135話 赤き大牙との再会
家をもらい、ゴーストを浄化してから数日が経過した。
冒険者活動の傍ら、みんなで掃除や整備を進めてきた。
その結果、問題なく人が住める環境になった。
宿屋を引き払い、今はこちらの家で生活している。
ミティ、アイリスもいっしょだ。
モニカとニムは、今はまだ実家暮らしだ。
しかし、同じパーティで活動するには同じ家で生活したほうが便利なことも多い。
近々、こちらへの引っ越しを検討してもらっている。
ダリウスとマムの再婚も現実味を帯びてきているので、ちょうどいいだろう。
俺たちミリオンズは、今日も北の草原でファイティングドッグ狩りを行なっているところである。
数匹を討伐して少し休憩しているときに、他の人が近くを通りがかった。
「……ん? あれは……」
見覚えのある面々だ。
向こうもこちらに気づいたようだ。
こちらに向かってくる。
「おう。タカシじゃねェか」
「ふふん。久しぶりね」
「…………然り」
「お久しぶりです。ドレッドさん、ジークさん。それにユナ」
赤き大牙の3人だ。
かつてこの街から西の森への遠征で、同行した。
その後ゾルフ砦で再会し、防衛戦でともに戦った。
リーダーのドレッドはCランクで、確かな実力がある。
「ふふん。タカシたちもこの街に戻っていたのね。心配していたのよ」
「俺たちは1か月ほど前に戻ってきていたよ。ユナたちは?」
俺たちがここラーグの街に戻ってきたのは、7月下旬。
今日は8月30日だ。
「私たちは、数日前ね。少し寄り道をしていたから」
「寄り道?」
「おう。帰りの道中の村で、リトルベアの討伐を依頼されてよ。他のパーティと協力して、一稼ぎしたぜ」
俺たちも、同じく道中の村でリトルベアの討伐を依頼されたことがある。
入れ違いになったのか。
もしくは、似たような依頼を近隣の村でも出していたのかもしれない。
「ふふん。タカシとのホワイトタイガー戦や、防衛戦でも稼げたしね。ここらで一度、故郷に帰るつもりなのよ」
故郷か。
彼らは、ラーグの街の出身ではないようだ。
冒険者として出稼ぎに来ていたといったところか。
「故郷ですか。ここから遠いのですか?」
「おう。ここから北へ2週間ぐらい行ったところにある。ウォルフ村だ。結構遠いぜ」
ここから東へ1週間ぐらい行けば、ゾルフ砦だ。
彼らの故郷は、ラーグの街からゾルフ砦までよりも遠い。
気軽には行けない。
彼らの故郷はウォルフ村という名前らしい。
ガロル村ではなかった。
タイミング的にもしかしたらと思ったが。
そううまくはいかないか。
「そうですか。寂しくなりますね」
ユナの忠義度は20半ば。
結構高い。
あわよくば加護付与を狙っていたのだが。
残念ながら諦めざるを得ないか。
「ふふん。村の用事を済ませれば、また戻ってこれるかもしれないわ。その時は、またパーティに入れてあげてもいいわ!」
「おう。お前なら、いつでも歓迎するぜ」
「…………然り」
ユナ、ドレッド、ジークからのパーティ勧誘だ。
俺を評価してくれているということか。
素直にうれしいが……。
「ありがとうございます。しかし、もうパーティを組んでいるのです」
数日前にミリオンズとして活動を始めたばかりだ。
「あら、そうなの? 確かに知らない顔が3人増えているわね。いや、この2人は見覚えがあるような……」
ユナが記憶を思い出そうとする素振りをする。
彼女は、ミティのことは知っている。
俺とミティでしばらく冒険者活動をしていたからな。
一方で、ニムのことは知らない。
モニカとアイリスのことは見覚えがあるようだが、うろ覚えのようだ。
まあモニカとは、一度食事をいっしょにしただけだしな。
アイリスのことはどこで見たのだろう。
おそらく、ガルハード杯で彼女の試合を観戦していたのではなかろうか。
「彼女はモニカだ。ラビット亭で食事会をしただろう? あのときに料理をつくってくれた人だ。いっしょに食べたりもしたぞ」
「ああ、あの時の。料理人は辞めて冒険者になったんだ?」
ユナはモニカを思い出したようだ。
「父が料理人として復帰したからね。あと、私もいろいろな街の料理を食べてみたかったし」
モニカがそう言う。
彼女の父のダリウスは、難病により伏せっていた。
俺の治療魔法レベル4により、無事にほぼ完治した。
「ふふん。なるほどね。それで、そっちの小さい子は?」
ユナがニムを見てそう言う。
「ニムだ。土魔法の才能があってな。俺たちのパーティに加わってもらった」
「ニ、ニムです。初めまして」
ニムがユナに挨拶をする。
「こちらこそ初めまして。その年で魔法を使えるなんてね。やるじゃない。タカシ、将来性のある子をうまく見つけたわね」
「おう。俺たちのパーティに欲しいくらいだぜ」
「…………然り」
ユナ、ドレッド、ジークがそう言う。
