119話 ニムの畑の復旧作業

 数日が経過した。

ラビット亭の営業は順調だ。

マヨネーズが好評を博している。


 一方で、実はニムの畑にも被害が出ているという話を少し前に聞いた。


 ニムは、自分の畑にも被害が出て苦しい状況なのに、モニカの店の片付けなどを手伝っていたというわけだ。

ええ子や。


 ラビット亭の営業が無事に再開されたことだし、今度はニムの畑の復旧を手伝うことになった。

ミティ、アイリスもいっしょだ。


 モニカもニムを手伝おうとしていたが、彼女はラビット亭を切り盛りしなくてはならない。

彼女の手伝いの申し出は、ニムによって丁重に断られた。


 ニムに案内され、外壁の外にある彼女の畑に向かう。

外壁の外には、各人の畑が点在している。


 このあたりには本来ならファイティングドッグがたまにいるぐらいだから、外壁の外とはいえ危険は少ないし、畑を荒れされるリスクも低い。

少し前の魔物の襲撃事件は、まれにある例外と言えよう。

各人の畑には、ファイティングドッグなどが入ってこないように簡易的な柵が設けられている。


「こ、ここが私の畑です」


 ニムの畑に着く。

彼女の畑も他の畑と同じく、簡易的な柵によって囲われている。

しかし、彼女の畑の柵は壊れてしまっているようだ。

応急処置レベルの修繕は施されているが、これでは再び壊れるのも時間の問題だろう。


「柵が壊れているね」


「そ、そうなんです。魔物に壊されてしまったみたいです。がんばって直してはみたんですが」


 とりあえず、柵の扉を開いて柵の中に入る。

扉の建て付けも悪くなっているようで、少し開けにくかった。


 柵の中には、畑が広がっている。

畑の隅には、木が数本ある。

リンゴの木だ。

どうやら、彼女が売っているリンゴはあの木でとれたものであったようだ。


「うーん。畑も荒れているみたいだね」


 俺は農業についてはほぼ素人だ。

だが、素人目でもわかる。

単純に踏み荒らされたり、作物を食い荒らされたりした感じだろう。

畑が荒れていた。


「こ、この前の魔物の襲撃で荒らされてしまいました。全滅ではなかったのは幸いでしたが」


 ニムがそう言う。

確かに、食い残しなのか、一部の作物は無事だったようだ。


「うん。現状はわかったよ。みんなで力を合わせて整えていこう」


「ほ、本当にいいのですか?」


「問題ない。モニカさんの店を手伝ってくれたお礼だよ」


 自分が大変なときに、それでも他人の手伝いをする。

それがニムだ。

ええ子や。

そんな彼女には、報われてほしい。


「俺たちは力には自信があるんだ。なあ?」


「そうですね。力仕事なら任せてください。むんっ」


 ミティが張り切っている。


「ニムも知っていると思うが、ミティは力が飛び抜けている。アイリスもかなりの力がある。少なくとも、普通の男よりははるかにな」


「人をゴリラみたいに言わないでよ。まあ、ボクも力はそれなりだとは思うけど」


 アイリスがほほをふくらませつつ、そう言う。


「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」


 ニムがそう言って、頭を下げる。


「やることは……。柵の修復、畑を耕して整える。この2つでいいのかな?」


 俺は農業はほぼ素人だから、よくわからん。


「そ、そうですね。その2つをしていただけると助かります」


「わかった。他にやってほしいことがあれば、遠慮なく言ってくれ」


「は、はい」


「じゃあ、俺は柵の修復をしようかな。ミティとアイリスは畑を耕して整えてくれるか?」


「わかりました!」


「オッケー!」


 さっそく作業に取り掛かる。


 俺は柵の修繕だ。

柵の修繕に役立つスキルなどは持っていない。

純粋に自分自身の知識や経験で、修繕していく。

とはいえ、基礎ステータスが高い分、力や器用さは十分にある。

日本にいたときと比べても、少し高いレベルで修繕作業を進められそうだ。


 土魔法を習得していれば、もっと効率的に頑丈な柵を作れたかもしれない。

柵というよりは、塀と堀みたいになるだろうが。

しかし残念ながら、俺は土魔法を取得していない。


 俺の残りスキルポイントは20ある。

スキルポイントを使用して土魔法を取得・強化するのもなくはない。

どうしようかな。


 ……うーん。

今回はやめておこう。

土魔法なしでも何とかはなるだろうし。

それに、モニカの父ダリウスの容態も気になる。

治療魔法をレベル4にすることも視野に入れる必要がある。

いざというときに備えて、スキルポイントは温存しておきたい。


 そんなことを考えつつ、柵の修繕作業を進めていく。


「きゃああっ」


 ミティの悲鳴だ。

何があった!?

まさかファイティングドッグか何かの襲撃か?


「どうしたっ!?」


 ミティのほうへ急いで駆け寄る。


「ミ、ミミズがっ」


 ミティが尻もちをついている。

ミミズかい。

ミティは虫が苦手なのか。

いや、正確にはミミズは虫ではないが。

まあそこはどうでもいい。


「へえ。ミティはミミズが苦手なんだ?」


 俺はそう言う。


「そうですね……。どうも、うねうねした感じが苦手でして……」


 ミティがそう言って、少し嫌な顔をする。


「ふーん。まあボクもあまり好きではないけどね」


 アイリスは、好きではないが悲鳴を上げるほど苦手でもないということか。


「ミ、ミミズは土を良くしてくれます。私たちの良き相棒です」


 ニムがそう言う。

確かに、そんな話を聞いたことがあるようなないような。

彼女は普段から畑仕事をしているだけあって、そういう知識もあるのだろう。


「へえ。そうなんだ」


 アイリスがそう言って、ミミズをつまみ上げる。

彼女はミミズをしげしげと眺める。


「ふーん。そう言われると、嫌悪感もなくなってきたかも。ミティもほら」


 アイリスがミミズをミティに近づけようとする。


「ひぃっ。こっちに近づけないでください! アイリスさん」


 ミティが勢いよく後ずさる。


 こんな感じのやり取りはあったものの、その後の作業は順調に進んでいった。



「ふう。これで今日はひと段落かな」


 俺はそう言う。


 柵の修繕や畑の整備は進んだ。

ひと段落だ。

しかし、まだ全部は終えていない。


「また明日も来ましょう」


「そうだね。ボクもがんばるよ」


 ミティとアイリスがそう言う。


「い、いいのですか?」


「問題ないよ。ラビット亭の方も順調みたいだしな」


 ラビット亭はマヨネーズ料理が評判となっている。

大ヒットというほどではないが、着実に客足が戻ってきている。

口コミが広がれば、さらに客足が伸びる可能性もある。


 懸念点があるとすれば、ダリウスの病状が急変したりしないかという点だ。

その点を除けば、差し当たって俺たちがラビット亭に関して取り組むべきことはない。

ニムの手伝いをする時間は十分にある。


「あ、ありがとうございます」


 ニムがそう言って頭を下げる。


「そ、そうだ。ちょっと待っていてください」


 彼女が走り去っていく。

畑の隅にあるリンゴの木で、リンゴを数個とった。

こちらに戻ってくる。


「こ、これ、せめてものお礼です。受け取ってもらえますか?」


 彼女はそう言ってリンゴを差し出してくる。

せっかくの好意だ。


「うん。ありがたくいただくことにするよ」


「ありがとう。ニムちゃん」


「サンキュー」


 俺、ミティ、アイリス。

3人でニムにお礼を言い、リンゴを受け取る。

また明日以降もがんばっていこう。

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