226話 赤狼族獣化 赤き大牙と模擬試合
さらに2日が経過した。
あと2、3日後に借金の取り立て人が来る予定だ。
この村に来てから、テイムを体験したりミティと筋トレをしたりつつ、日々を過ごしてきた。
今日は何をしようかな。
「ユナ。そういえば、獣化という技を一度見せてくれないか?」
ディルム子爵への借金返済の目処は立っているので、武力沙汰などにはならないだろうが。
今後の冒険者活動の参考にもなるし、一度見せてもらっておいて損はない。
「ふふん。いいわよ。そうね、ドレッドとジークも誘おうかしら」
「それはもちろん構わない。でも、なぜだ?」
「ふふん。深い信頼関係を結んでいる人が近くにいるほど、獣化の安定感が増すと言われているのよ。村のみんながいるから、この村の周辺にいる時点でそれなりに安定はするけどね。念には念を入れて、ということね」
「なるほど。しかしそれなら、ゾルフ砦での防衛戦でも獣化してもよかったんじゃないか?」
「ふふん。あのときの私たちの会話が聞こえていたのね。あの街には、私、ドレッド、ジークの3人しか赤狼族はいなかったからね。タカシたちのことは信頼していたけど、それでもまだ安定感への懸念はあったわ。それに何より、私たちが赤狼族だとバレること自体が大きなリスクだもの」
「ああ。それもそうか」
ユナたちが赤狼族だとバレると、奴隷狩りに狙われる可能性があるのだった。
俺がこの世界に来てから出会った人は、みんないい人だった。
しかしそれはたまたまめぐり合わせがよかっただけで、中にはそういう悪どい人もいるのだろう。
それに、この世界には闇魔法がある。
もとは善良な人でも、闇の瘴気にあてられると、負の感情を増幅させられてしまうこともある。
ガロル村のカトレアや村長のようにな。
ユナとともにドレッドとジークのもとを訪れる。
村の外れで獣化を見せてもらえることになった。
ミティ、アイリス、モニカ、ニムもいっしょだ。
「ふふん。いくわよ」
「おう。いつでもいいぜ」
「…………然り」
ユナ、ドレッド、ジーク。
3人が、集中した顔つきになる。
「「「赤狼族獣化!」」」
「はああああ!」
「ぬおおおお!」
「…………ふううっ!」
ユナ、ドレッド、ジーク。
三者三様の掛け声とともに、雰囲気が変わっていく。
ドレッドとジークの髪が赤に変色していく。
ちなみにユナはもともと赤髪だ。
さらに、耳が狼っぽく変容した。
加えて、牙が生えてきた。
なかなか強そうな外見だ。
「ふふん! どうかしら? これが獣化よ」
「おう! 時間がかかってすまなかったな。俺たちはまだこの力を使いこなせていねェんだ!」
「…………然り!」
ユナ、ドレッド、ジークがそう言う。
身体の変化に加えて、少しテンションも高めになっているようだ。
語気が荒い。
「ふふん! しかし、暑いわねえ。服なんて着てられないわ!」
「おう! 暑い暑い!」
「…………脱ぐぞ!」
ユナたちが服を脱ぎ始めた。
「な、なぜ? どうしたのです?」
「ふふん! 赤狼族は、炎の精霊の加護を受けているからね」
「おう! 獣化したら、体温が上昇するんだよ。暑いぜ!」
「…………バーニング!」
ユナたちはそう言って、どんどん服を脱いでいく。
ユナのストリップショーだ。
俺は食い入るように見る。
……と言いたいところだが。
ユナの隣では、むさいおっさんのドレッドとジークも合わせてストリップショーをしている。
彼らのほうを見まいとするも、嫌でも視界に入ってくる。
それに、あまりユナのほうばかり見るのもな。
ミティやアイリスからの視線が気になる。
ここは、心頭滅却して心を無にしてやり過ごそう。
……………………。
…………。
……。
ふう。
「ふふん! 待たせたわね。これぐらい脱げば、とりあえずはだいじょうぶよ!」
ユナがそう言う。
足は靴や靴下を脱いで、素足になっている。
スカートは超ミニスカートだ。
パンツが見えそうで見えない。
上は、へそ出しの半袖Tシャツみたいな服装だ。
露出がとにかく多い。
大事なところは見えていないので、ギリギリセーフなのだろうが。
ちなみにドレッドとジークも薄着になっている。
ドレッドは大きな体格に立派な筋肉が付いている。
ジークはドレッドに比べると小柄ではあるが、引き締まった体をしている。
「おう! タカシ。せっかくだし、1戦交えていくか?」
「それはいいですね。ぜひやりましょう」
ドレッドの誘いに、俺は二つ返事で了承する。
集団戦か個人戦か。
相談の結果、今回は個人戦をすることになった。
「…………タカシの相手は、俺が務めよう」
まずは俺とジークの戦いだ。
俺はジークと対峙する。
俺は木剣と盾を使う。
対するジークも木剣と盾を使う。
ただし、普段のフルプレートアーマーは脱いでいる。
防御力は当然落ちているだろうが、その分敏捷性が上がっているはず。
獣化もしているしな。
油断できない相手ではある。
しかし、チートの恩恵を受けまくっている俺が、Dランクのジークに手こずるわけにはいかない。
「ジークさん。俺は強くなりました。申し訳ありませんが、最高の力ではやく終わらせてもらいます」
俺は闘気を解放する。
ゾルフ砦での鍛錬により、俺はずいぶんと強くなった自覚がある。
「…………楽しみだ…。しばらく見ない間の修行の成果とやらを見せてもらおう。かあっ!!!」
ジークが闘気を解放する。
……!
