194話 1回戦 タカシvsミッシェル

 メルビン大会の1回戦が始まろうとしている。

俺は軽く準備運動をしておく。


「ではさっそく、第1試合を始めます! タカシ選手対、ミッシェル選手!」


 司会の人がそう叫ぶ。


 さっそく、俺の出番だ。

コロシアムのステージに上がる。


『タカシお兄ちゃん! がんばってー!』


「ミッシェル坊! 負けたら承知しないよ!」


 観客席から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

えーと。


 あれはマリアだな。

ハガ王国の姫だ。

8歳くらいのハーピィの少女。

なんでここにいるんだ?

ハガ王国から観光に来ているのだろうか。

俺は彼女に、とりあえず手を振っておく。


 ミッシェルに声援を送っているのは……。

えーと。

だれだっけ?

…………。

ああ、焼肉屋のおばちゃんか。

コップを壊したミッシェルを叱っていた人だ。


 他にもチラホラ見覚えのある顔がいるような気もするが、今は置いておこう。

目の前の試合に集中しないと。


 気を取り直して、対戦相手のミッシェルと対峙する。


「両者構えて、……始め!」


 試合が始まった。

まずはお互いに距離を保ちつつ、様子を伺う。


「久しぶりだな。タカシ」


「ミッシェルさん。お久しぶりです」


 ミッシェルは、俺がかつてガルハード杯1回戦で闘った相手だ。

チンピラ風ではあるが、少し落ち着いた雰囲気もある男。

年齢は20代前半くらい。

ギルバート、ジルガ、ドレッドあたりと比べると体格はそれほど大きくないが、引き締まった体をしている。

ガルハード杯1回戦では、俺が負けてしまった。


 今回はリベンジできるだろうか。

あれから俺は、バルダインやミドルベアなど強敵との戦闘を経験してきた。

日々の冒険者活動でも経験を積んでいるし、六武衆や疾風迅雷との合同訓練も行った。

ここ1か月はメルビン道場に再入門して鍛錬に励んでいる。

格闘術のレベルは2に上がり、闘気術レベルは4まで伸ばした。


「がんばっているようだな。確か、”紅剣”のタカシだったか。この街にもその名前はとどろいているぜ」


 ミッシェルがそう言う。

彼は、俺の特別表彰制度の二つ名を知ってくれているようだ。

メルビン師範も、ややあやふやだったが特別表彰制度の存在は知っているようだったしな。

特別表彰制度は、確かな効力のある制度のようだ。


「ありがとうございます。ミッシェルさんを始め、強者の方々からいい刺激をいただいた結果です」


「謙遜するな。お前は強い。……だが、武闘においては俺もそうやすやすと負けるつもりはない。いくぞ!」


 お互いの様子見が終わり、本格的な戦闘が始まる。

ミッシェルがこちらに駆け寄ってくる。


「おらおらぁ!」


 彼がパンチやキックを繰り出してくる。

なかなか重い攻撃だ。


「くっ……」


 俺は闘気でガードする。


「どうした? そんなものか! お前の力を見せてみろ!」


「言われずともお見せしますよ。せいっ!」


 俺はがんばって反撃する。

しかし。


「甘いぜ!」


 ミッシェルに軽くいなされる。

残念ながら、まだまだ地力が違う。

こちらが劣勢だ。


 一度距離をとる。

体勢を立て直そう。


「やはり強いですね。ミッシェルさん」


「当然だ。俺も遊んでいたわけではないからな」


 ミッシェルがそう言う。

俺がいろいろと経験を積んだり鍛錬をしたりしている間、彼は彼で鍛錬していたのだろう。

お互いに強くなっているので、そうすぐに差が縮まっていくわけではない。


 とはいえ、俺にはステータス操作のチートがある。

直近でも、闘気術レベル3を4に伸ばしている。

この強化は大きいだろう。


 それに加えてガルハード杯のときは、闘気術などのスキルを先行して強化した分、肝心の俺の技量が追いついていなかった面がある。

あれから実戦や鍛錬を通して、スキルを使いこなせるようになってきた。


 今こそ、俺の真の実力を見せるときだ!

闘気を脚に集中させていく。


「剛拳流、疾きこと風の如し」


 俺はメルビン師範に伝授してもらった高速移動の技を発動する。

鳴神と同系列の技だ。

見様見真似で会得していた鳴神を活かしつつ、メルビン師範の指導のもとちゃんとした技を会得した。


 シュッ。

高速移動でミッシェルに接近する。


「なっ!? は、はやい!」


 ミッシェルが驚きに目をむく。


「ふふふ。どうです? これが今の俺の実力です」


 俺はそう言いながら、ミッシェルに攻撃を加えていく。


「ぐっ。やるな。だが、俺は眼には自信がある。そのスピードなら対応はできるぜ」


 その言葉通り、彼は俺の攻撃に対応しつつある。

俺は負けじとさらに加速する。

攻撃の手を強めていく。


 ミッシェルの目がこちらを捉える。


「タカシ。大事なところで瞬きする癖は治っていないようだな。……ここだ!」


 俺が攻撃する際の一瞬のスキ。

ミッシェルがそれを見逃さず、攻撃を繰り出す。

しかし。


「剛拳流、静かなること林の如し」


「なにっ!? ぐはっ!」


 俺はミッシェルの攻撃を受け流し、投げ飛ばす。

ミッシェルを床に叩きつける。

一気に畳み掛けるぞ。


「ビッグ……」


 闘気を込めつつ、腕を振り上げる。


「バン!」


「ぐああああっ!」


 俺のビッグバンで、倒れているミッシェルに追撃した。

彼は闘気で防御を試みる。

しかし防ぎきれず、大きなダメージを負ったようだ。

起き上がってこない。


 審判が駆け寄り、カウントを始める。


「……8……9……10! 10カウント! ミッシェル選手のダウン負けです! 勝者タカシ選手!」


 審判により、俺の勝ちが宣言された。

よし。

何とか勝つことができた。


 治療魔法士がミッシェルに駆け寄り、治療魔法をかける。

俺はミッシェルに近づいていく。


「いい勝負でした。ミッシェルさん」


 俺はそう言って、ミッシェルに手を差し出す。


「ああ。かなり強くなったな、タカシ」


 ミッシェルが俺の手を取り、立ち上がる。


「……攻撃時にまばたきする癖がまだ治っていないように見えたのだが。あれはフェイクだったんだな。してやられたぜ」


「ええ。ミッシェルさんの眼力を騙せるかは不安でしたが……。うまくいってよかったです」


「ふっ。まあ、少し違和感はあったのだがな。勝負を急いでしまったぜ。また鍛え直しだな」


 ミッシェルはそう言って、ステージから立ち去っていった。

何とか、ガルハード杯での借りを返せてよかった。

ミティやアイリスたちにもいいところを見せることができた。


 さて。

俺は無事に1回戦を突破した。

こうなると、心理的にも余裕ができる。

ゆったりと、ミティやアイリスたちの試合を見学させてもらうことにしよう。

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