113話 ラーグの街へ帰還、冒険者ギルドに依頼達成の報告

 リトルベアを討伐した村を出発してから、数日が経過した。

とうとうラーグの街の外壁が見えてきた。


「この街も久しぶりだな。何か月ぶりだろう?」


「ここを出発したのは、5月の初め頃だったと思います。今日は7月22日ですので……」


「もう3か月ぶり近くになるのか。結構経ったな」


 メルビン道場に入門して、ガルハード杯に出場して、防衛戦に参加して、潜入作戦に参加して。

さらに、戦後にハガ王国でゆっくりしていたしな。


「ボクはラーグの街は初めてだよ。見知らぬ街を訪れるのはワクワクする」


 アイリスがそう言う。


 俺も、見知らぬ街を訪れるのは結構好きだ。

もちろん、俺にとってはラーグの街は初めてではないが。

今後、冒険者としていろいろな街を訪れる機会も多いだろう。

楽しみにしておこう。


 ラーグの街に近づいていく。

……ん?

何やら様子がおかしい。


 外壁の外にある畑が、荒れている。


 道行く人に尋ねてみる。


「こんにちは。畑が荒れているようですが、何かあったのですか?」


「ん? ああ、他の街から来た冒険者か」


 男がこちらに視線を向け、そう言う。


「ええ。この街に来るのは3か月ぶりです」


「そうか。……魔物の群れが街に押し寄せて来たんだよ。魔物避けの柵が突破されて畑に被害が出た。それに、街の中に入り込んだ魔物もいた。冒険者が手薄で、少し大変だったんだぜ」