やはり、小さい頃から魔法を使えるのは、将来有望とみなされるようだ。
まあユナ自身も初級の火魔法は使えるが。
「ニムはあげませんよ。……そして最後に、彼女がアイリス」
「ボクがアイリスだよ。よろしくー」
アイリスが気安い感じで挨拶をする。
「ええ、こちらこそ。私はユナよ。……アイリス? どこかで聞いたような名前ね」
ユナが思い出そうとする素振りをする。
「アイリスはガルハード杯の出場者だ。余興試合では俺と闘ったぞ。防衛戦にも参加していたし」
ガルハード杯の余興試合は厳しい闘いだった。
アイリスの聖闘気”迅雷の型”のスピードを前に、一方的にタコ殴りにされた。
最終的には彼女の闘気切れにより、何とか俺が勝てたが。
今、俺とアイリスが再戦したらどうなるのだろうか。
あの時と比べると、俺は視力強化を取得している。
超スピードにもある程度対応できるようになった。
今の俺と当時のアイリスなら、今の俺が順当勝ちするだろうな。
一方で、アイリスもステータス操作の恩恵により大幅に強化されている。
彼女の弱点である体力を強化してカバー。
さらに、格闘術、闘気術、聖闘気術をそれぞれ強化している。
今の俺と今のアイリスなら、アイリスのほうが圧倒的に強いだろう。
もちろん、これは武闘に限定すればの話ではある。
魔法や武器も込みであれば、そう簡単に負けるつもりはない。
チートの恩恵を最も大きく受けている俺が、そうそう負けていられない。
まあ、同じパーティで活動する以上、勝ち負けを争う必要もないが。
「ガルハード杯で……? ああ、思い出したわ!」
「おう。あの、とんでもねェ速さの嬢ちゃんだな。タカシのパーティに入ったんだな」
「そうですね。縁がありまして」
ガルハード杯や防衛戦でアイリスの忠義度が基準に達して、加護を付与できるようになったのだ。
「ふふん。なかなかのメンバーが揃っているじゃない。確かに、私たちのパーティに加入している場合じゃないわね」
「おう。村での用事が済んだら、ユナをタカシのパーティに入れてもらうのもいいかもしれねェな。場合によっては、俺とジークはこの街にしばらく戻れねェかもしれねェからな」
「そうね。考えておこうかしら」
村での用事とやらが何かは知らないが、なかなか複雑な事情がありそうだ。
「わかりました。その時は、ぜひこちらこそよろしくお願いします」
ユナはDランクの弓士だ。
サブとして、短剣と初級火魔法も使える。
遠距離攻撃は、今の俺たちに欠けている要素の1つである。
弓士である彼女に加わってもらえれば、かなり心強い。
冒険者としても先輩なので、知識や経験面でも頼りになるだろう。
今の俺たちの冒険者に関する知識や経験は、正直心もとない。
順位付けるなら、”俺<ニム≦モニカ≦ミティ<アイリス”といったところか。
まず、俺は異世界人なので、そもそもこの世界の常識すら怪しいことがある。
ニムはラーグの街からほとんど出たことがない上、まだ10歳と少しなので知識や経験の絶対量が少ない。
モニカも同じくラーグの街からほとんど出たことがない。
ミティはドワーフの集落なので、ニムやモニカとは知識や経験の範囲が少し異なる。
アイリスは中央大陸からはるばるここまでやってきただけあって、見識が広い。
とはいえ、冒険者としてはさほど力を入れて活動していない。
一人前の冒険者としての知識や経験があるとは言い難い。
改めて考えてみても、ユナがパーティに加わってくれるのであれば心強い。
しかし、彼女は近いうちに故郷の村に帰る。
そこでの用事が終わり、その時のドレッドやジークの動向次第では、こちらのパーティへの加入を検討するというレベルだ。
まだまだ先の話になりそうだ。
今からあれこれ考えても仕方ないだろう。
「……そうだ! 最後に、またいっしょに食事をしませんか? 数日前に、家を手に入れたのです。中古物件ではありますが」
「ふふん。家? それほどのお金をためこんでいたとはね。やるじゃない。でも、やることがあるし、難しいかもしれないわね」
「おう。いいじゃねェか。行ってこい。用事は俺とジークで済ませておいてやるよ」
「…………然り」
「そう? じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
赤き大牙は、この街でまだするべき用事があり、忙しいようだ。
ドレッドとジークの協力により、何とかユナだけなら時間がとれそうだ。
うちのみんな、それに赤き大牙との相談の結果、1週間後の夕方に食事会を開くことになった。
モニカは、こころよく料理役を引き受けてくれた。
俺たちももちろん手伝う。
ユナとのお別れの食事会、良いものにしたいところだ。
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