32話 ゾルフ砦へ向けて下準備
午後になった。
今俺とミティは冒険者ギルドに向かっているところである。
午前中に行った考察により、東のゾルフ砦に向かうことを改めて決定した。
ラーグの街からゾルフ砦まではかなりの距離がある。
徒歩だと1週間はかかるらしい。
俺とミティの2人だけだと、そこにたどり着くことすら困難だろう。
食料の運搬は問題ない。
アイテムルームが使える。
魔物の襲撃が怖い。
東のほうには俺達がまだ見たことのない魔物もいるだろう。
夜警も厳しい。
2人だと1人あたりの負担が大きすぎる。
そこで、東へ向かう護衛依頼を探すことにした。
冒険者ギルドに向かっているのはそのためである。
護衛依頼を受ければ、2人での徒歩移動よりも様々なメリットがある。
1つ、馬車に乗れば移動速度が速くなる。
2つ、他に依頼を受けた冒険者がいれば魔物の襲撃や夜警の時の負担が軽くなる。
3つ、依頼料がもらえる。
4つ、実績を上げることにより冒険者としてのランクアップが近づく。
これだけのメリットがあるのだから護衛依頼を受けない手はない。
地味に4つ目のメリットも大きい。
俺は今までに、ドレッドやウェイクらに「実力はCランク相当」という評価を受けている。
それなのに俺はまだDランク。
その理由は実績不足だ。
特に護衛依頼などを一度も受けていないのが大きい。
依頼を受けて実績を上げれば冒険者としての信頼度が高まり、ランクアップが近づく。
ランクが上がれば、社会的地位も上がる。
社会的地位が上がれば、今後出会う人達の忠義度を稼いでいく上で便利なことも多いだろう。
護衛依頼を受けるデメリットは魔物討伐時の報酬が減ることぐらいか。
しかし先ほど揚げた4つのメリットに比べれば十分許容範囲だ。
冒険者ギルドに到着した。
中に入る。
受付嬢に話しかける。
「こんにちは。少し相談があるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「私は近いうちにゾルフ砦に行きたいと思っています。東の方に向かう商人の護衛依頼などはありませんか?」
「それでしたらちょうどいいのがありますよ。大規模な隊商の護衛依頼です。出発は3日後。ゾルフ砦を経由してオルフェスの街に向かいます」
3日後に、ゾルフ砦。
なかなか都合がいい依頼だ。
「途中で護衛を終えてゾルフ砦に留まることは可能でしょうか?」
「可能ですよ。大規模な隊商では、それぞれの人の目的地は異なるのが普通です。ただ、タカシ様とミティ様のランクですと、護衛料は少し安めになってしまいますね」
護衛料が安いのは別に構わない。
現状お金にはそれほど困っていない。
借金返済のためには稼がないとならないが、どうせすぐに返済できるような額ではない。
長い目で見れば、ゾルフ砦に行ってスキルポイントを得るほうが利益につながる。
「護衛料が安いのは気にしません。その依頼を受けようと思います」
「承知しました。ではそのように手続きをしておきますね。出発は3日後ですが、その前日に代表者や他の護衛者との顔合わせがあります。その日の夕方頃にここ冒険者ギルドに来て下さい」
「分かりました。では失礼します」
冒険者ギルドを後にする。
そういえば、ゾルフ砦に向かう前に借金の返済をいくらかしておくべきかもしれない。
借金をしてからそろそろ半月。
あと半月で利子が発生する。
ゾルフ砦での戦況次第では、再びラーグの街に帰ってくるまでに半月以上かかる可能性もある。
俺の借金の利率は1カ月あたり3%だ。
借金総額は金貨320枚。
毎月金貨9.6枚の利子が発生する。
そして今俺が持っている金貨は40枚。
仮に全てを返済にあてれば、残る借金は金貨280枚。
毎月の利子は金貨8.4枚まで減少する。
うーん。
こうして考えると、今返済しておくことにさほどのメリットはないな。
それよりも、現金をできるだけたくさん持って安心しておきたい。
今は1日あたり金貨10枚近い額を稼いでいるが、ゾルフ砦でも同じように稼げるとは限らないからな。
今回は借金返済を保留にする。
今日はこれからどうしようか?
