236話 ミリオンズvsアカツキ総隊長

 俺とユナはアカツキ総隊長と対峙している。


「せえぃっ!」


「ぬうっ! なかなかやるな!」


 俺とアカツキは、それぞれ剣を使って戦っている。

剣の腕前や身体能力は互角か、少し俺が劣るぐらいだ。

チートの恩恵を受けまくっている俺相手に優位に立つとは、総隊長という肩書は伊達ではない。


「……我が敵を滅せよ! ファイアーアロー!」


 ユナが俺の後方からアカツキに向けて火魔法を放つ。

彼女は弓や火魔法で俺の援護に徹してくれているのだ。


「ちっ。ちょこざいな!」


 アカツキが火魔法を避けつつそう言う。


 ユナの援護を込みで言えば、俺たちがやや優位に戦いを進めていると言っていいだろう。

この調子で戦い続ければ、勝ちを狙えそうだ。


 少し離れたところでは、ウォルフ村の戦士たちとアカツキの配下の兵士たちが戦っている。

あちらは乱戦気味だ。

個々の戦闘能力はウォルフ村の戦士たちに分がある。

一方で、数ではアカツキ配下の兵士たちに分がある。

総合的な戦力としては、ちょうど拮抗しているようだ。


 俺とユナがアカツキに敗北してしまうと、一気に形勢が傾くだろう。

気を引き締める必要がある。


 俺とアカツキ。

数メートルの距離をとり、間合いを見計らう。

剣だけじゃなくて、魔法もなんとか有効に使いたいところだ。

俺は火魔法の詠唱を開始する。


「炎あれ。我が求むるは豪火球。五十……」


「遅い! ……風神裂波!」


 アカツキがその場で剣を振る。

俺と彼は少し離れた位置にいるので、もちろん剣自体は当たらない。


 しかしあれは……。

衝撃波を飛ばしてきているようだ。

視力強化のスキルの恩恵により、何となく見える。


「くっ」


 俺は火魔法の詠唱を中断し、衝撃波を避ける。


「ほう。あれを初見で躱すとはな。想像以上だぜ、タカシ」


 アカツキがそう言う。

やはり、一筋縄ではいかない相手だ。

地道に削るしかないか。

長期戦になりそうだ。


「そりゃどうも。これでもCランク冒険者で、特別表彰者なんでね」


「なるほどな。このまま長期戦になれば、俺としても容易にはお前を倒すことはできんかもしれん」


「それはそうでしょう。俺を見くびらないでいただきたい」


「しかし……。お前はそれでいいのか? 仲間たちが俺の部下と交戦しているはずだぞ。何しろ力が有り余っているやつらだ。ついついやり過ぎてしまっているかもしれん」


 アカツキがそう言う。

俺の不安を煽り、戦闘の精度を下げようという腹づもりか。


 他のみんなはどういう状況だろうか。

ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

ステータス操作と加護の恩恵により、みんなとんでもなく強い。


 しかし、今回の相手はプロの兵士だ。

相性などによっては、敗北もありうる。


 まあ敗北したとしても、命まではとられないとは思うが。

……いや、それはさすがに甘く考えすぎか?

負けたら陵辱の末、惨殺されたりすることもあり得るのか?


