205話 閉会式 マリアとの再会

 メルビン杯の続きだ。

準決勝戦の第1試合は、アイリスが勝った。


 準決勝戦の第2試合は、モニカvsジルガである。

モニカの活躍に期待していたが、残念ながら彼女が負けてしまった。

まあ、2回戦でのギルバートとの試合でかなり体力や闘気を消耗していたからな。

仕方ない。

両者とも万全の状態なら、また違った結果になったかもしれない。


 そして、決勝戦はアイリスvsジルガ。

白熱した試合だったが、最終的にはアイリスが勝った。

これで、彼女はガルハード杯での雪辱を果たしたことになる。

ガルハード杯の1回戦で彼女はジルガに負けていたからな。


 さて。

これでメルビン杯の全試合が終了した。

閉会式が始まろうとしている。


「出場選手の皆さま! ステージへ集合してください!」


 司会の人がそう叫ぶ。

参加メンバーがステージの上に集まる。

1回戦負けだったババンやレナウたちも、まだ残っていた。

他の人の試合を見て勉強していたのだろう。


 観客は一部帰っている人もいるが、まだ残っている人も大勢いる。


「では、今大会の主催のメルビン師範にあいさつをいただきます。メルビン師範、お願いします」


 司会の人がそう言う。

メルビン師範が選手たちの前に立つ。


「うむ! 今回の大会にも、ハイレベルな選手がこぞって参加してくれたことをうれしく思う! 今後の諸君のより一層の活躍に期待しておるぞ!」


 メルビン師範がそうあいさつをする。


「メルビン師範、ありがとうございました。それでは、表彰状の授与に移ります。……3位。エドワード選手。前へお越しください」


 エドワード司祭がメルビン師範の前まで歩み出る。


「エドワード殿には、指導者としても貢献いただいておるな! 今後も有意義な指導をお願いしたい!」


「ああ。もちろんですとも。精一杯、尽力しましょう」


 エドワード司祭がそう言う。

表彰状を受け取り、下がる。


 彼は自身の腕試しというよりは、アイリスを始めとした出場選手の成長を確かめるために参加していたようなところがある。

彼が最初から全力で勝ちを狙いにきていれば、また違った結果になったかもしれない。

彼の実力の底はまだ見えない。


「続きまして、同じく3位。モニカ選手。前へお越しください」


 モニカがメルビン師範の前まで歩み出る。


「モニカ殿。初参加ながら、3位と大健闘じゃったな! 今後も励むように!」


「わかった。ありがとう」


 モニカが表彰状を受け取り、下がる。

彼女の武闘の戦闘能力がかなりのものであることが、この大会により証明された。

格闘術や闘気術をさらに伸ばしたり、脚力や体力などの基礎ステータスを強化すれば、より上を目指せるだろう。

次回のガルハード杯で上位入賞も十分に狙える。


「続きまして、準優勝。ジルガ選手。前へお越しください」


 ジルガがメルビン師範の前まで歩み出る。


「ジルガ殿は上位の常連じゃな! 次はガルハード杯での活躍にも期待しておるぞ!」


「ガハハ! もちろんだぜ!」


 ジルガが表彰状を受け取り、下がる。

彼は彼で日々の鍛錬を続けている。

今後もギルバートらと切磋琢磨し、より上を目指し続けるだろう。

魔物討伐などでは頼りになる仲間であるが、武闘大会においては強力なライバルである。

今後も要注意の人物だ。


「そして最後に。優勝。アイリス選手。前へお越しください」


 アイリスがメルビン師範の前まで歩み出る。


「アイリス殿。すばらしい成長じゃった! 次のガルハード杯では、優勝も狙えるかもしれん! 期待しておるぞ!」


「うん。期待しておいてよ。それまでに、さらに成長しているから」


 アイリスが表彰状を受け取り、下がる。

確かに、彼女であれば次のガルハード杯までにもっと成長できるだろう。

彼女は向上心が強いからな。

日々の鍛錬を欠かさない。


 それに、俺のステータス操作の恩恵もある。

彼女の今後の活躍にも期待しよう。



●●●



 表彰式が終わった。


「さて。宿屋に戻ろうか」


「そうですね。その前に、食事にしませんか?」


 ミティがそう言う。


「いいね。私、お腹がすいたよ」


「ボクも。そうだ、あそこに行こうよ」


「や、焼肉キングダムですね。わたしもそこがいいです」


 モニカ、アイリス、ニムがそう言う。


「そうだな。そこで夕食にしようか」


 俺たち5人で焼肉キングダムに向かって歩き出す。

前回のガルハード杯の頃に、ミッシェルやマーチンに絡まれた思い出の場所である。

それに、この1か月の間にも何度か行っている。

なかなかの肉を出す焼肉屋だ。


 焼肉屋へ向かって歩いている途中。

見覚えのある面々が近づいてきた。


『タカシお兄ちゃん!』


「ん? おお。マリアじゃないか」


 マリアはハガ王国の姫だ。

8歳くらいのハーピィの少女。

彼女へは加護を付与済みだ。

年齢・種族・身分などを考慮して、パーティへの勧誘は見送っているところである。


 そういえば、1回戦で彼女の声援が聞こえたのだった。

このゾルフ砦まで観光に来ていたのかもしれない。


 彼女以外にも、数人のオーガやハーピィの姿もある。

おそらく護衛だろう。

彼らのハガ王国と、ここゾルフ砦が属するサザリアナ王国は、友好関係を結んだ。

しかしそうは言っても、見慣れない種族が街中にいると思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もある。

一国の姫が単独でこの街まで来るわけがない。


『タカシ殿。久しぶりだな』


『ええ。ますます活躍しているそうで。何よりだわ』


 護衛たちの代表格である、ディークとフェイがそう言う。

ディークは、ハーピィの男性。

フェイは、ハーピィの女性だ。


 ディークとフェイはハガ王国の有力者であり、六武衆と呼ばれる武闘派集団に属している。

ちなみに、フェイはディークのことが好きなようだ。

湖水浴などではラブコメ展開を繰り広げていた。

現在の彼らの関係がどうなっているかは知らないが。


「お久しぶりです。ディークさん。フェイさん」


 俺は彼らに一礼する。

彼らは意思疎通の魔道具を持ち歩いているようだ。

俺やアイリスたちと、不都合なく会話できている。

まあ、俺には異世界言語のスキルがあるので、魔道具なしでも俺はだいじょうぶだろうが。


『タカシお兄ちゃん! いっしょにご飯に行こうよ!』


「ご飯か。いいぞ。ちょうど俺たちは、焼肉屋に行くところだったんだ」


『やったー! マリア、お肉大好き!』


 マリアが万歳して喜んでいる。


『それはいいね。僕たちもお供させてもらおう。なあフェイ?』


『そうですわね。わたくしたちも同行しましょう。護衛の任もありますからね。とはいっても、この街は平和そのものですが』


 ディークとフェイがそう言う。

確かに、今のこの街は平和だ。

かつては、南にある魔の領域からの侵攻に備えて、ピリピリしていた時期もあったそうだが。


 今となっては、その南を縄張りとするオーガやハーピィと友好関係を築くことができている。

というか、その本人たちとまさに今、気安く話しているわけだしな。

平和なのはいいことだ。

俺も微力を尽くしたかいがあったというものだ。

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