第3章 武闘の鍛錬、武闘会への出場
52話 武闘神官アイリス登場
タカシが転移してきたこの世界。
この世界の大陸のうち、人族の活動圏で最も大きな大陸は、中央大陸と呼称されている。
それに対して、中央大陸の南西部にある開発途上の大陸は、新大陸と呼ばれている。
新大陸の中の一国家が、サザリアナ王国である。
サザリアナ王国の南部にラーグの街やゾルフ砦が位置している。
新大陸が中央大陸出身の冒険者によって発見されたのは、もう200年以上前のことになる。
その後、中央大陸の複数の有力国家により大規模な開拓団が派遣された。
開拓団と先住民の間で多少の諍いはあったものの、概ね友好的に協力体制を築けたのは僥倖だった。
開拓団と先住民の協力体制のもと、中央大陸に近い北東部から開拓が進められていった。
現在は新大陸の数割ほどが開拓され、中央大陸からの植民も進んでいる。
先住民もうまく融和し、人口を増やしていった。
しかし、ここ数十年は新規の開拓が停滞している。
開拓の行く手を阻むように、巨大な山脈が新大陸を横断していたのだ。
その山脈の先には危険で近寄るべきでないと、先住民たちは認識していた。
山脈の先の領域は”魔の領域”と呼ばれていた。
もちろん、山脈の向こうに行く手段が全くないわけではない。
訓練を積んだ一団であれば、多少の損耗を覚悟して渡ることはできる。
”大地の裂け目”と呼ばれる、比較的山脈が緩やかになっている箇所もある。
あるいは、海路によって迂回することも可能だ。
当初は、開拓団の上層部は事態を楽観視していた。
この巨大な山脈を越えるのは骨が折れそうだが、何度か越えてしまえばルートが確立し安全度も増すだろう、と。
山越えの先遣隊が組織され、派遣された。
しかし、著しく消耗して帰還した。
戻ってこなかった隊員もいた。
過酷な環境の中の山越えは体力の消耗が大きい。
さらに、魔物も生息している。
一定以上の知能がある人型の魔物の発見情報もあった。
開拓団の上層部は、これ以上の強引な山越えはリスクが大きいと判断し、新規開拓を保留とした。
ここまでに切り拓いてきた地域の発展と植民を盤石にすることを優先した。
そして、現在に至る。
歴史ある先住民たちの国家のほか、中央大陸からの移民たちによって開拓された土地にいくつかの新国家が樹立され、新大陸の各地を治めている。
新大陸の各国の主要都市は、既に中央大陸の都市と比べても遜色のないくらいに発展しつつある。
開拓済みの領域内に点在するダンジョンや広大な森林地帯などを除けば、目下の課題はやはり”魔の領域”の攻略であった。
●●●
タカシたちがゾルフ砦へ向かっている同時期。
別のルートからゾルフ砦へ向かっている一行がいた。
一行の規模は小さい。
馬車が数台。
御者や商人が数人。
護衛の冒険者が数人。
そして神官が2人いた。
神官の1人は中年の男だ。
神官ではあるが、引き締まった体をしている。
神官のもう1人は10代後半の少女だ。
短髪でボーイッシュな印象を受ける。
彼女もなかなか鍛えられた体をしている。
男の神官は、傍らに棒を携えていた。
戦闘時に使うための棒だ。
彼らは、聖ミリアリア統一教会の神官である。
中央大陸では多くの信者を集める聖ミリアリア統一教であったが、新大陸ではまだまだ布教が十分ではない。
彼らは布教のために中央大陸から新大陸に渡り、各地を巡っているのだ。
聖ミリアリア統一教会の神官が布教活動を行う場合、手法は大きく2つに分けられる。
1つは、街中に教会を設立し、市民に対して教えを説くという手法である。
この手法は、教会の設立費、神官や教会職員の人件費など、費用がかさむ。
国王や領主への事前の根回しなども必要だ。
長い準備期間が必要となる。
もう1つは、少人数の神官を各地に派遣し慈善活動を行う、という手法である。
