149話 ミティの宿敵 カトレア
ミティの父ダディと母マティ。
彼らと別れ、アイリスたちが待機している宿屋に向かう途中。
「あら? そこにいるのはミティさんですか?」
ドワーフの女の子が話しかけてきた。
ドワーフなので背は低めだが、おそらく10代後半くらいだろう。
「カ、カトレアさん……」
ミティの顔がちょっと曇った。
あまり仲が良くない人なのかな。
「おほほ。家庭の事情で奴隷として売られたのに、戻ってこられたのですね。よかったですわね」
よかったと言う割には、忌々しそうな顔をしている。
「え、ええ……。すばらしいご主人様に拾っていただけました」
ミティの言葉に、カトレアがこちらを見る。
「ふん。貧相な男ね。ミティさんにはふさわしいのかもしれませんが」
なんだろう。
言葉遣いは丁寧だが、節々に悪意を感じる。
ミティもこの人が苦手そうだし、さっさと立ち去ったほうがいいか。
「すみません。俺たちは予定があるので、この辺で失礼します」
足早にその場を去る。
カトレアはまだ何か言いたそうにしていたが、聞く気はない。
無事にカトレアをまいた。
「ミティ。あの人はどういう人なの?」
「この村の村長の娘です。昔は私と仲が良かったのですが……」
「へえ。仲が良かったんだ。正直、そんな風には見えなかったけど」
いじめっ子のリーダーというか、悪役令嬢というか。
ちょっと嫌な雰囲気の女の子だった。
「私とカトレアが、ちびっこ相撲大会で優勝争いをしたことがありまして。私が勝ちました。今思えばその頃から、彼女の態度が冷たくなっていった気がします」
ちびっこ相撲大会の件は、以前にも聞いたことがある。
ミティが優勝したんだったな。
その決勝戦の相手が、さっきのカトレアだったというわけか。
「私が売られたのは、家計が苦しくなったからですが、その裏では彼女が暗躍していたという噂もあります。証拠はありませんが」
マジか。
ちびっこ相撲大会で負けたぐらいで、そこまでするかね。
ミティを売った両親は、経済的困窮に負けて仕方なくという感じだった。
ミティからすれば育ててくれた恩もあるし、できれば両親とは仲直りしたいところだろう。
しかし、カトレアとの仲直りは無理だ。
村長の娘という立場を利用して、ミティたちを経済的に追い詰めるという非道ぶり。
簡単に心を許せるものではない。
カトレア本人にも、反省や後悔の念はないようだったしな。
ダディやマティの準備ができ次第、早々にこの村を後にしよう。
●●●
タカシたちが足早にカトレアから離れた後。
「(気に入らないわね。やっと私の視界から消えてくれたと思ったのに!)」
カトレアはイライラしていた。
彼女より腕力で勝るミティに嫉妬し、裏で手を引いてミティの家を経済的に困窮させた。
それが実り、ミティが奴隷として売られたときは、安堵したものだ。
実際には、器用さなどカトレアのほうが優れている点も多かったのだが。
彼女は視野狭窄に陥っていた。
それは、彼女の精神的未熟さによるものか。
あるいは……。
彼女の目には、黒いモヤがかかっていた。
●●●
ガロル村の宿屋に着いた。
アイリス、モニカ、ニムと合流する。
ミティの実家での出来事と今後の方針を簡単に説明する。
「奴隷解放? いいことだね。聖ミリアリア統一教は、奴隷制度に否定的だし」
アイリスがそう言う。
聖ミリアリア統一教は、奴隷制度に否定的だったのか。
アイリスに、今までそんなそぶりはなかったが。
奴隷制度に対する考え方は他人に強要するようなものではない、ということだろうか。
俺はあまり宗教に対して良いイメージがないが、聖ミリアリア統一教はなかなか立派な宗教のように思えてきた。
モニカやニムも、今後の方針について特に異論などはないようだ。
「ミティのご両親の準備ができるまで、早くとも数日はかかるらしい。みんな、その間はどうする?」
「私は両親の手伝いをしようと思います。両親は鍛冶師です。今の私なら、手伝えることもあるでしょう」
ミティがそう言う。
彼女の鍛冶術のスキルはレベル3。
中級だ。
十分に戦力になれるだろう。
「そうだな。鍛冶をできるようになったミティを見てもらおう。きっと驚くぞ!」
「ええ。少し楽しみです」
「そうだ。ミティの鍛冶術を強化しておくか? 今なら強化できるぞ」
正確には、前回ハガ王国で鍛冶術を取得・強化した時点で、鍛冶術をレベル4にすることはできた。
しかし、スキルポイントを使い切ってしまい余裕がなくなってしまうので、保留としていたのだ。
鍛冶をできる環境の確保の問題もあったしな。
今であれば、スキルポイントにも余裕ができた。
また、ハガ王国だけでなくここガロル村でも、ミティが鍛冶をできる環境がある。
鍛冶術をレベル4に強化してもいいタイミングだろう。
「そうですね。ぜひお願いします!」
「わかった。強化するね」
ミティの意向も確認できた。
ステータス操作により、ミティの鍛冶術を強化する。
これで彼女の鍛冶術のスキルはレベル4。
上級だ。
「さて。他のみんなはどうする?」
「ボクは、周辺の魔物狩りか、ケガ人の治療とかをしたいかな」
「私は、せっかくだし料理屋めぐりをしたいな。ドワーフ料理を味わいたい」
「わ、わたしは特には……」
アイリス、モニカ、ニムがそう言う。
「そうか。基本的には自由行動にするか? とはいえ、ミティ以外は慣れない土地だし、できるだけいっしょに行動したほうがいいかな」
特に治安が悪い村ではないようだが、カトレアの件もある。
また、対魔物という点でも、街よりは少し危険だろう。
「じゃあ、ボク、モニカ、ニムでいっしょに行動しようか。どう?」
「私はそれでいいよ。魔物狩り、ケガ人の治療、料理屋めぐりだね」
「わ、わたしもそれでいいですよ」
アイリスの提案に、モニカとニムが同意する。
「タカシはどうする? ボクたちといっしょにくる?」
「うーん。そうだなあ」
ミティがチラチラとこちらを見ている。
「よし。俺は、ミティに付いていこうかな。鍛冶はできないが、雑用ぐらいなら手伝えるしな」
「あ、ありがとうございます!」
ミティがうれしそうな顔をしている。
アイリスたちは少し残念そうだが、ここは我慢してもらおう。
ミティの故郷を訪ねている間は、ミティを最優先にしてあげたいのだ。
まあもともと彼女が最優先ではあるが。
今日はもう夕方だ。
宿屋でゆっくりと疲れを癒やし、明日以降の活動に備えよう。
レベル15、ミティ=バーへイル
種族:ドワーフ
役割:サブリーダー、鍛冶師
職業:槌士
ランク:D
HP:111(85+26)
MP: 64(49+15)
腕力:281(85+26+170)
脚力: 53(41+12)
体力:103(57+17+29)
器用: 51(22+7+22)
魔力: 62(48+14)
武器:ドワーフの戦槌
防具:アイアンアーマー
その他:アイテムバッグ
残りスキルポイント20
スキル:
槌術レベル4
格闘術レベル1
投擲術レベル3
体力強化レベル1
腕力強化レベル4
器用強化レベル2
闘気術レベル3 「開放、感知、集中」
風魔法レベル2 「エアバースト、エアリアルスラッシュ」
MP回復速度強化レベル1
鍛冶術レベル4
称号:
タカシの加護を受けし者
ジャイアントゴーレム討伐者
百人力
ガルハード杯優勝者
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