Desperado―デスペラード―

牛村ドミノ

第1話

いつもの路地裏でいつものように相棒を待つ。


「遅ぇなあのイヌッコロ…。」


しばらくすると向こうから相棒の灰褐色の毛並みが特徴の犬人族コボルトがだらしなく歩いてくるのが見えた。


「ワリ―ワリ―!オネーサン方が放してくれなくてよぉ。で、今日の稼ぎはどうだった?」


挨拶替わりに手を挙げ、稼ぎについて答える。


「遅ぇぞ…、稼ぎはまぁ、中々だな。中層で蚤の市があったから小金持ちがわんさか来てた。カモだったよ。で、そういうオメェはどうなんだペリペ?待たせた分稼ぎはいいんだろ?」


「ビミョー……。最後のオネーサン達が長引いちまってな。案内するはずが散々連れまわされた挙句、財布の紐は固ぇときた。アソんでそうな見た目のくせしてよぉ…。」


「遊びなれてるからこそだろ。けど、色んな意味で鼻が利くオメェが見抜けねぇなんてな。そういう"特殊技能スキル"でも持ってたのかねぇ。とにかく、俺は20金貨弱だ。オメェは?」


「…8金貨ちょい。合わせて30いくかいかねぇかか。分配はどうすんだ?今週分はもう溜まってんだろ?」


「20は来週にまわしてして残りは山分けだ。超過分を次にまわしてる事を気付かれるなよ。上納金アガリが増えちまうからな。」


「わぁってるよ。にしても1人5金貨かよ…、相変わらずシケてんな。」


「文句たれんな。カタギよりは稼げてんだろ。」


「捕まるリスク犯してコレだぜ?大体、アガリも多すぎんだよ。」


コイツの言う事も一理ある。

ここ最近要求されるアガリが増えてる。最初はのし上がる為に超過分を含めて納めていたから、そのせいかと思ったが、他のヤツらからも同じ様に吸い上げてるそうだから、それだけじゃなさそうだ。


「そういうのは飯食いながらしようぜ、いい加減ハラ減ったよ。」


「そういやオレも食ってねぇんだった…。んじゃ戻ろうぜアーサー?」


寝床の安宿に戻る途中、喋りまくってるペリペに適当に相槌を打ちながら考える。

コイツと組んでもう10年、出会いを含めればもっとだ。


――――両親が早逝し、持ち家と身ぐるみ全部引っぺがされて貧民街スラムに落ちてストリートチルドレンになった。残ったのはお袋譲りの金髪とブルーの瞳、親父から引き継いだ特殊技能スキルだけ。

残飯と雨水で飢えをしのぐ生活。唯一の娯楽は野良犬と遊ぶことだったが、ある日突然二足歩行になって喋り出したときは驚きすぎて腰を抜かした。聞けばそういう生態らしい。

それからだな、コイツと組んだのは。小金持ちや観光客相手にスリと道案内で日銭を稼いだ。

しばらくして、どっちから言い出したか"ビッグになってやろう"となり、裏を仕切ってるギャングに入り今に至る訳だが………――――


「………んでよその雑貨屋の店員がめちゃんこカワイくてよぉ、真っ白な毛並みに垂れた耳がもうサイコーでフェロモンもムンムンでよ…ってオイ聞いてんのかよ?」


「ハァ、隣で喋りまくられたらイヤでも聞こえんだろうが…。そんなにイイならテメェの特殊技能スキルでも使えばいいじゃねぇか。"一時的に心の距離を縮められる"んだろ?それ使ってイッパツ決めてこい。そうすりゃ隣で延々と同じ話を聞かされる俺の為にもなる。」


「バカヤロー!オメーそりゃあ"ズル"ってモンだろうが!恋愛ってのは一歩ずつ進んでくモンなんだよ!"ズル"はあっちゃイケねぇ。それに、オレはシゴト以外で特殊技能スキルは使わねぇって決めてんだ。」


「あーあーわぁったよ…。ホラもう着いたぜ?キゲン直せよ。」


そう言って、途端にキゲンが良くなったペリペと一緒に宿屋に入る。

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