100話 百人力のミティ

 オーガ、ハーピィの国。

王の間。


 国王夫妻と今代の六武衆が謁見していた。

国王夫妻とは、もちろんバルダインとナスタシアのことである。

今代の六武衆は、クレア、ソルダート、ギュスターヴ、セリナ、ディーク、フェイだ。


 六武衆のリーダー格であるクレアが、緊張した面持ちで口を開く。


『陛下。ご相談したいことがございます』


『申してみよ。……察しはつくがな』


『は。……我に六武衆の責務は重いと感じています。クラッツたちに六武衆の地位を返上したく思います』


『『自分たちも同じ思いでございます』』


 クレアの言葉に、他の者も同意する。


『ふむ。……貴様らはどう思う? 先代の六武衆よ』


 この場には、先代の六武衆もいた。

クラッツ、タニア、ラトラ、セルマ、ディアナ、フィンだ。


『恐れながら申し上げます。彼女たちの戦闘力は、既に我らに並んでおります。代替わりには良き機会かと愚考致します』


 先代の六武衆のリーダー格であり、クレアの父親でもあるクラッツがそう言う。

他の者もうなづいている。


『双方の言い分、理解した。そう言うだろうと思っていたぞ』


 バルダインがそう言う。


『今代の六武衆の地位は据え置きとする! 重責を果たせるよう、精進するように!』


『『……! はっ! 承知致しました!』』


 王の言葉であれば、否も応もない。

クレアたちはそれに従うのみ。


『先代たちは、新たに”六天衆”と名乗るがよい! 六武衆の指導を頼んだぞ!』


『『……! ははーっ! 仰せの通りに!』』


 バルダインの言葉に、クラッツたちがひれ伏す。


 六天衆と六武衆。

この2グループが力を合わせ、この国の平和を守っていくことになる。



●●●



 オーガやハーピィたちとの戦いが終わってから、1週間以上が経過した。

俺、ミティ、アイリスは、相変わらずオーガ、ハーピィの国に滞在している。

タダ飯食らいも悪いので、仕事をもらって働いている。

近隣の魔物の討伐や、力仕事、ケガ人の治療などだ。


 特にミティは、力仕事で大活躍している。

今日も俺とミティで力仕事だ。

ちなみにアイリスは治療で街中を回っており、別行動である。


「この木材をあそこまで運べばいいのですか?」


『そうだが……。嬢ちゃんに力仕事は難しいだろう。手伝ってくれるのは助かるが、別の作業のほうがいいんじゃないか?』


 オーガの男性がそう言う。

まあ、ミティの外見からは力があるようには見えないよな。


「問題ありません。ふんっ」


 ミティが丸太数本をまとめて持ち上げる。


『なっ! 嘘だろ!?』


 オーガの男性が、目を見開いて驚いている。


『はっはっは! 嬢ちゃんの力に驚いたか!』


「これはこれは。ギュスターヴ様」


 別のオーガの男性が笑いながら歩いてきた。

確か、六武衆の鉄塊のギュスターヴだ。

ガタイがいい。

戦後にウッディやストラスから聞いた話では、鉄球を用いた攻撃を得意としていたらしい。

かなりの力を持つそうだ。


『その嬢ちゃんは、ナスタシア様との力勝負でいい線いったらしい。さすがに勝てはしなかったようだが』


 ナスタシアは、ミティのカイリキメリケンを防ぎ、逆に押し返したことがある。

かなりのパワーだった。


『なんと! それほどの力が』


 オーガの男性がミティを改めて見て、感心している。

ふと、ギュスターヴが何かをひらめいたような顔をする。


『……ふむ。いいことを思いついた。其れがしと力勝負をせぬか?』


「構いませんが……。作業をしなくてもいいのですか?」


『なに、力勝負といっても、取っ組み合いをしようってわけではない』


 ギュスターヴが丸太を指差す。


『その丸太を、時間内に何本運べるかの勝負だ。どうだ?』


「……それぐらいならば問題ないでしょう。時間制限は?」


『日が暮れるか、丸太がなくなるまでだ! いざ尋常に勝負!」


 ミティとギュスターヴの丸太運び勝負が始まった。


「どけどけ! 邪魔だあ!」


 ギュスターヴが丸太を何本も持ちながら、作業員たちをかき分けて走る。


「私も負けません! うおおお!」


 ミティも負けじと丸太を何本も持ちながら走っている。

