163話 セイクリッドチェーンとライトニングブラスト 概要

 ガロル村からボフォイの街への道中だ。

俺たちは馬車に揺られている。


「そういえば。アイリス、モニカ。新しい魔法はどんな魔法なんだ?」


 俺は2人にそう問う。

数日前のスキル強化で、2人は新しい魔法を習得した。

アイリスは聖魔法レベル3。

モニカは雷魔法レベル3だ。


「ボクの聖魔法レベル3は、セイクリッドチェーンという魔法だよ」


 アイリスがそう答える。


「セイクリッドチェーン。聖なる鎖か」


「ゴブリンを相手に使ってみたけど、縛って無力化できた。リトルベアとかに通用するかどうかはわからないけど」


「なるほど。悪くない魔法のようだな」


 とはいえ、ゴブリンを縛る必要性はあまりない。

普通に攻撃魔法を使うほうが手っ取り早い。


「普段の冒険者活動にはあまり活かせそうにないかもしれないけど。魔物を生け捕りにする依頼があったりしたら、役立つよ」


 アイリスがそう言う。


「そうだな。魔物以外にも、例えば迷い猫を捕まえるときとかにも使えるな」


「うん。猫ぐらいなら、問題なく拘束できるだろうね。ちなみに、闇の強い相手ほど縛る力が増すみたい」


「闇の強い相手?」


「闇魔法の影響下にあったバルダイン陛下や、霧蛇竜ヘルザムに憑依されていたカトレアさん。セイクリッドチェーンを使えば、もっと簡単かつ安全に無力化できたかもしれない」


「なるほど。そういう感じか」


 何となくイメージが湧いた。


「あと、盗賊とかの犯罪者相手にも役立つだろうね。ボクは、できるだけ人を殺したくないから」


「そうだな。俺も同感だ」


 たとえ犯罪者であろうと、人が死ぬのは嫌だ。

もちろん、殺すか殺されるかという局面では、ためらいなく殺す覚悟はしているつもりだ。

しかし、今の俺たちの戦闘能力があれば、そうそうそんな局面は訪れないだろう。

こちらに命の危険が及ばない範囲においては、犯罪者相手でもできるだけ殺したくない。


 アイリスの聖魔法レベル3の概要は把握した。

次はモニカだ。


「モニカのほうはどんな魔法なんだ?」


 俺はモニカにそう問う。


「私の雷魔法レベル3は、ライトニングブラストという魔法だよ」


「うん? それは聞き覚えがあるようなないような」


 俺はがんばって思い出そうとする。


「タカシ様。確か、三日月の舞というパーティの1人が使っていたように思います」


「ああ。そうだったな。電撃で敵を貫く魔法だな」


 ミティの言葉により、無事に思い出せた。


 ラーグの街からゾルフ砦へ向かう道中で、三日月の舞のメンバーが使用していた魔法だ。

確か、名前はルリイ。

リーダーのエレナが火魔法使いで、テナが土魔法使いだったはずだ。


 三日月の舞は、2人の前衛が攻撃を引きつけ、後衛の魔法使い3人で魔物に集中砲火を浴びせる戦闘スタイルだった。

3人の中級魔法でリトルベアに大ダメージを与えていた。


 あのライトニングブラストの使い手が俺たちのパーティメンバーにもいると思うと、非常に頼りになる。

俺のファイアートルネードに、ニムのストーンレインもある。

魔法による殲滅力において、俺たちのパーティは既にCランクパーティである三日月の舞を超えているだろう。


 俺たちミリオンズがCランクに昇格する日も近いはず。

ミドルベア討伐や霧蛇竜ヘルザム撃退の実績もあるしな。


 次に冒険者ギルドに報告するのが楽しみだ。

ガロル村には冒険者ギルドがない。

ボフォイの街に冒険者ギルドがあれば、功績を報告しておきたいところだ。

まあ、まずはミティの奴隷身分解放が先だが。


「そうだね。私もゴブリンを相手に使ってみたけど、一撃で討伐することができた。パラライズよりも威力は上だよ」


 モニカがそう言う。

パラライズは敵を麻痺させることに特化した魔法だ。

威力はさほどない。


 モニカの雷魔法レベル3の概要も把握できた。


「だいたいわかった。ありがとう、2人とも。できれば、実際に見てみたいところだな」


 俺とミティは、前回のスキル強化の日以降、ダディとマティの仕事の手伝いをしていた。

まだアイリスとモニカの新しい魔法を見たことがない。


「うん。そうだねー。ゴブリンあたりが出てくればいいんだけど」


 アイリスがそう言う。


「……む。そうこう言っているうちに、ちょうど魔物が現れたぞ。ゴブリンが5匹だ」


 俺はそう言う。

俺の索敵能力はパーティ内で1番だと思う。

気配察知レベル2、視力強化レベル1、聴覚強化レベル1を取得しているからな。


「んー。あっ。確かにいるね」


 アイリスが目を凝らして、そう言う。

モニカとニムも気づいたようだ。


 アイリスは気配察知レベル1を持っている。

索敵能力は俺に次ぐと言えるだろう。

まあ気配察知レベル1では、ある程度の近距離に限られるが。


 モニカとニムは、索敵に有効なスキルを持っていない。

しかし、兎獣人は生来の特徴として聴覚に優れており、犬獣人は同じく嗅覚に優れている。

アイリスに次ぐ索敵能力を持っていると言えるだろう。


 ミティの索敵能力は一般人レベルだ。

まあ彼女は戦闘や鍛冶で貢献してくれるしな。

索敵能力は俺たちでカバーすればいいだろう。


 索敵能力をまとめると、ミティ<ニム≦モニカ<アイリス<タカシといった感じになる。

今の俺たちの中では俺がトップではある。

とはいえ、極端に優れているというほどでもない。

今後、索敵系のスキルを優先的に強化するつもりもあまりない。


 アイリス、モニカ、ニムのだれかに索敵の役目は譲ったほうが良さそうか。

次回のスキル強化の際に、相談してみよう。

もしくは、新たな仲間に索敵能力に特化してもらうかだ。

まあ、いずれにせよ少し先の話だ。


「ダディさん。少し先に、ゴブリンの集団がいます。念のため討伐しておきます」


「ん? おお、そうか。わかった」


 ダディが道の途中で馬車を止める。

俺、ミティ、アイリス、モニカでゴブリンの討伐に向かう。


 ダディ、マティ、マイン、マーシー、フィルは馬車で留守番だ。

もしものときのための護衛として、ニムにも残ってもらった。

彼女はアイリスとモニカの新魔法を実際に見ているしな。

改めて見てもらう必要性は低い。


 ニムはまだ幼いが、戦闘能力はダディたちよりも上だ。

遠距離ならストーンレイン、近距離ならロックアーマーがある。

加護付与による基礎ステータスの向上に加え、腕力強化や脚力強化も取得しているしな。

ファイティングドッグやゴブリンぐらいの相手であれば、ソロでも十分に対処可能だろう。

もちろん、ヤバそうな魔物が出れば俺たちも急いで馬車まで戻るつもりだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る