 俺が不在の間にそんなことが。

ガルハード杯の影響で冒険者がゾルフ砦を訪れていた分、ラーグの街の冒険者が一時的に少なくなっていたのだろうか。

アドルフの兄貴、レオさん、赤き大牙、蒼穹の担い手あたりも不在だったしな。


 畑の周りにはもともとは魔物避けの柵があった。

ファイティングドッグぐらいの魔物であれば、十分に侵入を防止できる柵だ。

それが壊されて、魔物が畑に侵入してしまったということか。


 その上、街に入り込んだ魔物もいたと。


「だいじょうぶだったのですか?」


「幸い、死者は発生しなかった。だが、柵を突破された畑は被害が大きい。街の中では、ケガ人や家屋の被害も出たんだぜ」


「なるほど」


 死者が出なかったのは不幸中の幸いだろう。

一安心ではある。

だが、ケガ人は出てしまったとのことだ。

モニカやニムの安否が気になる。


 情報提供をしてくれた人と別れる。

隊商と街に入る。

これで無事に護衛依頼が完了した。

依頼主や他のパーティと別れる。



 さっそく冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルドの中に入り、受付嬢に話しかける。


「こんにちは。護衛依頼の達成報告をしたいのですが」


「承知しました。……おや、タカシさんじゃないですか。お久しぶりです」


「お久しぶりです。ネリーさん」


 彼女は冒険者ギルドの受付嬢のネリーだ。

冒険者ギルドに登録した初日からこの街を出立するまで、何度も顔を合わせていた。


「タカシさんたちは、ゾルフ砦に行かれていたのですよね。あの街では、大規模な戦闘があったそうじゃないですか。私は詳しくは知りませんが。心配したのですよ」


 彼女は俺たちのことを気にかけてくれていたようだ。

だが、冒険者ギルドの職員である彼女にも、詳細な情報は伝わっていないようだ。

やはり、オーガやハーピィが有効な種族であるとの認識が広まるには、ある程度の時間がかかりそうだ。


「そうですね。オーガやハーピィという種族が、攻め込んできたのです。幸い、双方に大きな被害が出ないまま和解することができましたが」


 この件について、サザリアナ王国がどういった情報の広め方をするのか。

王国には王国の考え方があるだろう。

俺があまり無責任に詳細を広めるのもな。

最低限、オーガやハーピィが敵対的な種族ではないとのことだけは伝えておこうか。


「そうだったのですか」


「彼らとは、うまく友好関係を結べそうでした。遠くないうちに、王国から正式な発表があるかもしれません」


「なるほど。わかりました」


 ネリーがそう言ってうなずく。


「では、護衛依頼達成の処理をお願いします」


 彼女に俺たちのギルドカードを渡し、処理を依頼する。


「タカシさん、ミティさん。それに……アイリスさんですか。3人でパーティを組まれるようになったのですね」


 ネリーは、俺やミティとはもちろん面識がある。

一方で、アイリスとは初対面だ。


「はい。良き仲間を得ることができました」


「それは良かったです。……冒険者ランクC!? タカシさん、この短期間でCランクになられたのですか!?」


 ネリーが驚いている。


「はい。オーガやハーピィとの戦闘で、運良く活躍の機会に恵まれまして」


「登録して3か月ちょっとでCランクは、相当すごいですよ! 私が担当している方では初めてです!」


 ネリーが興奮した様子でそうまくしたてる。

アドルフの兄貴やレオさんからも、俺のランクアップは速いと褒められたことがある。


「ゾルフ砦には強力な武闘家がたくさんいました。俺は少しお手伝いをしただけです」


 うーん。

加護付与の条件を満たすには、忠義度を稼ぐ必要がある。

そのために、もっと自分の功績を誇ってもいいのかもしれないが。

なかなか難しい。

目立つのは少し苦手なんだ。


「ああ、あの街は武闘で有名ですもんね。でも、それにしても」


「彼女たちの活躍も大きかったですよ。なあ、ミティ、アイリス」


「私もタカシ様を精一杯お手伝いしました!」


「ボクもがんばったよ。でも、正直タカシの活躍にはかなわないかな」


 ミティとアイリスがそう言う。


「お三方とも、ご活躍されたのですね。ミティさんも、冒険者ランクDになられてますね。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 ネリーの祝福の言葉に、ミティがお礼を言う。


「そして、新しいメンバーのアイリスさん。もともと冒険者として活動されているのですね。……おや? 備考欄に武闘神官見習いとありますが。これは?」


 ネリーが首をかしげる。

彼女は武闘神官という言葉に聞き覚えがないようだ。


「えーと。聖ミリアリア統一教は知ってる?」


 ネリーの質問に対し、アイリスが質問で返す。


 現代日本では、”質問に質問で返すな”という考えが一部で広まっていた。

俺は、その考えは必ずしも正しくないと思う。


 討論会や会議などの場面で”質問に質問で返す”と、話が進まない恐れがある。

そのような場面では、”質問に質問で返すな”という考えは一定程度の合理性があるといえよう。


 一方で、日常の業務や雑談レベルでは、”質問に質問で返す”のもありだ。

今回の件で言えば、アイリスからネリーへ武闘神官見習いの説明をするにあたって、そもそも聖ミリアリア統一教をネリーが知っているのかの確認を行っている。

聖ミリアリア統一教を知らないのであれば、まずはその説明から。

聖ミリアリア統一教を知っているのであれば、多少の説明を省くことができるというわけだ。


「聖ミリアリア統一教……? 聞いたことはあります。たしか、中央大陸で有名な宗教でしたか」


 ネリーがそう回答する。

やはり、ここ新大陸においては、聖ミリアリア統一教はさほどの知名度はないようだ。

かろうじて名前が知られているぐらいだ。


「武闘神官は、聖ミリアリア統一教の名の下で、各地を旅して困っている人を助ける役目を持っているんだ。ボクはその見習いってわけ」


「なるほど。すばらしいご活動ですね。今後のご活躍を祈っていますね」


 ネリーがそう言う。

会話をしつつも、手はきちんと動かしてくれている。

無事に護衛依頼達成の処理が終わる。


「はい。これで処理完了です。こちらが報酬金となります」


「ありがとうございます」


 ネリーから報酬金とギルドカードを受け取る。

護衛依頼の報酬と魔物の素材の買取金額を合わせて、3人で金貨20枚以上。

ガルハード杯の賭けの払い戻しなどで得た金と比べると、さほどの金額ではない。

しかしそれでも、それなりの大金であることに違いはない。


 俺たちはホクホク顔で、冒険者ギルドを後にする。

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