうな相手だな!」

「領民の安全を守るのは我らの務め」

「へへへ。この天才の俺に任せときな」

「ほっほっほ。あの嬢ちゃんのおかげで、実戦の勘が取り戻せたわい。この獣で試し切りさせてもらおうかの」


 アカツキ総隊長、ガーネット隊長、オウキ隊長、カザキ隊長、ダイア隊長もいる。

彼らは捕虜としてウォルフ村に置いてきたはず。

脱出されてしまったのか。

村の人たちは無事だろうか。


 ここで、彼らの情報を整理しておこう。

俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、アルカからの情報に加え、彼ら自身を尋問することによって得られた情報だ。

まあ尋問とはいっても、彼らの口は結構軽かったので拷問などはしていないが。


 アカツキ総隊長はかなりの強者だ。

俺とユナの2人がかりで互角だった。

最終的にはミティ、アイリス、モニカ、ニムを加えて6対1に持ち込み、フルボッコにすることができた。


 ガーネットは戦闘狂と称される女性隊長だ。

様々な戦闘スタイルに精通しているそうだ。

ミティに投石対決で敗れた。


 オウキは不死身と称される隊長だ。

フルプレートアーマーと闘気術の合わせ技による鉄壁の防御を誇る。

アイリスの三光一閃と発勁により倒された。


 カザキは19歳で隊長に抜擢された天才隊長だ。

めずらしい重力魔法と爆破魔法を扱う。

空からチクチクと削るような戦闘スタイルだったそうだ。

モニカの青空歩行からの旋風カカト落としで撃破された。


 ダイアは60歳を超えていまだ現役のベテラン隊長だ。

剣術の腕前は一流らしい。

ただし、ロックアーマーをまとうニムとの相性は最悪だ。

ロックアーマーに深い傷をつけたそうだが、勝負には敗れた。


「ドレッドさん、ジークさん。これはいったい……?」


 俺はそう言う。

なぜ敵兵の彼らといっしょなのだろうか。


「おう。不思議に思うのも無理はねェ。だが」

「…………説明は後だ」

「ふっ。まずはあいつを倒すぞ!」


 ドレッド、ジーク、アカツキがそう言う。

確かに、今は細かいことを考えている暇はないか。


「「赤狼族獣化!」」


 ドレッドとジークが獣化する。

これで彼らの戦闘準備は整った。


 そして、隊長たちも同じく戦闘体勢に入る。


「へへへ。俺の重力魔法を味わいやがれ。……我が敵を押し潰せ! グラビティ!」


「グオ……」


 カザキが魔法を発動する。

キメラがその場にうずくまる。

体が重くなっているようだ。


 これが、モニカが言っていた重力魔法か。

モニカとの戦いではカザキ自身の体重を軽くするという使い方をしていたそうだが。

相手の体重を重くすることもできるようだ。


「ははははは! 次は私のターンだ。いくぞ、双魚の舞!」


 ガーネットが双剣でキメラに攻撃を仕掛ける。

流れるかのような連撃だ。

ミティとの戦いでは投石を使っていたそうだが。

双剣の力量もなかなかのものだ。


「ほっほっほ。まだまだ若いやつらには負けておれんわい。抜刀術居合……滅心!」


 ダイアが抜刀術でキメラに攻撃する。

目にも留まらぬ鋭い一撃だ。

これが、ニムの絶対無敵装甲にキズをつけたという技だろう。


「グオ……。グオオオオ!」


 キメラが咆哮する。

カザキ、ガーネット、ダイアの怒涛の攻撃に怒っている。


 キメラが反撃を試みる。

キメラの強烈な突進が俺たちの目前に迫ってくる。


「…………させぬ!」

「ふはは! 我の防御は獣ごときには貫けんわ!」


 ジークとオウキが前に出て、キメラのタックルを止める。

耐久力に定評のある2人だ。

彼らの防御は非常に頼りになる。


「ふっ。そのまま抑えてろよ。……風神裂波!」


 アカツキが剣を振ったかと思うと、衝撃波が発生した。

かつてニムがロックアーマーで防いだ技だ。

あのときよりも威力が強いようだ。

キメラに小さくないキズを付けた。


「おう。俺もいくぜ。……うおおおおお!」


 ドレッドが大剣を構え、一段と気合を入れる。

大剣が赤く変色していく。


「くらえ! 赤き大牙-レッドファング-!」


 ドレッドの全力の一振り。

獣化による身体能力の向上に加え、闘気も惜しみなく使っている。

すばらしい一撃だ。

チートの恩恵を受けまくっている俺でも、あれほどの一撃を出せるかどうか。


「オォ……! ガオオオオオ!」


 キメラが大きな悲鳴をあげる。

アカツキとドレッドの攻撃により、大ダメージを受けている。

さらにもうひと息か。


「ユナ。あの技で決めるぞ」


「ふふん。あれね。わかったわ」


 俺とユナ。

2人で目を合わせ、息を揃える。


「「……たゆたう炎の精霊よ。我が求めに応じ、敵を焼き尽くせ」」


 ユナと息を合わせて詠唱を進めていく。


 すごい一体感を感じる。

今までにない何か熱い一体感を。

風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。


 そんなことを考えつつ、詠唱を続けていく。

無事に詠唱が最後まで終わりそうだ。

ユナとともに拳をキメラのほうに突き出し、火魔法を発動する。


「「ボルカニックフレイム!」」


 まるで火山から噴き出したかのような激しい火炎がキメラを襲う。

俺とユナの合同魔法だ。

ただでさえ強力な上級火魔法。

それを合同魔法として発動することにより、さらに火力が上昇している。


「オオオォ! ガ、ガオォ……」


 キメラは最後に力なくそう声をあげ、倒れた。


「俺たちの勝利だ!」


「「「うおおおおお!」」」


 みんなで勝利の雄叫びをあげる。

目の前の最大の脅威を退けることができた。


 赤狼族、領軍、冒険者。

みながお互いに抱き合い、奮戦を讃えている。

俺も達成感に酔いしれ、ユナやミティたちとともに喜ぶ。


 しかし、冷静に考えるとまだ解決すべき課題はいくつか残っている。


 まずは、ディルム子爵に誘拐されたシトニとクトナの救出だ。

それに、サザリアナ王国に向かっていたドレッドとジークがなぜここにいるのか。

ウォルフ村で捕らえていたはずのアカツキら隊長格たちがなぜここにいるのか。

このあたりの事情を聞く必要がある。

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