2人ともかなりの怪力だ。


『す、すげえ。ギュスターヴ様もそうだが、あの娘もかなりの力だな』


『あの娘はミティという名前らしい。ナスタシア様との力勝負でも互角だったとか』


 厳密には、互角ではなかったけどな。

いい線いっただけだ。

ちょっと話に尾ひれがついてきたな。


『ナスタシア様と互角だと!? マジか!』


『彼女がいれば作業も捗るな。百人力だ!』


『百人力のミティだ!』


 作業員たちの間で、ミティの評価が上がっていく。

俺も鼻が高い。


『あの小さな体で大きな丸太を力強く運ぶ姿。美しい』


 近くを通りがかったハーピィの男性が、そうこぼす。


『ディーク様!? 彼女はまだ子どもですよ!?』


 彼の付き人がそう言う。


 ミティを美しいと評したのは、六武衆のディークだ。

確か二つ名は”鑑定”だったか。

六武衆の中でも上位の実力を持つとアドルフの兄貴が言っていた。


 ミティの美しさを理解するとは、なかなか見どころがある。

だが、ミティは俺の恋人だ。

やらんぞ。


『彼女はドワーフ族だ。見た目よりも年齢は重ねているだろう。問題ない』


 ディークがそう言う。

年齢はともかく、問題はある。

彼女は俺の恋人だよ。

ちょっとガツンと言っておこうかな。


『ディーク。彼女はやめておきなさい。彼女はタカシ殿の女らしいですよ』


 ハーピィの女性がやってきた。

確か”牽制”のフェイだったはずだ。


『そ、そうなのか……。バルダイン陛下の盟友の妻を狙うのは、さすがにまずいか……』


 ディークが少し沈んだ顔をしている。

うんうん。

申し訳ないが、諦めてくれ。


『落ち込む必要はありませんよ。もっとあなたを見てくれる人もいるはずです。わ、わたくしとか……』


 フェイが顔を赤くしながらそう言った。

最後のほうは声が小さくなって、少し聞き取りにくい。


『え? なんだって?』


 ディークがそう聞き返す。

鈍感系の主人公かよ。


『……もう! なんでもありませんわ!』


 フェイは顔を赤らめたままそう言う。


『鑑定なんて二つ名を持っているのに、肝心なことは見えてないんだから……』


 彼女はそう言いながら去っていった。


 ディーク君。

ミティは諦めて、フェイさんとくっつきなさい。


 おっと。

ラブコメに夢中になってしまった。

ミティとギュスターヴの勝負はどうなった?


「ぜえ、ぜえ。やるな、嬢ちゃん」


「そ、そちらこそ。想像以上です」


 ミティとギュスターヴが疲労困憊の状態で、地面に転がっている。

どうやら、今日の分の丸太を運び終えたようだ。


『す、すげえ! この二方がいれば、作業も捗るぜ!』


『ギュスターヴ様! ミティさん! 明日もぜひきてください!』


『ぜえ、ぜえ。……うむ。時間があけば必ず来よう』


「わ、私も……」


 ミティがこちらを見る。

うなずいてあげる。


「明日もここに来ます」


『ありがとうございます! よし、明日からは人員配置を見直す! 一気に作業を進めていくぞ!』


『うおおおお! ギュスターヴ様! ミティさん! 百人力だ!』


『鉄塊! 鉄塊!』


『百人力! 百人力!』


 なんか盛り上がっているな。

ミティの二つ名が”百人力”に決まったようだ。




レベル14、ミティ

種族:ドワーフ

職業:槌士

ランク:D

HP:103(79+24)

MP: 60(46+14)

腕力:261(79+24+158)

脚力: 49(38+11)

体力: 96(53+16+27)

器用: 46(20+6+20)

魔力: 57(44+13)


武器:アイアンハンマー

防具:レザーアーマー

その他:アイテムバッグ


残りスキルポイント40

スキル:

槌術レベル4

格闘術レベル1

投擲術レベル3

体力強化レベル1

腕力強化レベル4

器用強化レベル2

闘気術レベル3 「開放、感知、集中」

風魔法レベル2「エアバースト、エアリアルスラッシュ」

MP回復速度強化レベル1


称号:

タカシの加護を受けし者

ジャイアントゴーレム討伐者

百人力

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