慈善活動の内容は、派遣先の地域によって異なる。
比較的辺境の地域への派遣の場合は、魔物・動物・盗賊などの討伐・捕獲任務がメインになることが多い。
討伐・捕獲任務をメインとする戦闘力に秀でた神官は”武闘神官”と呼ばれ、中央大陸の一般市民の中でも支持を集めていた。
戦闘を得意とはするが彼らはあくまで神官であるため、殺傷力の高い刀剣は武器として扱うことを避けている。
武闘神官は、もっぱら自身の身体能力を活かした格闘術や、棒術などで戦うことが多かった。
今回、タカシたちとは異なるルートでゾルフ砦に向かっている武闘神官の2人も、格闘術や棒術で戦うタイプだ。
「ねえ、エドワード司祭。暇だね。ボク退屈で死にそうだよ」
ボーイッシュな少女の神官が、中年の司祭に対して愚痴を言った。
「アイリス君。周囲を警戒するのも仕事のうちですよ。我々は護衛として、この馬車に乗せていただいているのですから」
「そうだけどさー」
「……む。そう言っているうちに、魔物が現れたようですよ。まだ少し距離がありますが。気配を感じ取れますか?」
アイリスと呼ばれた少女が、目を閉じ集中する。
「うーん……。わかんない。…………」
「頑張って集中してみてください」
アイリスが眉間にしわを寄せつつ、魔物の気配を感じ取ろうと集中する。
「……あっ。2時の方角に3体ぐらいいるかな? 距離は200mぐらい。気配の大きさ的に、ワイルドキャットかシャドウウルフかな?」
「大体は正解です。3時の方角に4体います。距離は180m。ワイルドキャットの集団ですね。アイリス君の気配察知技術も、なかなか精度が上がってきましたね」
「へへーん」
アイリスがドヤ顔を披露する。
「調子に乗らないこと。成長はしていますが、まだまだ見習いレベルです。精進しなさい」
「はーい」
「このまま進むと遭遇するかもしれません。先回りして退治しておきましょう。いきますよ」
エドワード司祭と見習いのアイリスは、一行のリーダー的存在の商人に一声かけ、先へ進んだ。
「アイリス君。ワイルドキャットは倒せますね? 2体は私が倒しますので、残りの2体は倒してみなさい」
「了解!」
アイリスがワイルドキャットに接近し、攻撃を仕掛ける。
「裂空脚!」
鋭い回し蹴りがワイルドキャットを襲う。
彼女は、聖ミリアリア流の武闘術の使い手であった。
その後もそつなく立ち回り、見事にワイルドキャットを討伐した。
無益な殺傷を控える武闘神官とはいえ、魔物をみすみす逃がす意味もない。
「へへーん。猫なんてボクの敵じゃないよ。この調子なら、見習い卒業も近いでしょ!」
「すぐに調子に乗るのがあなたの悪いところです。気をつけなさい」
「わかってるよー」
「(やれやれ。彼女は才能がありますが、どうも天狗気味ですね。彼女以上に才能がある者がいれば、良い刺激になるのでしょうが……。ゾルフ砦の武闘大会に期待しましょう)」
「エドワード司祭、何か言った?」
「いえ、何も。武闘大会で好成績を収められるよう、がんばりましょうね。まずは本戦出場を目指してください」
彼らは武闘大会で上位に入賞し、聖ミリアリア統一教の威光を広めることを目的としていた。
「エドワード司祭は推薦枠で出られるんだよね。ずるーい」
「私は実績と、教会からの推薦状がありますから」
彼らはそんな会話をしつつ、隊商の一行のところに戻る。
再びゾルフ砦へ向かい始める。
彼らがタカシやミティと出会うのは、少しだけ後のことである。
レベル?、アイリス
種族:ヒューマン
HP:???
MP:???
腕力:???
脚力:???
体力:低め
器用:高め
魔力:???
スキル:???
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