もう昼を過ぎた。
西の森に行って狩りをするには時間が足りない。
それに、護衛依頼の前にケガをしたらマズイ。
昨日に続いて休日にするか?
いや、それもあまり良くない。
2日間完全に休みにしてしまうと、戦闘の勘がにぶる。
ミティと模擬試合をやってみるか。
普段は魔物の相手ばかりだからな。
たまには人と戦うことで、何か刺激になるかもしれない。
「ミティ、今日は俺と模擬試合をしてみないか?」
「えっ。私がタカシ様とですか? そんな、タカシ様を攻撃するなんてできません」
「そう言わずに。きっと良い練習になるよ」
ミティはあまり気が乗らないようだったが、最終的には模擬試合をしてくれることになった。
そうと決まれば、いくつか用意するものがある。
まずは武器だ。
ミティの今の武器は、模擬試合で使うには危険すぎる。
直撃したら死んでしまいそうだ。
もっと軽いものに変えないと。
武器屋に行き、店主に話しかける。
「すいません。軽めのハンマーが欲しいのですが」
「何に使うんだ?」
「私とこの娘とで模擬試合をしようかと思いまして」
「ふむ。それならばこのハンマーが良いだろう。この店で最も軽いハンマーだ」
そう言って彼はハンマーをミティに渡した。
あれは確か、前回この武器屋に来た時に最初に試したハンマーだ。
先端部分が木でできている。
ウッドハンマーと名付けよう。
先端部分の大きさはミティの頭と同じくらいだ。
ミティが素振りをする。
少し風切り音が聞こえるレベルで振れている。
店主がそれを見て驚いている。
「さ、さすがはドワーフだな。ハンマーの中では最も軽いとはいえ、それなりの重量はある。普通はそんなにビュンビュン振り回したりはできないぞ」
やはりミティの腕力は規格外のようだ。
もともと高めだった上に、レベルアップでぐんぐん上昇。
さらに加護と腕力強化の補正まである。
腕力だけなら、今のミティに勝てる奴はあまりいないだろうな。
まあBランクとかAランクの冒険者にならばいるかもしれないが。
Bランク以上は化け物揃いだと、コーバッツやドレッドが言っていた。
確かな実力を持つCランク冒険者の彼らから見ても化け物。
いったいどれだけ強いんだ。
「で、どうするんだ?」
落ち着きを取り戻した店主が話しかけてきた。
うーん。
どうしようかな。
いくら軽いとはいえ、あんなにビュンビュン振り回すのを見ると、少し怖くなってきた。
無理をしてケガでもしたら大変だ。
俺が購入するか悩んでいると、店主は続けてこう言った。
「見た目は派手だが、重量がないから意外と威力は大したことないぞ。どうしても怖いなら、ボロ布でも巻いておけばいいんじゃないか? 多少は威力を落とすことができる」
ああ、それもそうだな。
ボロ布を巻いておけば、脳天に直撃でもしない限りは大丈夫そうだ。
購入を決意する。
ついでに俺が使う木剣も購入しよう。
ウッドハンマーと木剣、2つ合わせて金貨数枚。
決して安くはないが、価値のある買い物だと思う。
いつか対人の戦闘能力が必要とされるときもあるだろう。
山賊に襲われるとか。
本物のチンピラに絡まれるとか。
そういったときに上手く対処できるようにしておきたい。
武器が壊れたときの予備として普通の剣も買っておくべきか?
ゾルフ砦では武器屋とかがないかもしれない。
いや、砦というぐらいだから武器ぐらいはたくさんあるのか?
しばらく悩んだが、普通の剣は買わないことにした。
もし武器が壊れたら魔法をメインに戦えばいい。
木剣で最低限の牽制ぐらいはできるし。
それに、中級者用装備等一式で新しい剣が手に入る可能性もある。
店主にハンマーと木剣の代金を支払い、武器屋を後にする。
古着屋に行き、ボロ布を購入する。
北門から出て少し歩いたところに向かう。
兄貴に稽古をつけて頂いた場所だ。
それに、ミティの動きを確認したときにも使った場所でもある。
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