 そう考えると、今さらだが不安になってきた。

少し甘く考えすぎていたかもしれない。


「ちっ。急いだほうがよさそうか……」


 思い切って真っ向勝負で短期決戦に挑めばどうなるだろうか。

6割ぐらいは俺が勝てそうな気がする。

しかし、逆に言えば4割は負けそうだ。


「ふふん。ダメよ、タカシ。あせってはやられてしまうわ」


「しかし……」


「みんなを信じましょう。信じることも戦いよ」


「……そうだな。うん。信じよう。まずは、あせらずに目の前の敵を倒すことに集中だ」


 ユナのアドバイスにより、心の平穏を取り戻すことができた。

やはり、ユナは冒険者として経験豊富なだけはある。

精神力において、俺よりもはるか格上だ。


「ふっ。こんな揺さぶりでは動揺しないか。……ん?」


 アカツキが横を見てそう言う。

4人の兵士がアカツキに駆け寄っていく。


「「「「報告!」」」」


「ふっ。タカシとやら。そうこう言っているうちに、他の戦いは決着が着いたのかもしれんぞ。……さて、報告をしてくれ。順に聞こう」


 アカツキが余裕の表情でそう言う。

部下たちの勝利を確信している様子だ。


「ガーネット隊長、敗戦!」

「同じくオウキ隊長、敗戦!」

「カザキ隊長、敗戦!」

「ダイア隊長、敗戦!」


 4人の兵士それぞれが、そう簡潔に報告する。

それを傍らで聞いていた兵士たちにどよめきが走る。


「隊長たちが敗北……?」

「う、嘘だろ」

「まさかそんな」


 兵士たちのどよめきが大きくなり、狼狽が広がっていく。

チャンスだ。

このスキに切り崩すぞ!

……そう思ったが。


「うろたえるな!」


 アカツキが兵士たちを一喝する。


「このアカツキがいる限り我々の敗北はありえない」


 アカツキが堂々とそう宣言する。

自信に満ち溢れた言葉だ。


 アカツキの一声により、兵士たちに落ち着きが広がっていく。

さすがは総隊長。

確かなカリスマの持ち主だ。

結構イケメンだし、実力もある。

ほれてまうやろー。


 領軍たちに動揺が広がらなかったのは残念だが、ミティたちが無事に勝利を収めたのはいいニュースだ。


「さて。これで俺も心置きなく戦えるな。……ん?」


 少し離れたところから、見慣れた人影が近づいてくる。


「タカシ様! ご無事ですか!?」


「やっほー。ボクは勝てたよ。タカシは苦戦しているみたいだね」


 ミティとアイリスだ。

彼女たちが隊長たちを撃破したことは先ほど聞いた。

撃破した後、俺やユナの加勢のために駆けつけてくれたといったところか。


「私も何とか倒せたよ。やっぱり、ここの正面には強い人が来ているのかな? タカシが苦戦しているなんてね」


「わ、わたしたちが来たからにはもう安心ですよ。みんなで戦いましょう」


 モニカとニムも来た。

4人ともやや疲れているようだが、大きなケガなどはないようだ。


「みんな。無事だったか」


「ふふん。別隊の精鋭たちを撃破して、ほぼ無傷とはね。やるじゃない」


 俺とユナはそう言って、ミティたちを出迎える。

これで、戦況は大きく俺たちに有利になったと言えるだろう。

一定以上の実力者に限定すれば、ミリオンズ6人対アカツキ総隊長1人だ。


 もちろん相手には一般兵がまだたくさんいる。

しかしそちらは、ウォルフ村の戦士たちが抑えてくれている。


「みんな、聞いてくれ。この男はアカツキ総隊長。ディルム子爵配下の兵士をまとめる立場の者だ」


「ふふん。かなりの手練だわ。心してかかる必要があるわよ」


 俺とユナはそう言う。

ミティ、アイリス、モニカ、ニムとの情報共有のためだ。


 しかし、これはチャンスである。

俺たちみんなでアカツキをフルボッコにしてやろう。

俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

それぞれ戦闘態勢に入る。


「ちっ。まさかてめえら、6人がかりで戦うつもりか?」


 アカツキがそう言う。

少しあせっているようだ。

さすがに6対1で勝つほどの自信はないようだ。


「ふふん。その通りよ」


「ああ、もちろんだ」


 ユナと俺はそう言う。

わざわざ1対1にこだわる必要はない。


「総隊長が相手ともなれば」


「卑怯などとも言ってられない」


 ミティとアイリスがそう言う。


「「「「「「我ら6人で」」」」」」


「片をつけさせて」


「もらおうか」


 モニカとニムがそう言う。


「ちっ。てめえらには、戦士の誇りってもんがねえのかよ」


「ふっ。そんなものがあっても、飯は食えねえ」


 アカツキの言葉を、俺はそう切って捨てる。


「しかし、ルール無用になれば、結局有利になるのはこっちだぜ? 俺の全力を見せてやろう」


 アカツキがそう言って、力を溜め始める。

何か奥の手を使う気か?