かなりの闘気量だ。
これなら、ガルハード杯でも上位を狙えたのではなかろうか。
「こりゃあはやく終わりそうにはねえな……」
「いくぞ!!! 殺してやるタカシ!!!」
ジークがそう言う。
殺すとか怖いんだが。
そんなに恨まれるようなことしたかな。
「ふふん! 始めなさい!」
ユナがジークの言葉をスルーしてそう言う。
まあ、試合前の意気込みみたいなものなのだろう。
本当に殺しにくるわけがない。
……そうだよな?
そう思うしかない。
俺は気を取り直して、試合に集中することにする。
「成長した俺の技を受けてください。疾きこと風のごとし」
シュッ。
俺は高速移動で、ジークに接近する。
「ツー・ワン・マシンガン!」
「…………ぐ。なるほど。速いな!」
ジークがそう言って、防戦一方となる。
ジークには申し訳無いが、やはり成長した俺の敵ではないだろう。
「おらおらぁ! 守っているだけでは、俺には勝てませんよ!」
「…………もちろんだ。シールドバッシュ!」
ジークが盾を使ってタックルしてくる。
獣化による身体能力の向上もあり、なかなか鋭い攻撃だ。
「ぐっ!」
「…………ふっ。成長しているのはお前だけではないということだ!」
ジークがそう言う。
まあ確かに、俺がいろいろと鍛錬して経験を積んでいる間、他の人も遊んでいるわけではない。
俺と同じくらいがんばっている人もいれば、俺以上にがんばっている人もいるだろう。
獣化による身体能力の向上を差し引いたとしても、ジークは以前俺と行動をともにしていたときよりも強くなっているようだ。
このまま順調にいけば、獣化なしでもCランクは近いだろう。
獣化ありなら、完全にCランクの実力はある。
「まだまだぁ!」
「…………なんの!」
そんな感じで、獣化したジークと拮抗した模擬試合を繰り広げた。
結果は、ギリギリ俺が勝った。
まあ獣化を見せてもらうのが第一目的だし、別に勝ちにこだわる必要はなかったのだが。
ユナの忠義度を稼ぐため、少しでもいいところを見せたい気持ちもある。
いい結果を収めることができたと言えるだろう。
●●●
俺とジークの試合の後には、ユナとニムが試合を行うことになった。
試合開始直後、ユナが獣化した身体能力を活かして、木の上へ跳ぶように登っていく。
「ふふん! ニムちゃんは、この距離まで攻撃できるかしら!?」
ユナが高いところから見下ろし、ニムにそう言う。
「こ、攻撃できないことはありませんよ。……ストーンショット!」
ニムが初級の土魔法でユナに攻撃を仕掛ける。
しかし、ユナが木の枝から木の枝へ、飛び跳ねるように移動して躱す。
かなりの身のこなしだ。
「ふふん! 当たらないわね。……レッドアロー!」
お返しとばかりに、ユナが闘気を込めた弓矢を次々と放つ。
なかなかの連射力だ。
先端は丸めてあるので殺傷力はないだろうが、打撃力はありそうだ。
「……く。ロックアーマー!」
ニムがロックアーマーをまとい、防御を固めた。
これなら、ユナの攻撃は通らないだろう。
「ふふん! これは、引き分けかしら。お互いに有効打がないものね」
「い、いえ。まだです」
ニムがそう言う。
ロックアーマーの中で、集中して魔法の詠唱をしているようだ。
魔力を多めに練り込んでいる。
「はああ……! 我が敵を砕け! ストーンレイン!」
多数の石がユナに向けて放たれる。
普段よりも数が多く、速度もある。
詠唱に時間をかけて、魔力を多めに練り込んだ成果だろう。
「ちょ、ちょっと! これはさすがにっ。わたたっ!」
ユナが回避しようとするが、おぼつかない。
いくら獣化しているとはいえ、不安定な木の上でこれだけの数の石に襲われたらな。
「きゃっ。ちょっ!」
石の1つが、とうとうユナの腰のあたりをかすめた。
かすめただけなので、ダメージは少ないようだ。
しかし。
「きゃあああっ!」
スカートの腰のところが石により破れたようだ。
スカートがずり下がる。
パンツ丸見えだ!
うおおおおお!
「タ、タカシ様……?」
「じとー……」
ミティとアイリスの視線が痛い。
やばい。
食い入るように見ていたのがバレたようだ。
ちょっと興奮しすぎたか。
「い、いや。危ないから、心配して見ていただけだ。うん」
俺はそう言い訳をする。
危ないのは事実だ。
高いところでバランスを崩しそうになっているわけだからな。
地球の感覚で言えば、生死の際と言っても過言ではない。
まあ、この世界には闘気や魔法があるので、地球の感覚より人は頑丈だが。
今のユナは獣化により身体能力が向上しているし、落ちても死にはしないだろう。
ドレッドやジークたちも落ち着いて見ている。
……ん?
なんで落ち着いているんだ。
ユナのパンツが丸見えなのに。
パンツで大喜びするガキは俺だけなのか。
「……ふふん。ひどい目にあったわ!」
ユナが木の上から地上に下りてきてそう言う。
ニムとの試合はこれで終了だ。
一応、ニムの優勢勝ちという判定となった。
その次のミティ対ドレッドの試合でもひと悶着あったが、それはまた今度の話としよう。
獣化の技を使いこなす彼らは、頼りになる存在だ。
数日後に迫った借金返済でも、何の心配もないだろう。
安心して構えておこう。
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