そうはさせるか。


「アイリス! モニカ!」


 シュッ。

俺の呼びかけが終わるか終わらないかのタイミングで、アイリスとモニカが動き出した。

アイリスは聖闘気”迅雷の型”。

モニカは”疾きこと風のごとし”を発動している。

超スピードだ。


「迅・砲撃連拳!」

「スリー・ワン・マシンガン!」


 アイリスとモニカ。

2人が怒涛の連撃を繰り出す。

アイリスはパンチ。

モニカはキックだ。


「ぐっ。速いーー」


 アカツキが怯む。

溜めかけていた力は霧散した。

彼は一度距離をとり、体勢を立て直す。


「くっ…。おのれ! 風神裂波!」


 アカツキが剣を振る。

先ほど俺に対して使った衝撃波を飛ばす技だ。


「みんな! 衝撃波が来るぞ! 避け……」


 俺はそう呼びかける。

しかし。


「しょ、衝撃波ですか? 小賢しいですね」


 ニムがそう言って、衝撃波を受け止める。

彼女はロックアーマーを発動している。

よほど高威力の攻撃でない限り、彼女の防御を突破することはできない。


 そのスキに、ミティがアカツキの背後に回り込む。

彼女がハンマーを勢いよく振り下ろす。


「ビッグ……ボンバー!」


 ドゴン!

アカツキはかろうじて避けた。

しかし、衝撃の余波による岩の破片が彼を襲う。


「ぐっ…。なんて化け物たちだ。パワーもスピードも桁違い…。だが負けるわけにはーー」


「……はあっ!」


 ユナが闘気を込めた矢を放つ。

ミティの攻撃の余波に怯んでいるアカツキのスキを捉えた、見事なタイミングでの攻撃だ。


「くっ!」


 アカツキがかろうじてそれを避ける。

だが、ここまでの怒涛の連撃により、彼に大きなスキが生じている。

今がチャンスだ。


 シュッ。

俺は”疾きこと風のごとし”で、アカツキに高速で接近する。


「ビッグ……バン!」


「ぐはあっ!」


 アカツキが大きく後方に弾き飛ばされる。

ドンッ!

彼は大きめの木にぶつかって、止まった。

彼は体勢を立て直せていない。

そして。


「い、いきます! ゴーレムさん、パンチです!」


 いつの間にか、ニムがゴーレムを生成していたようだ。

俺のビッグバンのダメージにより動きが止まっているアカツキに、ゴーレムがパンチを振り下ろす。


 ドゴオン!


「ぐっ! がああああっ!」


 アカツキが大ダメージを負う。

地面に大きなくぼみができ、彼が半分埋まったような状態になる。

彼は身動きしない。

どうやら、気絶したようだ。


「さて。総隊長は撃破した。俺たちの勝ちだな」


「そうだね。まだ残党はいるけど……」


 アイリスがそう言って、相手の兵士たちを見る。


「アカツキ総隊長!」

「う、うそだろ……」

「おのれミリオンズめぇ…」


 相手の兵士たちがそう言う。

動揺が広がっているようだ。


「まだやりますか? 相手になりますよ」

「そ、そうですね。まだ暴れたりませんし」


 ミティとニムがそう言って、一歩前に出る。


「うっ! た、退却だ! 退却ー!」


 相手の兵士の1人が、そう叫ぶ。

それを皮切りに、みんなが退却を始める。


「ア、アカツキ総隊長……。ひっ!」


 相手の兵士がアカツキを回収しにきたが、俺たちがひと睨みしたところ、諦めて退散していった。

せっかく総隊長を倒したのだ。

悪いが、捕虜とさせてもらおう。

何かの交換条件に使えるかもしれないしな。


 ミティたちが倒した隊長格たちも、できれば捕虜として確保しておきたいところだ。

俺たちは、急いで隊長格たちの身柄の確保に向かうことにする。

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